第84話

 透明な膜を通り抜けると、そこは水中だった。比喩ではなく、本当に水中にいたのだ。

 先ほどの透明な膜のようなものを纏っており、問題なく呼吸はできているが、浮遊感があってとても楽しい。


「水槽の中に入れる水族館ってすごいですね!! お魚さんたちもゼロ距離で触れ合えるし……!!」

「えぇ、どうやらここから先は――はっ!? イソギンチャクに擬態してる子犬サイズのもふもふウミウシちゃん!! うへ、うへへ♡」

『ミィ〜〜!!』


 水中とは思えないほど機敏な動きでもふもふを捕え、抱きしめあげて堪能している天宮城さん。そして案の定嫌がるもふもふ。

 僕はもはや天宮城さんのこの行動には慣れているので、気にせずに魚さんたちと触れ合っている。


:まずい! ツッコミ役がいねェ!w

:あまみやちゃん自重しようよ……

:あいつ説明を放棄しやがったァ!!

:サクたんもお魚さんとおしゃべりなうww

:二人とも好き勝手やってて草

:※案件配信中です

:逆にこの二人を思い通りに動かせるとでもお思いでして?


 館長さん曰く、今は特殊な空気の膜を纏っていて水中でも呼吸ができるとのこと。そして、空気の膜は破れることはないらしいので、安心して進むことができる。

 今からどこかに攻め込むのかと勘違いされそうなほどの魚群を連れて進んでおり、中々壮観だ。


 そんな中、ここで働いている人らしき人がこちらに向かって泳いでいるのが見えた。


(くっくっく……サクたんを倒せなくてもいい。ただ〝俺がサクたんを襲おうとして魚どもが凶暴化する〟という事故を起こしてやるのさ!!)

「お疲れ様です! みんな良い子ですね〜」


 その人が勢いよく僕に向かってきてたのだが、次の瞬間、


 ――ゴォォォォッ!!!


 巨大な蛇のような魔物……シーサーペントがその人に飛びかかり、ぐるぐる巻きにしたかと思えば、ボールのように遊ばれでいた。


「すごい楽しそう! あまみやさん、あれはなんの行動なんですか!?」

「ん、え? あぁ、多分遊んでいるんじゃないかしら。ほら、あの人も楽しそうだし」

「ギャアアアアアアアア!?!?」


:断末魔みてぇだww

:体張って楽しさを伝えようとしてくれとる

:職員さんいつもお疲れ様やで

:楽しそうだな〜

:行ってみたくなってきた……

:あまみや、そろそろそのウミウシ離してやれ

:いつもは動物が離れてくらしいし、今だけは許してやろうぜ?


 合流してきたウミガメさんに乗せてもらいながら水族館を進んでいると、再び職員さんらしき人が待ち構えている。

 なんか魚たちが怖い表情をしている気がするけれど、まぁ僕の勘違いかな。


(アイツは失敗したか……。だがこのボクは失敗しないぞ。よし、昨日うちの拠点に襲撃したことをここで思い切り叫――)


 ――ガポッ。


「ムグッ!?」


 職員さんが何かを言おうとした途端、UFOのように発光しているメンダコが顔に覆いかぶさった。


「あ、あまみやさんあれ! 大丈夫なんですか!?」

「あれはホタルメンダコの求愛行動よ。人間相手にするなんて珍しいわね」

「そうなんですね。てっきり捕食されたかと思いました……」

「モガガモガガガー!(誰か助けてー!)」


:焦った〜……

危うく放送事故w

:サクたん以外にも求愛行動するんや

:愛されて飼育されるんだねぇ

:え、ここに行ったら触手プレイできるんですか!? はぁはぁ♡

:↑変態さんはお帰りください

:またのご利用はお待ちしておりません。


 さらに進み、また職員さんが現れる。


(バカな二人だ。この私は綿密な計画を立て、二人を水中でボキャボキャにする魔道具を持ち込んでき――)

『キュイ?』

『キュイキュイッ♪』

「あぁ!? ちょっ、私の魔道具ゥーー!!」


 銃の形をしてる掃除道具(?)を持っていた職員さんだが、イルカの群れがやってきてそれを掻っ攫っていった。

 そしてそれをキャッチボールしながら泳いで行き、職員さんはそれを追って奥へと消えてゆく。


「普通のイルカさんもいるんですね!」

「えぇ、そうみたいね。イルカちゃんも可愛い……」

「でも海行ったら普通に会えますよね?」

「それはサクたん君だけよ。羨ましい」


 その後も水族館を楽しみながら歩いていたのだが、そろそろ昼時ということもあってお腹の虫が鳴き始めた。

 どうやらこの水中にもレストランがあるらしいので、そこに向かうことに。


 少し歩いていると、お洒落な佇まいをしている建造物が見えた。中にもコックさんらしき人がいるし、あそこがレストランらしい。


(ケヒヒッ! シェフに変装しといてよかったぜ……これでサクたんの料理に下剤を入れて台無しにしてやるゥ!!)


 コックさんもすごいニッコリしてて活気があふれてそうだし、良いお店だなぁと感じた。


「サクたん君は何を食べたい?」

「そうですね……たまたまなんですけど、今はものすごくお寿s――むめっ」

「ダメよサクたん君。それをここで言ってしまったら……あー、遅かったみたいね」


 ――ギュオオオオオオッ!!


 天宮城さんが僕の口をパシッと塞いだかと思えば、呆れ混じりにため息を吐く。

 一体なんなんだろうと考えていたのだが、すぐさまそれを理解した。近くを泳いでいた魚さんたちが猛スピードで件のレストランに向かって一直線に向かって泳ぎ始めていたのだ。

 そして、


『『『『『グォオオオオ!!』』』』』

「えっ、オイオイオイオイ!! 俺ちゃんまだ中にいるんですけどぉおおおお!?!?」


 ――ドゴォオオオオンッ!!


 魚さんたちはレストランとコックさんに突撃してしまう。


「あぁーー!? ご、ごめんなさい!! 館長さんどうしましょう!?」


 焦った僕は館長さんに聞いたのだが、ちょいちょいと手招きされたので近づくと、耳元でボソボソと伝えられる。


「あ、どうやら大丈夫みたいです! レストランはダンジョンの一部で勝手に復元するし、コックさんは鍛えてるらしいです!!」

「中々すごい衝撃だったけれど……まぁ館長さんが言うなら大丈夫そうね」


:サクたん……言葉には気をつけろよ(ドンッ!)

:言葉一つで世界を動かせるんだぞ

:推し活ミミックに推し活ベジタブルに次ぐ者が現れたなww

:推 し 活 フ ィ ッ シ ュ

:まーた身を削る(物理)じゃんよ

:新鮮なお寿司だね!(白目)

:今まで愛でてたものを食うなんてやだよ……

:食べたいタイミング悪すぎw

:危ないねぇ〜〜

:やっぱサクたんの案件配信怖いよぉ……


 数分経ってレストランは元どおりに復元したのだが、店内で笑って待っていたコックさんはどうやら気絶してしまっていたらしい。

 悪いことしちゃったなぁ……。あとでちゃんと謝っておこう。



[あとがき]


気づかぬ間にみるみる消されて行く……。

あー可哀想にー(棒)

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