菅野さんの秘密1

 まずは、ヒントを得るために、菅野さんのスマホを見せてもらうことにした。


「見せる必要ある?」

「だって、菅野さん。ボクをイジメる時、たまにスマホで撮ってくるじゃないですか」

「あれは……」


 一枚や二枚だけじゃない。

 動画だって、ありったけ撮ってきた。

 ぶっちゃけ、空き容量どうなったんだろう、って気になってるほどだ。


 スマホの中にある、アルバムのアプリをタップする。

 中身を見て、ボクは驚愕した。

 ていうか、驚きのあまり、一瞬頭が真っ白になった。


「あの……」

「んだよ」

「ボクの写真しかないんですけど」


 そう。

 中には、数枚だけ友達と映った写真が保存されている。

 100枚の内、10枚は友人だろう。

 残り90枚が、ボクの写真なのだ。


「……別にいいだろ」


 映ってるボクは、全裸で股を開けっぴろげにして、アホなポーズを取ってる。初めは恥ずかしがっていたが、徐々に全裸であることに慣れてしまい、菅野さんのリクエストに応えまくった記憶がある。


 女豹めひょうのポーズを取り、後ろから撮影もされた。


 写真だけ見れば情けない姿。

 でも、保存しておく価値はない。


 恐る恐る菅野さんの方を見ると、彼女は顔を逸らした。


「え、なんで?」

「ネタ」

「いやいやいや」

「ネタだって!」


 おかしい。

 何か、おかしいぞ。


 雰囲気だけではない。

 本格的にボク達の関係は、ミステリー化してきたのを確信した。


「な、何で、裸の写真保存してるんです?」

「しつこい。ネタだって。それ以外ある?」


 そう言われると、確かにネタ以外には思いつかない。

 容姿が優れてるなら、「オレのこと好きなんじゃね?」とか、殴りたくなる勘違い劇を繰り広げるが、ボクはそうじゃない。


 だって、そうだったら、即刻付き合うし、エッチをするに決まってる。


「ど、動画は……」

「もういいだろ!」

「お願いします! 菅野さんを知るために必要なんです!」

「何で、アタシだけ一方的に知られるんだよ!」


 いや、菅野さん、絶対に恥ずかしいこと言ってないじゃん。

 深部が見えないんだよ。


 ムービーファイルを開くと、そこに保存されていたのは、アルバムの中で見た光景と同じ。

 ボクの動画ばかりだった。


「裸で盆踊り。え、テイク1からテイク14まで保存されてる」

「頑張ったからな」

「あ、ありがとうございます。いや、そうじゃなくて、保存しなくてもいいでしょ!」


 当然、誰も得しないボクの尻や股間が映っているわけだ。

 ボクは考えた。


 ――こんなにボクの事を保存してるということは、してるんじゃないか?


 不思議と、菅野さんはいじめっ子だけど、誰かにこういうのを売ったりとか、ネットに上げたりとか、そういうのはしないと思っている。


 というのも、菅野さんは陰口を叩くタイプじゃない。

 気に入らない事があれば、「むかつくから殺すわ」と、直接殴ってくるタイプだ。


 爆乳をからかわれて、イラついた際、その男子の頭に花瓶を落としたこともある実力派である。


「ぼ、ボクの写真とかで、……何かしてます?」


 青い目を覗き込むと、反応があった。

 菅野さんはジロっとした目で睨んだ後、別の方を向いた。


「するわけねえだろ。気持ち悪いんだよ。豚。仏像」

「最後のは、男子にも言われます。徳がない仏像って」


 生臭坊主とも言われたことがある。

 ボクは追及をするために、菅野さんの前に立つ。

 お尻の両側に手を突き、前のめりになって、菅野さんの顔を覗き込んだ。


 だって、おかしいんだもん。


 菅野さんは、何も言わずに横を向いてしまった。

 こうなると、いよいよ何も喋らなくなるだろう。


 まさか、自分の人生でこんな駆け引きがあるとは思わなかった。

 自分から動いて、アプローチしないと、何も進展しない。

 人生で応用が利くだろう、重要な資質をこんな場所で鍛える羽目になるなんて。


「もう一度、聞きますけど。何で、ボクの写真とか保存してるんです?」


 笑ったら殴られる。

 だから、ニヤケない。

 ちょっとくらいは意識してくれてるのかな、とか気持ち悪い勘違いをしている部分はある。だって、嬉しいし。


 でも、それだけじゃないだろう。


「言っとくけど。から」

「へー。……なるほどね。――え⁉ 他の人もっスか⁉」


 シェアしてんじゃん。


「こんな面白い動画消すわけないだろ。PC保存してるわ」


 追及ってしてみるものだ。

 質問すればするほど。

 相手が答えるたびに、新情報が出てくる。


「菅野さん。パソコン弄るんですね。い、意外過ぎる……」

「普通だろ。つか、PC持ってない奴いんの?」

「いないですね。……たぶん」

「アタシばっかじゃ不公平だろ。山田の秘密も教えろよ」

「何でもどうぞ」


 ボクは恥じない。

 だって、生きてるだけで恥なんだもん。


「おまえさぁ。アタシとか、他の奴の胸とかばっか見てんじゃん。家でオナってんの?」


 たぶん、ボクを困らせるつもりで言った質問だ。

 本人も聞くのは躊躇いがあるようで、若干頬が赤かった。

 しかも、口端が引き攣っていた。


 ニヤケているはずの表情が、ぎこちなかった。


「さっきも答えましたけど。毎日、マスターベーションしてます。生で見たいと思ってます。良い匂いするし。ムチムチしてるし。可愛いし。こんな彼女欲し――」

「いい! もういい!」


 まさかのギブアップ宣言だった。

 ボクは、もう何も恐れない。

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