恥部

 恥ずかしい事を告白。

 机に座って考える事、一時間が経過。

 時計を見ても、針は全く動かない。


「なあ。どうすんの? 言えばいいの?」

「うん。そうだね。じゃあ、言わせてもらうよ」


 ボクは隣の席に座った菅野さんへ正直に告白する。


「実は、菅野さんのお尻の感触に興奮しすぎて、マスターベーションのおかずにしました。すいませんでした」

「気持ち悪いんだよ!」


 ガンッ。


 机を蹴られ、巻き添えを食らったボクは床に転がる。

 ボクだって、こんな人間としてどうかと思う告白をして、無傷なわけがない。半ば自棄で告白したのだから、ずっと眉間に力がこもってる。


「おま、ほんっと最低だな」

「仕方ないじゃないか。……菅野さん。すっごい怖いけど。美人でスタイル良いんだから」


 推しのアイドルだけを考えようとしていたのに。

 頭の中をちらつく、発育の良い尻。

 男とは違って外側に盛り上がった魔の果実は、確実にボクの理性を蝕んでいた。


「……ていうかさ。それが恥ずかしい告白なの?」

「実を言うと、ボク生きてること自体が恥ずかしいものでして。何から何までが恥ずかしいのか全く分からないんですよ。恥しかないですもん」


 生涯、黒歴史。

 ボクの人生を一言でまとめるなら、それしか言葉が浮かばない。


 3歳で床に股間を擦り付けるという、特殊なマスターベーションを身に着けた事か。

 それとも、先生の事を母親と勘違いして、「クソババア」と呼び、職員室に呼ばれた事か。


 考えても、出てくるのは恥ばかり。

 必死に考えた末、菅野さんに関連する恥ずかしい話をすることにしたのだ。


「次、菅野さんの番で」

「ねえよ」

「はは。一つくらいはあるはずですよ」


 ボクは、いつもと違って、菅野さんにグイグイ迫った。

 前までの怖い一面しか知らなかったなら、話は変わった。

 今は、菅野さんの『女の部分』を見てしまい、可愛さを感じてしまっている。


 この人、意外と


「じゃあ、最近あった恥ずかしいことは?」

「……」


 頬杖を突いて、そっぽ向く菅野さん。

 ボクは回り込んで、顔を覗き込んだ。


「あ?」


 虎みたいな目で睨まれ、ボクは黒板の方を見た。


「前はキスをして、出たじゃないですか」

「お前、バカか? これ、どっかで盗撮されてるだろ」

「ああ⁉」

「……今頃、思い出したのかよ」


 てことは何か?

 ボクは全国に自分の恥部をさらけ出したってことかい?


「肉体的な接触がない分、まだマシですよ。ね。言ってください! 今日はプリ〇ュアの再放送なんです!」


 配信サイトでな。

 一時は期限か何かのせいで、配信サイトから姿を消した。

 だが、全国の大きなお友達が要望を出しまくったおかげで、再び配信されることになったのだ。


 別に今日は、なんて言わなくてもよかったが、こう言えば菅野さんは焦ってくれると思ったのだ。


「はいはい。……ほんと、キモいわ」

「いや、ちょ、ブルーをバカにしないでください!」

「知らねえよ!」


 ドスっ。


 腹を強めに殴られ、その場に蹲る。


「はぁ、うっ、うぅ、……はぁ、はぁ。ボクは、言ったのに。どうしてだよ。キスよりマシじゃ――」


 顔を上げた先に、何かが見えた。


「恥ずかしい告白って、言えないことだろうが」


 真っ白いカモシカのような足。

 ちなみに、カモシカの足は太い事を意味するが、この場合、ムチムチと言う意味でボクは使わせてもらおう。


 その間に、紫色の布地が見えたのだ。

 肉に食い込んでおり、レースのある生地は若干透けていた。


「……これは……」


 パンツだった。

 菅野さんは、見た目通りエグいパンツを履いている。


「恥ずかしいって、改めて言われてもなぁ」


 ボクは机の下に潜り込んだまま、肉の林に挟まれた一筋の希望を見つめる。仲の良い女子なんて、生まれてこの方できたことがない。


 そんなボクにとって、生のパンツは刺激が強すぎた。

 丈の短いミニスカートからは、近づけば近づくほど、良い匂いがしてくる。


「理想郷って、……ここにあったんだ」

「てめぇ!」


 ごりゅっ。


「ん”っ!」


 顎を膝で蹴られ、首筋から変な音がした。

 あまりの激痛にボクは立てなくなった。


「人間終わってんな! 何、パンツ覗いてんだよ!」

「いや、その、不可抗力で……」

「あー、キモい、キモい! お前、ほんっと嫌い!」

「……だって、いつまで経っても言ってくれないじゃないですか!」

「逆に聞くけど、山田は何であんなことを言ったんだよ」

「……いや、まあ、この状況なので。二人に関連するものかな、って」


 真面目に答えると、菅野さんは腕を組んで考える。


「関係するものあったかぁ?」


 机の下から這い出ると、「んー」と唸る菅野さんを見上げた。

 しばらくして、しかめっ面が急に真顔へ変わる。


「何か思いつきました?」


 菅野さんは口を噤み、首を傾げていた。


「思いついたんなら言いましょうよ。ボクも言ったんですから」

「っ、~~~~~~~~っ」


 ごにょごにょ、と何かを言った。


「へぁ? あんだって?」

「……どうしても、……言わないといけないのかよ」

「だって、扉から出れないですし」


 何だ。

 様子がおかしい。

 風邪でも引いたみたいに、顔が赤く染まる。

 歯を食いしばり、嫌そうに斜め下を睨む菅野さん。


 待つこと、数十分経過。


 菅野さんは、その場にしゃがみ込み、声を絞り出した。


「大っ嫌いな山田の、頭に、股が当たって……」

「え、はい」


 何のことだ?


「――……


 ボクは頭を抱えた。

 菅野さんは顔を両手で隠し、小刻みに震えていた。


 鍵は、まだ開かなかった。

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