第12話 【Side ルーク】エメラルドの瞳。

「大丈夫か?」


 そう声をかけるとはっとしたように見開くエメラルドの瞳。ホワイトシルバーの髪までがそれまでとちがった印象を思わせる。

 正直、第一印象は聞いていた噂通り、陰鬱な令嬢そのもので。

 伏目がちで自信のなさそうな表情に覆い被さる髪も、どこか薄暗く感じていたはずだった。

 それがどうしたというのだろう。

 今こうして肩を抱きのぞきこんだその顔からは、そんな陰鬱な雰囲気は全く感じられなかった。それよりもむしろ……。


「君は、身体が弱いのか?」


 ついつい疑いの目で彼女を見てしまう。さっきまでのは演技か? 彼女は私を騙していたのか?

 そんなふうに感じてしまい、言葉もキツくなっていくのがわかる。


「まあいい。私には関係がないか。君は私の仮初の妻の役割りを演じてくれさえすれば良いのだから」


 もう大丈夫と判断し、抱いていた肩から手を離す。そのまま一歩後ろに下がった私は彼女にに向き直り一瞥すると、


「——だから、これは契約による婚姻だ。私が君を愛する事はない」


 そう冷酷なイントネーションで言い放った。


 一瞬ぽかんとした顔でこちらを見る彼女。

 まさか、アルバートはこの結婚がどういうものか彼女にちゃんと話していなかったのか?

 まるでこれは全く知らなかったといった反応じゃないか。


 それでも。

 驚いてはいる様子だけれどそれについて怒るとかそういう反応が現れたわけで無く。


「わたくしは、どう過ごせばよいのでしょうか?」


 淡々とそう聞いてくる彼女。


「私に迷惑をかけなければそれでいい。ただし、外では必ず私の妻として装うこと。そのために必要な費用その他はセバスに言えばいい」


「夜の……おつとめは……」


「必要ない。ここは君だけの為に用意した寝室だ」


「旦那様、は?」


「私の寝室は隣だ。もちろん勝手に入るのは厳禁だ。私ももうここには足を踏み入れない。用があればセバスを通じて連絡をよこすように。いいな」


 そこまで言うとばっと振り向き、部屋を出ていく。


 彼女が理解をしたのなら問題はない。それ以上は私が考えても仕方ない。

 なんだか精神的に疲れた私は、そのまま隣の自室に戻ると今日のところは風呂にも入るのをやめそのまま寝てしまうことにした。服を脱ぎ捨てベッドに入る。

 この屋敷はもともと王室の持ち物だっただけあってだだっ広いけれど、必要以上には従業員を雇ってはいない。自分のことは自分でするといって私の世話を専属でするメイドも置いていないから気楽なものだ。

 日中の屋敷の管理は執事のセバス任せておけばなんとかなる。


 まあ、金が無いとはいっても贅沢をしなければやっていけるだけの収入は拝領した領地の税収でなんとかはなる。そういっても、この屋敷の管理だけでかなりの額が消えるわけだが。

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