【完結】勇者の末裔は推し配信者と共に最強へ至る 〜最弱勇者の成り上がり英雄譚〜
炭酸おん
第一章 動き出した運命
未来の勇者、推しに助けられる
第1話 勇者の末裔は引きこもり
目の前の魔物達に向かって、僕は剣を引き抜いて一閃する。
魔物達はその一撃で皆やられ、新たな魔物達が現れた。
「数が多いな……。でも、勝てる!」
一気に数を増やして僕を取り囲んだ魔物達を睨みつけながら、僕は特大の魔法を放つ。広範囲を一気に攻撃するこの魔法で、魔物達は一掃された。
やっぱり、所詮は雑魚魔物。次に出てくるボスが本番だ。
現れたボスはゴーレム。登場して早々、その巨体を活かした突進攻撃を仕掛けてくる。
「結構速いな……! 当たらないけどね!」
僕はそのタックルを軽々と避けて、反撃の魔法を放つ。
強大な魔法がその場を包み込んで、ゴーレムはうめき声を上げながら消滅した。
「よーし! 余裕の勝利!」
「イブキ! 入るわよ!」
僕がゴーレムを打ち倒したその瞬間だった。僕の部屋に母さんが入って来た。
「またゲームしてたのね……。外に出たくないのは分かるけど、少しは人と関わらないとダメよ? 貴方は勇者の一族―――
はぁ、またそれか。僕は何度目か分からない母さんのその台詞にうんざりしていた。
母さんは神威家としての誇りをかなり強く持っているようで、その歴史を何度も聞かされてきた。だから、気付かぬうちに歴史には詳しくなっていた。
僕達神威家の祖先は、二千年前に日本で起きた人間と魔物の魔導大戦で人間を勝利に導いた勇者のようで、その血筋を持つ神威家は英雄として称えられている。
……というのが母さんの話す武勇伝。だが実際は二千年も経った今では、神威家が勇者の末裔だという事を知る人は少ない。変に持ち上げられるのも嫌だったから、僕はこの事を人に言ったことは無い。
「そんなゲームのダンジョンばかりやってないで、実際のダンジョンに行って少しは鍛えてみたら良いんじゃない? 外の空気も吸えるし、それが良いと思うけど」
神威家の祖先は魔導大戦で魔王を倒し、魔物達を全国の結界の中に閉じ込めたのだとか。それが今やダンジョンと呼ばれるようになって、それを攻略することで生計を立てる人も現れた。
人の命を容易く奪える魔物がいるダンジョンに自ら突っ込んでいくなんて正気を疑うが、神威家もそれで生計を立ててきた一族だった。今は父さんがダンジョンを攻略して、僕達家族を養ってくれている。
「ダンジョンの魔物は人を簡単に殺せるんだよ? 母さんは僕が殺されても良いって言うの!?」
「貴方は勇者の血を引いてるのよ! 魔物なんかに簡単にやられない! だからほら、外に出てダンジョンに行ってみましょ!」
……全く、母さんはいつも僕に過度な期待を寄せてくる。僕は非力だ。高校でもいじめのターゲットにされるような奴だし、今ではこんな引きこもりにまで成り下がってしまった。体は棒のようにやせ細っていて、とても魔物と戦えるとは思えない。
こんな様だから、母さんに期待を寄せられるのが辛い。
でも、僕もいつかは父さんの後を継いで、ダンジョンで戦わなくてはいけないだろう。神威家は勇者の一族として、ダンジョンの安全を管理するために戦うことが義務付けられていた。
「……でも、今はまだ父さんが戦ってるから。僕はまだその時じゃないよ。いつかは筋トレとかも始めて、ダンジョンに行くのはある程度鍛えてからにするよ」
「そう……。心の回復も大事だけど、将来の事も考えて頑張ってよね」
母さんがそう言って、部屋を出ようとしたその時だった。
母さんのポケットに入っていたスマホがけたたましい音を鳴らす。誰かから電話がかかって来たみたいだ。
「はいもしもし。……はい、はい……、え?」
電話をする母さんの顔から段々と血の気が引いていく。胸騒ぎがした。何かとんでもない事が起きてしまったような。
「イブキ、父さんが!」
「父さん!? 一体どうしたの!?」
僕は不安を抑えきれなくなり、母さんの元へと詰め寄った。
もしかして、ダンジョンで魔物にやられた? 嫌だ。父さんと別れたくない。
「父さんが……、ギックリ腰でダンジョンの攻略ができなくなったって」
「……え?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「いやぁ、俺も歳だな。まさかギックリ腰で冒険者を引退することになるなんて」
そう言ったのは、病院のベッドに横たわる父さんだ。来年で五十歳を迎えるにも関わらず、その体は若手の冒険者にも劣らないほど筋骨隆々としていた。
「でも、魔物に殺されたとかじゃなくて本当に良かったよ……!」
僕は父さんの無事が嬉しくなり、父さんのベッドに顔をうずめて泣いた。
「ああ。心配かけて悪かったな」
父さんはそんな僕の頭を優しくなでてくれた。その手はこれまでの戦いで傷だらけになっていて、分厚く硬い手だった。でも、それは父さんがこれまで懸命に戦って来た勲章だ。魔物に臆することなく戦う父さんの姿は、僕の憧れでもあった。
「でもこの調子だと、これ以上冒険者を続けるのは厳しそうだな……。イブキに勇者の座を継承する時が来たのかもな……」
……え? 僕に勇者の座を継承?
