消えた部屋と謎

 放課後。

 ボクは友人の高島たかしま家にお邪魔していた。


 高島は、唯一の友人。

 趣味はボクと同じで、アニメやゲームなど。

 周囲からは「きしょ系王子」と言われている。


 身長だけ見れば、ボクなんかより背が高いので、スラリとした体型。

 ただ、常に顔が引き攣っているギョロ目のノッポなので、周りは怖がる時がある。


「ほぇ~、すっげ。あの菅野さんとキスしたん?」

「まあね。ブチュキスだったよ」


 ベッドに座り、漫画の最新刊を読みながらボクらは談笑した。

 高島は一生懸命になって、フィギュアに自作のハイレグを履かせようと躍起やっきになっていた。


「でも、指示をクリアしないと出られない部屋って、ほんとにあるんだ」

「あれ、なんだろうな。マジで意味分かんねえ」


 実は、今日の放課後。

 高島と合流する前に、もう一度部室棟の三階に行ってみたのだ。

 やはり、部屋数が一つだけ少なくなっていた。

 突き当りの物置に行ってみたら、使われなくなった机や機材など、埃を被ったままの状態で放置されていた。


 名称に困るけど、例の部屋はなかったのだ。


「エロいのだと、エッチしないと出られない部屋だもんね」

「ああ。ボクもそれを期待してた。……まあ、さすがに殺されそうだから、妄想だけでいいけど」


 何で、あの部屋が現れたのか。

 何か条件があったのか。


 考えれば考えるほど、謎が深まっていく。

 もはや、都市伝説の領域だ。


「でもさぁ。デスゲームじゃなくてよかったね」

「不穏な事いうなよ」

「だって、密室なんて大きく分けて2パターンあるじゃん。エロいか、グロいか。ふふ。ボキは断然、エロい方だけどね。キチキチキチキチっ!」


 ちなみに、「キチキチ」とは、高島特有の笑い声だ。

 女子からは気持ち悪がられること待ったなしの癖だ。


「超常的な現象っぽいし。気を付けた方がいいよ」

「ん? なんで?」

「だって、超常現象って、意思を持ったように特定の人に目をつけるじゃないか。キチキチ! だから、一度ある事は二度あるかもね」

「なあ、高島」

「なんだい?」

「気になってたんだけど。お前、首ん所、痣できてないか?」


 ボクは高島の長い首筋にできた青あざに注目した。

 ボクが言うと、高島は暗い顔で言った。


「女子に笑うなって言われた」

「殴られたのか?」

「うん。ウチの学校って、なんか怖い女子多いよね。ブスなんて一人もいないくらい、顔面偏差値高いじゃん。でも、中身は肉食獣っていうか。怖いよねぇ」


 高島の言う通り、ボクの通ってる学校は恐ろしく容姿端麗な人が多い。

 言い方は悪いが、本当に微妙なレベルの子が一人もいないのだ。

 菅野さんが良い例か。

 中身は不良だけど、本当に可愛い顔立ち。


 発育の良い人も多いし、菅野さんもかなり出る所は出ている体型なので、男子達は顔より体に注目していた。


 女子には悪いが、魅力的な人が目の前にいると、やはり見てしまうのだ。


「ぼ、ボキも、閉じ込められたいな。あ、……そういえば」


 何かを思い出したように顔を上げ、摘まんでいたハイレグの生地を引き裂いてしまう。


「最近さ。SNSに、変な動画がアップされるようになったんだよ」

「いつものことだろ」

「いや。ほんと、トレンドに上がっててさ。びっくりしたよ」


 引き千切ったハイレグを見て、一瞬だけ悲しみに満ちた顔を浮かべる高島。生地を離し、自分のスマホを手に取ると、何やら操作し始めた。


「これ」


 SNSを開き、画面を見せてくる。

 高島が見せてきたのは、ただのエロ動画だった。


「お前さぁ。ムラムラしちゃうだろ!」

「いや、違うんだよ! ほら。これ」


 高島が見せてきたのは、動画に対するコメントだった。


『どっから盗撮してんだよ』

『通報したけど対応してくれない』

『オレの友達映ってんだけど……』


 などなど。

 どうやら、盗撮した映像らしい。

 コメント欄が荒れているということは、もちろん許可は取っていないし、盗撮風に作ったものではないということだ。


「ん?」


 ボクは二人の男女が絡み合う姿を中心に、背景に注目した。

 ベッドがあり、向かいにテレビがある。

 ベッドの隣には、化粧台。

 出入口の扉は見えないが、そこに繋がる廊下は少しだけ見えている。


 モダン風の落ち着いた部屋を見て、ボクは手が震えた。


「これ……」

「どうしたんだい?」

「……ボク、いた部屋だ」


 ボクのいた部屋は、盗撮されていた。

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