第5話 旦那様と一緒の夕食。
日が暮れた頃灯りを持ってきてくれたマリアに促されるまま廊下に出て食堂に向かう。
ふかふかの絨毯で覆われた床はヒールの靴より裸足で歩いた方がきもちよさそうだなぁとかおもいながらマリアにひたすらついていったセラフィーナ。
壁隅々まで複雑な彫刻が施された様子をながめながら、あらためてこのお屋敷の豪華さに驚いて。
どこかのホールの入り口のような大きな扉を両端に立った衛士のような装いの人がおもむろに開くと、シャンデリアの灯りが煌々と照らす食堂というにはあまりにも豪勢なお部屋が現れた。
まるでお城のダイニングホールだな。そんなふうに思いながら中に入ると中央の大きなテーブルの上座真ん中に旦那様が座ってらした。
(ああ、夕食はご一緒に頂くのね。少しは家族らしく扱ってくださるのかしら?)
旦那様はセラフィーナを一瞥すると、口もきくことなく手を振って着座するように促す。
大勢のメイドや侍従が周囲を取り囲む中、目の前の黒服の侍従がセラフィーナが座るべき椅子をすっと引いてくれた。
(ああ、ここに座ればいいのね)
元々10人以上が座れるような大きさのテーブルには白いクロスがかかっていて、奥の旦那様のちょうど対面の席にカトラリーが並べてある席がある。
「おはようございます旦那様」
スカートの裾をつまみそう軽く会釈しながら旦那様に挨拶し、
「ありがとうございます」
と、椅子を引いてくれた侍従にお礼を言って席に着く。
するとそのままメイドたちの給仕が始まった。
最初に出てきたのは浅めのお皿によそわれたコンソメスープ。
具がいっさい入っていない、透き通った澄んだ琥珀色のそれ。光の加減では黄金色にも見える、宝石のような色合いで。
小さく手を合わせいただきますと呟いてから、スプーンで掬って口にする。
「美味しい!」
思わず声が漏れ出ていた。
コクがあるのにすっきりとして、そのやさしい味わいが口の中いっぱいに膨らんでいく。
雑味が全然なくってその旨味だけが凝縮されているようだ。
そう思わず声を上げたことで旦那様がちらっとこちらを見た。
(ああ、お食事中にこんな声をあげてはしたなかったかしら)
そう反省しつつごめんなさいって顔をして会釈する。
旦那様はすぐに目を逸らして何事もなかったような表情に戻っていた。
次に出てきたのはお魚のマリネ。
さっぱりとした酸味がお魚にしみわたって。
これもセラフィーナの好みの味だ。
添えてあるお野菜もとても美味しい。もうこれだけで晩御飯終わりでもいいなぁとか思ったけれど、並んでいるカトラリーからするとまだお食事が出てくるんだろうなぁと考えていたら、次はお肉料理だった。
ナイフを入れるとすっと切れるくらいに柔らかいそれは、甘辛く濃厚なソースがとてもお肉に合っていて。
(美味しすぎてほっぺたが落ちそう)
セラフィーナは始終ニコニコと微笑んで食事を楽しんでいた。
それでも、旦那様が驚いたようなお顔をしていらっしゃったからか。
(はしたない女だなとか思われていたんだろうけどしょうがないなぁ。だって本当に美味しいお食事だったんだもの)
そう消え入るような声で一人ごちた。
食後のデザートは甘いパフェ。
果物がいっぱい入ったそれもとても美味しくて。
(もしかしてこのお料理やデザートって旦那様の好みで選ばれているんだろうか? だとしたらなんだかとっても親近感。好きなもの好きなお味が一緒だなんて、なんだかとっても嬉しいな)
そんなふうに思ってい落ちきっていた好感度が少しだけ上向いてきた。
両手を合わせ「ご馳走様でした」と口に出すと、周りがちょっとだけざわつきすぐに静かになった。
貴族らしくなかったのかな? そうも思うけどもうあまり気にするのもやめて。
「とても美味しかったです。ご馳走様でした」
改めてそう笑顔を振り撒き旦那様や周囲の皆に挨拶すると、すくっと立ってそのまま一礼してお部屋に戻る。
「奥様は本当に美味しそうにお食事をなさいますねぇ」
部屋に着くと、一緒についてきてくれたマリアがそうしみじみ言った。
「あら、だって本当に美味しかったのですもの」
「それはそれは。厨房の皆も喜んでおりますよ」
「ならよかった。ちょっとはしたないって思われてないか、心配していたんですよ。これでも」
片目をとじちょっと小首を傾げて、ほおに手を当てる。
「入浴の準備をしてまいりますけれど、どうされますか? 大浴場もいつでもお使いいただけますよ?」
「ああ、それならお湯とタオルをいただける? 今夜はお部屋で身体を拭くだけにしておきますわ」
「わかりました。それでは少々お待ちくださいませ」
そういって部屋を出ていくマリア。
(そうかお風呂があるのかぁ)
大浴場っていう言葉にちょっと心が揺れたけど、今夜はその前に確かめておきたいこともあった。
(お風呂に入ったら寝ちゃいそうですしね)
さっき廊下から見たら月が昇り始めていた。それも満月? まんまるなお月様だったから。
ワゴンにタライをのせあたたかいお湯を運んできてくれたマリアに、あとは自分でするからと帰ってもらい。
まあせっかくのお湯だしと身体をさっと拭く。
使い終わったお湯はワゴンごと廊下に出しておけばいいとマリアは言い残していった。
あとは。
多分、自由な時間のはずだから……
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