スローライフは、延々と。

竹部 月子

スローライフは延々と。

 私の祖父は、北海道の小さな村の漁師だった。

 住んでいたのは、築五十年を超える木造の平屋で、風の強い岬の谷間に、根を張るように建っていた。

 手紙の宛名に村の名前さえ書けば、あとは名字だけで届くし、町まで行くバスは一日一往復。ファーストフード店はもちろん、コンビニエンスストアも無い。

 祖父母が住んでいたのは、そんな超ド田舎だ。


 祖父母の家は村の中でもさらにはずれの、海っぷちにあって、商店までは歩くと一時間以上離れている。

 村に一軒だけの商店は、雑貨と食品を置いているが、商品ラインナップも入荷数もかなりシビアに絞られている店だった。

「今、ちょうど切らしているのよ」というフレーズを、私はこの店で覚えた。


 祖父の釣ってきた魚と、自分の家の畑で採れる野菜で、日々の食事のほとんどをまかなっていたあの生活は「スローライフ」と言って差し支えないだろう。

 町で暮らしていた自分には、長期休みの度に訪れる祖父母の家の暮らしは、いつも物珍しく、記憶にかなり鮮明に残っている。


 そんな私が「スローライフって、どんな暮らし?」と聞かれたら、迷わずこう答える。

 

「延々と、終わるまでやる暮らしです」と。

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