第17話 ギアの化身。

「奥様、ああよかった。大丈夫ですか? 意識ははっきりしておられますか?」


「あ、マリア……。わたくし、どうして……」


 どうやらふかふかのベッドで寝かされているようだ。目の前には心配そうに覗き込むマリアのふくよかなお顔。

 起きあがろうとしたセラフィーナの手をとってマリア。


「ご無理はいけません。執務室で急にお倒れになった奥様を旦那様がここまで運んでくださったのです。もう少しそのまま横になってご自分のご様子を確認なさってからゆっくりと起き上がってくださいな。頭とか痛くありませんか? めまいがするようなら無理せずに」


「ああ、うん、ありがとうマリア」


 身体の調子は悪くない。頭ももうはっきりとしている。

 あれは……、夢、じゃない。

 あれはきっと現実にあったこと。

 今じゃない、未来。これからおこる現実だ。


 まだ全ての記憶が戻ったわけじゃない。

 生まれてから今までの記憶は断片的なものしかない状態。その時の感情なんかは思い出せない部分もあるから、正直自分がセラフィーナ本人であるのかだって、自信がないくらいだ。

 それよりも。

 魔女エメラだった時の記憶の方が強く思い出されている。

 原初の魔女。時空を司る魔女として生を受けた。ギア・エメラの化身として。神の御使の一柱として。

 


 はるか昔。

 神デウスはこの地にその使徒を残された。


 火のアーク。

 水のバアル。

 風のアウラ。

 土のオプス。


 これら四大元素の子らと。


 時のエメラ。

 漆黒のブラド。

 金のキュア。

 光のディン。


 これらの四大天使の子らを。



 物質の化学変化に干渉するアーク。

 物質の温度変化に干渉するバアル。

 空間の位相、位置エネルギーに干渉するアウラ。

 そして、それらの物質そのもの、この空間に物質を創造し生み出すことのできるオプス。


 時空を司るエメラ。

 漆黒の、闇、重力を司るブラド。

 全ての命の源。金のキュア。

 光の、エネルギーそのものを司る、ディン。


 これらの神の使徒を「ギア」という。


 普段は空間の隙間に住んで、人のマナに引き寄せられるようにして現れるそんなギア達。


 魔女エメラはそんなギアの化身、あまたに存在する神の使徒の一柱だったのだ。


 

 もちろん今は間違いなく人間ではある。

 この身体、セラフィーナとして生まれ変わったのは間違いがないから。

 そういう意味では少し人よりも魔法の力の強いだけの、ただの人だ。

 きっと、死んでしまえばまた大霊に還り輪廻の輪に戻るんだろう。


 だけれど。


 きっと、ルークが亡くなった時、心が暴走してエレナの権能が発動したのだ。

 そして、ここは2回目の世界。

 時空を逆行してやり直している世界なのだ、と。

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