それって僕がダンジョンで戦うって事? え?
「そうね……。こうなった以上、すぐにでもイブキに継いでもらうしかないわね。そういう訳でイブキ! 今からダンジョンに行って実践訓練よ!」
え? 本当に今からダンジョン行くの?
僕なんかすぐに死ぬに決まってる。嫌だ! 行きたくない! 部屋に戻りたい!
でも母さんにその願いは届かず、父さんにも行ってこいと言われて、僕はダンジョンにぶち込まれる事になってしまった……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
訪れたのは病院から最寄りのBランクダンジョンだった。
ダンジョンと冒険者はF~Sの七段階にランク分けされていて、冒険者は同じランクのダンジョンまでしか挑むことができない。
流石にいきなり僕一人でダンジョンに入れられるなんてことは無く、Bランク冒険者である神威家の執事に同伴する形でダンジョンに挑戦することになった。
「さあイブキさん。高校は途中で行かなくなったとはいえ、それまでで少し魔法は習っていたはずです。私の手本を見ながら、魔法を撃ってみてください!」
執事はそう言いながら風の魔法を放って、飛び掛かって来たゴブリンを一撃で仕留めてしまった。
……やっぱりゲームと本物は全然違う。実際にこの目で見る魔物はゲームよりも遥かに威圧感があった。本当に殺されないか心配になる。
僕も魔法を撃とうとしたが、やはりゲームのように上手くはいかず、そよ風が吹く程度だった。
「……うん、練習が必要ですね! 家に帰ったら猛特訓しましょう!」
これには流石の執事も苦笑いで、僕の才能の無さに絶望している様子がうかがえた。あー、やっぱり僕ダメなんだな。
……と、そんな話をしていた時だった。
僕はダンジョンの奥から迫る異様な気配を感じ取っていた。重い足音が響き渡り、その度にダンジョンの中が振動する。
姿を現したのは、三メートルはありそうな巨大なゴーレムだった。異常なまでに巨大化した体に加え、その目は邪悪に赤黒く輝いていた。
「まさか……、異変が起きたのか!?」
執事はそのゴーレムを見て、顔を真っ青にして震えていた。
ダンジョンでは極まれに、そのランクよりも強力な魔物が現れることがあるという話を聞いたことがあった。それを倒して難易度の調整をするのが、神威家の勇者やSランク冒険者の役割だ。
ゴーレムに睨みつけられ、僕も執事も動けなくなってしまう。その圧倒的な威圧感に、僕は本能的に死を覚悟した。
「やばい……! 殺される! イブキさん、逃げましょう!」
ついにその恐怖に耐えられなくなったのか、執事はダンジョンの出口に向かって走り出してしまった。
「ちょっと! 待って!」
僕も執事を追いかけようと走り出したが、恐怖で足が震えて転んでしまった。執事はもう先に行ってしまっていて、僕には気づいていない様子だった。
重い足音が響き渡り、気付けばゴーレムが僕を見下ろしていた。あまりの恐怖に、僕は動けなくなってしまう。
動け。動け動け動け。
僕は自分に必死に言い聞かせた。
本当なら、僕がこのゴーレムを倒してダンジョンの調和を保たなくてはならない。それが、神威家の勇者の役割だから。
僕は弱い。だから、父さんのようにはできない。でも、それでも諦めたくはなかった。どうせ殺されるなら、足掻けるだけ足掻いてからにしろ!
「ウィンドバースト!」
僕は一か八か、全身全霊の魔法を放った。
頼む、これで倒れてくれ!
―――だが、現実はそう甘くはなかった。
僕の渾身の魔法は、ただの風にしかならなかった。ゴーレムは揺らぎもしていなかった。
―――やっぱり、僕は駄目なんだな。父さん、母さん、ごめん。僕、勇者にはなれなかった。
迫りくるゴーレムの拳を前にして、僕は死を覚悟する。
「スカルブレイジング!」
そんな声が突然、ダンジョンの中に響いた。
次の瞬間、ゴーレムの背後から大量の骸骨の形をした魔法が飛んできて、ゴーレムを粉々に砕いていった。
僕は救われたみたいだが、あまりに唐突な事態に頭が追い付かなかった。
「良かった~。ひとまずは無事みたいだね」
倒れるゴーレムの背後から、先程の魔法を放ったであろう人物が姿を現した。
巨大な鎌を手に持ち、青を基調とした暗めの冒険服に身を包んだ女性だった。
―――そして、その女性の傍らには配信用のカメラが。
……あれ、これもしかして配信されてる?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
新連載です! よろしくお願いします!
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