これが千五百字にも満たないとは。
二人称小説は珍しい。一方でゲーム関係では何かと馴染みが深い。ゲームブックはまず二人称で書かれているし、TRPG 界隈でも似たような表現手法を見かけることがある。ハードが紙から PC やゲーム機、そしてスマホへと移っても、ユーザの体験を軸とするゲームにおいては二人称小説のエッセンスは息づいている。
俺はこの、二人称独特の誘い感とでも呼ぶべき感触がとても好きだ。ゲームをしていてそれを見つけた時、なんとも言いえぬときめきがある。
自分の選択がこれから世界に影響を及ぼす。だが、見えているものはほんの一端でしかなく、選択の先に未知が無限に広がっていることを示唆されるあの感触だ。
この作品の味わいもまさしくそれだった。
確かに、わかりやすい凄さや面白さとは異なるかもしれない。
人の脳内に何かを呼び起こさせる、原始的で純粋なまでの力。おそらく、俺はそれだけでも楽しいのだ。
時にこのような作品に出会うことで、言葉の集まりは俺にそのことを改めて認識させてくれる。そんな気がする。