こうして、閉じ込められた

 部室棟の三階。

 その突き当りにある部屋に、菅野さんはいる。


 部活をやってるわけでもないのに、部室棟を訪れるのは気が引ける。

 だけど、呼び出しがあっては向かわなくてはいけない。

 奴隷根性まっしぐらでやってきたボクは、三階の突き当りの部屋までやってきた。


「っかしいなぁ」


 しかし、ここで変な事があった。

 上手くは言えないけど、違和感がある。


「部屋の数、多くないかな」


 部屋の数なんて、いちいち数えていない。

 だから、正確な部屋数は把握していないけど。

 階段を上がって、いつもより随分と奥まで足を運んだ気がする。


 部室棟の窓から、学校の裏にある雑木林が目につく。

 ボクが違和感を抱いたのは、この景色だった。

 雑木と下にある小屋の赤い屋根が、重なるようにして見えるのだ。


 本来、小屋の裏側は見えないはずだった。

 なのに、今日は見えているのだ。


「う、うぅん」


 窓に映った自分を見つめる。

 仏像顔の小デブがそこにいた。

 相変わらずのブサメンだ。


 食われる五秒前の豚って感じか。


 悩んでいても仕方ないので、ボクはいつも通り、奥の部屋を開けた。


 カチャ。


 中に入ると、また違和感があった。

 見覚えのない模様をした壁がある。

 一度、部屋を出て、どこの部室かチェック。


 表札は真っ白。

 物置だ。


 首を傾げて、中に入る。


「こんなん、あったっけ?」


 そう言って、ボクは中でもう一度振り返った。

 見覚えのないパネルが扉の上にはあり、『キスをすること』と書いてある。


「誰のイタズラだよ。怒られるぞ」


 ××しないと出られない部屋。

 ネット上では、イラストのタグなどでよく見かける。


 文字通り、ある事をしないと部屋から出られない密室空間のことを意味する。


 部屋は暴れても、何をしても、壊すことはできない。

 だが、脱出ゲームとは違い、出る事は容易。

 それが、部屋のどこかにある、指示に従うだけ。


 簡単に言えば、デスゲームのデスの部分をごっそり削ったバージョンだ。


 ボクがパネルを見ていると、部屋の奥からは声が聞こえた。


「待った! おい! 扉支えろ!」

「え⁉」


 パタン。


 ちょうど、扉が独りでに閉まった。

 角から姿を現したのは、ボクを待っていた菅野さん。

 かなり焦った様子で、手を伸ばしていた。


「お前さあああああ!」

「な、何ですか⁉ ボク、今来たばかりですよ!」

「そうじゃなくて! この部屋変なんだよ!」


 見たこともない顔だった。

 普段は邪悪な笑みを浮かべるギャルの菅野さんが、今は引き攣った表情で、両手を振り回していた。


「お、落ち着いてください!」

「バカ! ウチら閉じ込められたんだぞ!」

「え⁉」


 額を押さえて、菅野さんがしゃがみ込む。


「スマホの電波届かないんだよ」


 言われてからスマホを確認。

 画面上部には、『ご利用になれません』と文字が浮かんでいる。

 ブラウザを開いて、適当に検索するが、繋がらない。

 動画サイトもダメ。


「うわ、終わったぁ」

「へ、部屋の中を探してみましょうよ」

「もう探したよ」

「見落としている何かがあるかも」


 そんなわけで、ボクらは密室に閉じ込められたのだ。

 部屋を出るには、『キスをすること』以外にない。


 天国なのか。

 地獄なのか。


 まあ、ボクの場合、どっちとも言える。

 できれば、推しのアイドルとキスをしたい願望が強いのだけど。


「終わったアアアアア!」

「大丈夫ですって。誰か来ますから!」


 菅野さんは、精神的に参っている様子だった。

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