扉以外に開いたもの

 二度目の密室から生還し、数日後。


「山田ぁ。来い」

「ね。あの話マジなの?」

「マジ。こいつ、もう奴隷だから」

「くすっ。元々じゃん?」


 ――増えた。

 教室から連れ出され、誰もいない体育倉庫に向かう。

 菅野さんはウキウキとした様子。

 取り巻きの連中まで同行する事になったのだ。


 実は、SNSのアカウントにて、菅野さんの暴露が全世界に広まった。

 これがバズったわけだ。


 反応は、こんな感じ。


『分かるわぁ。オレも言えない秘密あるもん』

『可哀そうだろ! まあ、ボキも恥ずかしい秘密あるけどさ』

『キモいとか言ってるコメあったけど。だったら、お前ら恥ずかしくない生き方してんのかよ、って感じ。あ、ブルドックはウチも好き』


 あえて、言わせてもらおう。

 日本ってこういうところあるよな?

 良くも悪くも、こんな感じだよな。


 絶対に意外な反応寄こすんだよ。


 叩くコメの方が少なかったくらいだ。

 むしろ、擁護するコメントや共感するコメントが多かった。


 菅野さんも、SNSはチェックしてたみたいだった。

 翌日には早速呼び出され、取り巻きの前で「こいつに全部話した」と正直に打ち明けたわけだ。


 その結果、「全員で可愛がろうぜ」という事になった。


 *


 体育倉庫にて、ボクはフリフリの服を着せられた。

 鏡を見なくても分かる、自分の気持ち悪さ。

 絶対に誰も得しない。


「う、わ。ヤバ! キモ!」

「あの、それ、褒め言葉じゃないですからね。傷つきますからね」

「ダブルピースして」

「……はい」


 ボクがダブルピースをすると、女子がキャピキャピと黄色い声を上げる。


「きも~~~~~いっ!」

「ひゃあああ! 鳥肌立った!」


 みんなが満面の笑みで、小さく跳ねた。

 まるで、色恋が成就した乙女のようである。


 菅野さんがスマホをチェックしながら言った。


「ま、山田には感謝してるよ」


 目だけをこっちに向けた。


「アタシ達、結構息苦しい思いしてたしさ」

「そうそう。ストレスやばかったんだから」

「でも、山田が全部引き受けてくれるって聞いて。メッチャ嬉しかったわ」


 言葉だけ聞くと分からない。

 でも、菅野さんを含めた4人の顔を見ると、本当に楽しそうだった。

 邪気なんてない。


「……なんか」


 密室に閉じ込められて、ボク達は強制的に指示をクリアさせられただけ。でも、不思議な事に気づいた。


 指示をクリアするたびに、菅野さんとの距離が縮まったり、ボクの見ている世界が広がった気がするのだ。


 指示をクリアしないと出られない。

 強制力の前に、抵抗を覚える人は多いと思う。

 でも、指示をこなして開いたのは、扉の入口だけではない気がするのだ。


 上手く言えないけど、ボクと菅野さんの中にある、もやもやとした何かが晴れている気がする。

 心の鍵が開かれたっていうか。

 確かな変化を与えてくれた。


「よし。Yの字!」

「無理っスよ!」

「恥ずかしがんなよ」

「いやいや、違いますって! 上がらないですって!」


 取り巻き達が顔を見合わせ、ボクに近づいてくる。


「手伝ってやるよ」

「ウチ頭持つね」


 片足を女子の肩に乗せる。

 そして、頭は小さな膨らみに密着。


 控えめに言って、とても幸せだった。


「うし。ピース」


 パシャ。


 頭が蕩けて、訳が分からなかった。

 けど、スマホを見た菅野さんは、にっと笑って満足そうだった。


「好きなことやるのが一番だわ」


 菅野さんは、心から楽しそうに言った。

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ギャルと一緒に×××しないと出られない部屋 烏目 ヒツキ @hitsuki333

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