告白

 菅野さんは、ボクに対して嫌いだと言った。

 考えてみると、それって本当なのかな、と疑ってしまう。


 考えれば考えるほど謎だけど。

 本当に嫌がる事って、一度もされてない気がする。


 このままじゃ埒が明かない。

 ボクはイチかバチかの賭けに出た。


「菅野さん。悪いけど、今すぐ、その画像を消してくれないかな?」

「やだ」

「分からないなぁ。菅野さん。君は今、常軌を逸した行動に出たんだぜ?」


 指を突き付け、ボクは全裸で表情を引き締めた。

 すると、イラっときたのか。

 菅野さんがボクの指を握り、逆方向に捻じってくる。


「いでででで!」

「何がおかしいんだよ」

「考えてみてくれ。そもそも、今ボクのケツを撮ったんだ。誰も得しない、このケツをね!」


 パチン。

 自前のケツを叩き、ボクはある事実を突き付けた。


「菅野さん。いい加減、話してくれ。ボクらはここで死ぬわけにはいかないだろ」

「……何を話せば……」

「確信したよ。菅野さんが、ボクを撮る理由だ」


 あからさまに、菅野さんの顔が引き攣った。

 表情を見て、ますます確信する。

 この言いたくない事実こそが、恥ずかしい秘密なのだ。


 撮られてるボクの方が裸で、本来は恥ずかしいはずなのに。


「答えてくれ。どうして、菅野さんはボクを撮った写真なんて保存してるんだ!」


 生まれたままの姿で、両腕を広げる。

 決して下は見ずに、菅野さんは腕を組み、ボクを睨んできた。


「協力してくれ。出よう! 笑わないから! お願いします!」


 全身全霊を込めて、ボクはその場に土下座をした。


「……」


 気まずい沈黙が流れる。

 菅野さんのくるぶし辺りを見つめて、待つこと数分。

 諦めたように、ようやく息を漏らす音が聞こえた。


「…………なん……だよ」

「はぁぇ?」

「キモいの。……好きなんだよ」

「――お」


 心臓が止まるかと思った。

 ブス専ならぬ、何とやら。

 菅野さんは苦虫を噛み潰したような顔で、そっぽを向く。


「アタシだけじゃないよ。他のみんなもそう。ブルドック好きな感覚と同じ。山田は気持ち悪くて。最悪だし。生きてるだけで女の敵って感じじゃん?」

「あの、それ以上は、息が吸えないので……」


 存在を否定されたら、いよいよボクは生命線がなくなる。

 いや、もはや消失してるか。

 心臓を押さえて、菅野さんの声に耳を澄ませた。


「でも、イジメればイジメるほど。完成されていくっていうか。気持ち悪すぎて、……無理なんだよね」

「あれ? 今、恥ずかしい告白ですよね? 口撃こうげきじゃないですよね?」


 後頭部を掻き、菅野さんは机に座る。


「ウチらは、そういう気持ち悪いのが好きで。集まった仲間なんだ」


 話を聞くに、こうだ。

 菅野さんを始めとした、周囲の取り巻き連中は全員『気持ち悪い物が大好き』な女の子達らしい。


 だけど、趣味が趣味なので、理解されることはない。

 だからこそ、菅野さんや他の取り巻きにとって、特別な友情関係があるのだそうだ。


 集合体恐怖症が発狂するような、ブツブツとした気持ち悪さ。

 蛇の腹。ブルドックの顔面。

 そして、ボクの存在。


 みんなには、涎物だそうだ。

 話を聞いたボクは精神的に追い詰められ、過呼吸になっていた。


「アタシは、気持ち悪いものが

「ハァ、ハァ、……んっ、ぐっ」

「気持ち悪くて。って思っちゃうような、山田が可愛くて仕方ないんだよ」

「おえぇ、げっほ、こほっ」


 パシャ、パシャ。

 本気でえずいている所を何度も撮られた。

 悲しそうな顔をしているのに、体は正直だった。


 菅野さんが正直に告白をした直後。

 教室の扉から、鍵の開く音がした。


 残されたボクは、殴られたわけではないのに満身創痍まんしんそうい

 菅野さんは何も言わずに窓を見つめている。

 切なそうに細める目が何を見ているのか。

 ボクには分からないけど、一つ言えることがある。


「ハァ、ハァ、ふ、服、着ないと……」


 鍵が開いたという事は、いつ他の生徒が来るか分からない。

 ボクは四つん這いで移動して、自分の服を掴むのだった。

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