無駄じゃなかったんだよな、あんな生活も

このエッセイは北海道の田舎での生活を描いたものだ。

自分の子供時代は作中ほど田舎ではなかったが、お世辞にも金がある家庭とはいえず、近所の家にはビデオデッキがあるというのに、自宅には電話も風呂もなく祖父宅の風呂は石炭で炊いてるという有様だった。

実益重視の釣りと家庭菜園によってやたら変わり映えしないメニューが続く食卓、干物作り、ホッケはかまぼこではなくツミレだったが。それに火の見える生活に、あの時代の木造ひらやのクソ寒い家。
作中には自分の経験と重なる部分が多々あった。

あの家は寝起きが本当に寒くて寒くて憂鬱で飯は腹を満たすのが第一で、不味いのか旨いのかいまいち覚えてないし、子供心に早く一日が終わって欲しいと思い続けた日々もある。断熱がクソすぎてつららで屋根と地面が繋がる。高校の頃はとにかく早く札幌に出たかった。

今はどうだ。

あんなに魚を食おうと思えば本州ほどでなくとも金がかかる。子供の足でも走っていけた海は少し遠い。夏に聴く虫の声は少ない。相変わらず毎日同じ飯でも平気だし、寝室で息を白くして凍えることはなくなったが。

あの頃の俺に、この作者の数分の一でも多感さがあったなら、あの生活の中にも美しいものが見えていたのだろうと、このエッセイは教えてくれる。

過ぎた今だからこそ、俺は他者の目を借りて、あの頃の故郷の風を知ることができる。

ありがとうございました。

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