ヒロシマ断章

　私は東北生まれ東北育ちですが、本作を読み、あの時代を生きた方々の歴史と想い、それを伝えて行く芸術の力強さを感じました。

　今も世界では戦争が続いておりますが、早く終戦することを願っています。

長年の、個人的懸案事項「ヒロシマ旅行」を、実行させ得るうってつけの作品でした。少し長めの時間を取って旅したくなりました。
作品の中で旅をしている「彼？」の像が、私の頭の中に浮かび上がってこないのは、壁の白い型のイメージに関係しているのでしょうか。

　僕はこの人の文章が非常に好きだ。簡潔で、とつとつと言葉少なに語る親父のような印象を受ける(そこには涙もあるかもしれない)。

　この文章のすべてが真実なのか、それとも脚色があるのかは僕の知る由もないが、そのすべてがこの文章の中に真実として存在する(そしてそれは我々に語りかける)。文章を貫く一貫性も素晴らしい。度々出てくるキノコの描写も文章中に我々をつなぎとめるかのようだ。
　広島市現代美術館の描写もすごく好い。以前、僕が訪れたときを(式場隆三郎の展示であったか)をありありと思い出させてくれた。

被爆、ときに胎内被爆に切り込む話は中々ありません。

児童被爆すら、禁忌とされ報道もされませんが題材として取り上げるのは素晴らしいですね。

放射性物質は長い時間や力の相移を受け、粒子の崩壊を起こさない限り、報道に限らず存在し…放射線を発します。

それはとても低い確率で、n→W‾=137Ba等に変化しようやく収まりますが自然には起こり得ない確率です。

その放射線が細胞を透過し抜けていくと細胞が破壊され、一定確率で細胞分裂されず不良細胞として癌になります。

それが胎児であっても起こる事ですね。
公に語られる事は無いだけに、このヒロシマ断章は貴重です。

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（159文字）

知識では戦争や原爆を習いますが、
実際に合わないと人間は本当に学習しません。
戦争を生き抜いた人が居なくなった時に
また戦争という引き金を引いてしまうのが
人間です。
そんなことを感じさせる。作品です。

『広島』でなく『ヒロシマ』と書けば、それは歴史的事件の現場。その事件をいかに伝えるでしょうか。散々言及される『風化』を避ける形で。

本作は現在の広島で『ヒロシマ』がいかに伝えられているのかを語ります。網羅的でなく多数の側面を飛び飛びに切り出して。ですから『断章』です。

事件当時の物は、原爆ドームは今もそびえていますが、多くは残っていません。事件を語るものは多くが後世に作られたもの。そこには解釈だけでなく創造も加わることを本作は教えます。しかし事件を偽る欺瞞ではありません。創造により後世の人の心中により正確な像を結ばせ得ることも教えます。

そして本作も『ヒロシマ』を伝える創造物が連なる大…続きを読む

語りべが減っている。
日本人は、知識として原爆を知っている。
日本人は、教科書で戦争を学んでいる。
語りべがいない。語りべが、いるようで、いない。

詩人・栗原貞子の「生ましめんかな」にいたる筆致が見事。

断章であるその構成も含めて、積み重ねられてきた歴史と、零れ落ちていく記憶と、実体験が。

語りべが減っている。

平和を、願います。