第91話

鬼蛇穴組きさらぎぐみとは同盟関係で、D.U.S.Tダストからは新人を引き抜いて実質的な宣戦布告した大型新星ニュービーことサクたんね……。うふふっ」


 薄暗い部屋で数多のモニターからブルーライトが照射される中、とある女性が一つのモニターを見つめている。

 そこには、試験終了後にログアウトができずに困惑する咲太が映し出されていた。


地下空洞世界アンダーワールドの四天王の半分と関わりを持っているなら、ワタシたちもしなくちゃいけないよねぇ……」


 その女性がモニターに触れると、指先からみるみる粒子化してゆき、画面に吸い込まれていく。

 意識だけを電脳世界に入れるのではなく、体さえも入り込ませていたのだ。幻獣の電子鰻と同等の能力を行使していた彼女の正体は……。


「四天王が一柱――〝超電脳狂詩曲スーパーサイバーラプソディー〟がね……!!」


 ――ジジジジッ!


 そして、この場から姿を消し、完全に電脳世界へと入り込んだ……。



 # # #



 ログアウトができなくなってから数分後。

 駆動さんからの連絡なども途絶えてしまい、明らかな異常事態ということでうなぴにも動いてもらっている。

 だが、うなぴでさえここまで時間がかかっているということは、ただのバクなどではないかもしれない。


 そう考えた瞬間だった。


 ――ジ、ジジ……ジジジジッ!!


「ん?」


 足元が粒子化してゆき、どこかへ転送されそうになっている。なるようになれと抵抗も何もせず、僕の体は完全に粒子化してどこかへ転送される。

 そして、ゆっくりと目蓋を開けるとそこは別の世界だった。


「おぉ! 異世界転生ってこんな感じなのかなぁ!!」


 文明が微塵も感じられない大自然。屋久島の大杉くらいのサイズの木がそこら中に生えており、その葉の隙間にある空には月が三つ見えた。

 ぼーっと空を眺めていると、茂みの奥から何かが近づいてきている物音がする。ガサッと音を立てて僕の前に何かは現れたのだが、それは見知った顔だった。


「……あれ。さ、さくた……?」

「ルハ! 僕一人だと思ったから安心したよ〜〜!!」

「さくたっ!!」


 警戒しながら出てきたルハだったが、僕だとわかった瞬間に太い尻尾をゆらゆらと揺らしながら抱きついてくる。


「ルハ、なんでこんなところに飛ばされたか原因わかる?」

「わたしもわからない。探索者になるための試験で、仮想現実内で魔物討伐し終わったらここに飛ばされた」

「僕と同じような感じかぁ……」


 この場所に移動してからというもの、うなぴからの連絡が一切なくなっていた。さらに、〝鍵〟もこの場では使えなくなっているし、不安が募るばかりだ。

 とりあえず移動しようかと思い、ルハに言葉をかけようとしたところ、口を押さえられる。


「……わからないなら聞けばいいと思う。あからさまに知ってそうなやつに……ねっ!!」


 ――ヒュンッ!!


 ルハは目にも留まらぬ速さで懐から数本のクナイを取り出し、虚空に向かってそれを放った。

 クナイは通り過ぎて木に刺さる……ということはなく、何もない空間に弾かれて地面に落ちる。


「気配消すの下手くそすぎ。さっさと出てきたら?」

「――……気づくのが早いわね」


 空間が揺れたかと思えば、何もなかったはずの場所から人が現れた。

 サイバーパンク風な服を着てフードを被り、ヘッドホンを首にかけている灰色の髪と翡翠色の目を持つ女性だ。


「よりにもよってコイツか……!!」

「ルハ知り合いなの?」

「知り合いではないけど……有名なやつ。地下空洞世界アンダーワールドで秀でて強い四つの組織の内の一つに、超電脳狂詩曲スーパーサイバーラプソディーっていうのがある。それで、アイツはそのボス――〝彩芭さいばラプソディー〟」


 サイバー……つまりは電脳系で活躍している組織なのだろうか。それならばうなぴが苦戦しているのも納得できる。

 ルハは刀を抜いて臨戦態勢で、一触即発の状態だ。


「ふふっ、そう警戒しないでちょうだい?」

「何が目的。わたしたちを現実世界へ戻せ」

「ワタシはあなた……サクたんに挨拶しにきたのよ。どうせならってことで、この〝空論の迷宮ダンジョン〟に連れてきたってわけ」

「空論の迷宮ダンジョン……?」


 確か、この世界で物理的に進入不可なダンジョンがそう呼ばれているとかだったっけ。

 物理的には入れないなら精神だけ入れる……という力技で僕たちをここに招いたのだろうか。


「あなたたちはこのダンジョンをクリアしなければ、現実世界で死ぬことになるわよ?」

「お前……!!」

「それじゃ、ワタシは先に戻ってあなたたちを観察させてもらうわね」


 怒りを露わにするルハに対して、ひらひらと手を振ってこの場を立ち去ろうとする。腕を組み、このダンジョンから一足先に脱出する……ことはなく、ただ突っ立っているだけだった。

 よく見るとダラダラと汗をかいていて、バタフライ並みに目が泳いでいる。震えている手でスマホを取り出し、助けを求めはじめた。


「あ、もしもし? なんか出れなくなったのだけれど……。え、スケルツォ君が転送装置ぶっ壊した!? じゃあワタシは……『クリアして脱出しろ』? ちょ、助けに来るとかそういうのないの!? ワタシ一応ボスよね!!? ちょ」


 ツーッツーッという音だけがスマホから発せられており、虚しさが感じられる。

 彼女は少しうつむきながらこちらに近ずいてきて、ゆっくり姿勢を低くし、そして……。


「……さっきは調子乗ってごめんなさい。一緒に協力して欲しいです! 何だってするわ!! お願いしまぁぁす!!!」

「「えぇ……」」


 すごい組織のトップに当たる人とは思えないほどの言葉の羅列。そして何より、美術館にあっても違和感がないと思えるほど美しい土下座だった。



[あとがき]


カッコイイ系のお姉さんかと思いきや、陸○魔アルのようなおもしれー残念美少女ですw

ま〜た不憫枠が増えちまったなぁ!!(嬉)

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