第20話 鬼。

「見つけた!!」


 ルークの魔力の熾りを感じた。

 急に激しくなったそんな魔力の応酬。彼以外の魔力もある。それも人間離れした強力な魔力が。


 王都の西、ここからはかなり離れたそんな場所。

 今まさに大勢の人が争っているのがわかる。

 その中でもひときわ大きな魔力。純粋な魔素の塊のようなそれは、魔獣のようにも思えるけれどちょっと違う。魔獣にはない明確な意志を感じて。


(だめだ。今から空を飛んで向かったんじゃ間に合わない)


 あまりにも大きすぎるその敵の魔力にルークが押されているのだろう、頻繁に魔力が熾り、そして魔法が放たれているのだろうけれどそれらもみな弾かれてしまっているようで。


(ままよ! 迷ってる時間はないわ!)


 セラフィーナはギア・アウラとギア・エメラを融合し、時空間に干渉する。

 心の底からマナの手を伸ばしてルークのいる空間、その上空の隙間をつかみ。

 そしてぐるんと今いる空間とそれをひっくり返した。



 ♢ ♢ ♢


「氷結!!」


 ルークがその自身の最大魔法を放った!


 屋敷の中だと言うのに真っ白な吹雪が吹き荒れて目の前の鬼のような相手に向かう。

 彼らの傍には大勢の悪漢ども。兄が人質になっている。

 そして、ルークの周囲にも倒れ伏した数人の騎士。

 焼けこげた鎧の跡。ルークの魔法で消したんだろうけどそれでも重症なのは見て取れる。


「ふん、無駄だ」


 真っ赤な鬼。鬼人。大きな二本のツノが炎に包まれ、両手を掲げた場所にも炎がたちのぼる。

 それはルークの氷結を包み込み跳ね返し、そして氷と炎が混ざったブリザードとなって彼を襲った。


 ——ダメ!


 空中に転移しそのままルークの前に飛び込んだ。氷炎のブリザードから庇うように彼に抱きついて床に押し倒す。


 ドン!!


 壁に大穴を開けて消失するそのブリザードを確認して安堵して。


「良かった、旦那様が無事だった……」


 そう彼に抱きついたまま呟いた。




「セラフィーナ!」

 兄が叫ぶ声が聞こえる。


「セラフィ、どうしてここに……」

 ルークも驚いて。


(そうよね。それはそうだ。でも)


「話は後です。まずはあの鬼をなんとかしましょう」


「なんとかって」


「なんとかっていったらなんとかです! ルーク様はちょっと離れてて」


 そう言って立ち上がる。呆然としてしまってるルークを尻目にまず回復魔法を飛ばす。


「キュア!」


 周囲に金色の粒子が巻き上がり、騎士たちを包み込んだ。


「セラフィ!?」


(ああ、懐かしいな。セラフィって幼い頃に呼ばれていた愛称だ。ルーク様、わたしのこと覚えててくれたんだな)


 そんな感傷がよぎる。


「なんだお前は! どこから現れた!?」


「どこからって。そんなことどうでもいいでしょう! わたしは貴方を倒すためにここに来たんですから!」


 そういうとまずディン、光の矢を悪漢どもに向かって放つ。

 殺しはしない。感電させて動きを止めるだけ。

 周囲にいたのはまだ普通の人間だった。だから手加減。

 前回は怒りにまかせて魔法を放ったから、あのあとどうなったのかもわからない。それでも今回はさすがにまだ理性が残っているから。


 兄が自由になったのを確認して鬼の人に向き直る。


「さあ、あとは貴方だけよ」


「ふん、あんな雑魚どもと一緒にするなよ!」


 両手をブンと振り回し炎を撒き散らす鬼の人。

 目の前に飛んでくるものはひょいひょいと右手で払っていく。


「くそ! 化け物か!」


 そう言い放ち強大な魔力を熾す鬼。それを見て彼の周囲をアウラの壁で覆った。

 夜会の時と同じ要領では在るけれどあの時とは規模が違う。それでもまあ同じようなものだ。

 こんなところであんな大きな魔法を放たれたら屋敷ごと消滅しかねない。だからそれを防ぐ為に。


 そうとは知らずに大きく手を振りかぶるその鬼。その強大な爆炎はアウラの壁、次元の壁に阻まれてその鬼がいた空間だけを焼き尽くし、その鬼ごと消滅したのだった。




「セラフィ!」

「セラフィーナ!!」


「良かった。みんな無事、だった……」


 駆け寄ってきてくれた二人に抱えられるようにして、セラフィーナはそのまま意識を失った。

 今のこの身体でここまでの魔法を使った事がなかったから、その反動が出たのだろう。

 気が緩んだところで頭の芯がスーッと冷えていくような、そんな気がしていた——

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