第31話 古い記憶の底の猫。
クロネコの姿で小首をかしげ、可愛らしくおねだりをするその姿。
(うーん。どうしよっか)
この魔人、やっぱりだいぶんと強いのでと逡巡して。
最初は夢かとも思ったのだけどもそうじゃない。ここはセラフィーナの心の中。魂の世界。
そこでクロムと直接会話をしているのだ。
それにしても……。
よくよくクロムを観察すると、その一部はセラフィーナのマナと繋がっている?
まるで分身体の時のようにマナでできた廻廊が細く伸びてセラフィーナの魂の中心にまで伸びていた。
(話が通じるのも、わたしの影響を受けたっていうのも、みんなこれのおかげかも。なら逆に、いつでもここに戻すことができるってこと、かな?)
それならそれで安心でもある。
(それなら、ちょっとだけね?)
そう言うと、ゲートを開けて。
見えざる手でひょいと彼女を外の世界に出してあげた。
「にゃぁ」
ベッドの脇で、そんなふうに可愛く鳴くクロム。
「ほんとあんた普通の猫みたいね? かわいいわよ」
そういいながら撫でてあげる。
撫でると自分から頭を擦り付ける感じは昔エメラの時に飼っていた子猫ともよく似ている。
そういえばその時の子も黒猫だったっけ。
そう思い返す。
もしかしてこの子がこんな姿なのは自分のほとんど忘れてしまったくらいのそんな古い記憶の影響なのだろうか?
名前も思い出せないそんな黒猫の記憶。
それがこの子に投影されているというのだろうか?
だとしたら……。
そこまで考えてはっと気がついた。
魔族の外見は結局その精神が作り出すマトリクスにすぎないってことを。
(じゃぁやっぱり……)
セラフィーナの記憶の奥底にあったあの大昔の懐かしい黒猫のマトリクス。
それが……。
——あるじどのもやっぱり外見はコロコロ変わるんじゃない。人のことは言えないよね?
(え?)
——だけどワタシは貴女の魂の色が好きだよ。だからみかけはどんなに変わっても、気にしないことにするね。
目の前のクロネコのクロムから直接伝わってくるそんな意識。
それがなんだかとてもあたたかく懐かしい気持ちを呼び起こしていた。
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