第62話

 ――咲太の深層攻略配信から数日が経過した。

 その間、シャドウファングの計画は着々と進み続けおり、第1段階に突入しようとしていた。


 シャドウファングのトップである牙狼がろうは広い自室にて、コツコツと机を指で叩きながら独り言をつぶやいている。


「どうやら、あいつの体質は直接的脅威に対して攻撃度が高まる。陰で計画を練っている分にはあまり干渉して来ず、監視といった具合か。ククク! 順調すぎて怖いほどだなぁ!」


 高笑いが響き渡る。

 最強の幻獣やXランクの友人を引き入れている咲太に対抗する手段は完成しており、もう止めることはできない。


「さぁ、始めようか!!!」



###



「あはは! 凛理やらかしちゃったね〜」

「そうですわね。まぁこれで傷心したリスナーどもも、ロケランをお見舞いしてあげたんですし許してくれているでしょう」

「相変わらずポジティブだ!」


 凛理は放送事故をした後、僕の家に転がり込んでお茶を嗜んでいる。『マイダーリンの気配がしたから寄ったのですが……どうやらいないらしいですね』と言っていたので、涼牙目当てで来たのだ。

 当の涼牙は『り、リリの気配が近づいてる気がするから俺はずらかるぜ……』と言って逃げていった。

 うーん……お似合い夫婦、なのかなぁ?


 ――ジーワジーワ。


 ちなみにこの空間は山のゾーンの一部である。蝉やカブトムシなどがおり、近くには小川が、遠くには入道雲などが見える夏の空間だ。

 凛理はここがめちゃくちゃ気に入り、縁側付きの家までここに建てたほどである。いつのまにか建築されてたからとても驚いた。


「凛理は配信これからどうするの?」

「ワタクシが飽きるまで続ける予定ですわ。この一件で見るのをやめる有象無象リスナーどもは要りませんの!」

「ん〜。辛辣だねぇ」


 風鈴の音を聞きながら冷えた麦茶を流し込んでいた。

 ゆったりまったりと雑談をしていたのだが、その雰囲気は突然乱入してきた者に破壊される。


「ちょっと咲太君!? あなた大変なことになってるわよ!!!」

「テメェナニモンですのゴラァア!! ぶっ飛ばしてやりすわァーーッ!!!」

天宮城うぐしろさん!? なんでここに……。ってか凛理も落ち着いて!?」

「そんなことよりこれを見てちょうだい!」


 突然目の前に瞬間移動してきた天宮城さんにスマホを渡された。何が何だかわからないが、とりあえずそれを確認してみた。

 どうやら映し出されているそれはネットのニュースらしい。


 ――『愛知の救世主、疑惑の浮上』

 愛知県某所のSランクダンジョンにて起こった大氾濫スタンピードにて、有名配信者のサクたんが見事に終息させてみせた。しかしとある疑惑が浮上した。それは――


「「〝作為的な大氾濫スタンピードを起こしたヤラセの疑惑〟?」」


 僕は特に何も感じておらず、切り分けたスイカを食べている。


「ふーん。でも僕やってないし、どーせすぐ解決するんじゃない?」

「いいや、そうとはいかないと思うわ。色々と辻褄が合ってしまうことがあるのよ」


 今回のスタンピードは東京と愛知で同時に発生した。発生数日前に僕は涼牙と天宮城さんとともに東京に行ってたが、そこで僕がをしに行ったのではないかというものらしい。

 冤罪に決まっているけれど、安易に信じてしまう人もいるかもしれないなぁ。


「この情報を流したのはおそらく、〝シャドウファング〟ってクランね。日本でも上位のクランで、実績も、物資も、資金もある。幻獣も二匹捕縛成功させているらしいわ」

「じゃあそのクランメンバー全員ぶっ飛ばせばいいのではなくって?」

「いや……そうしようものならそれこそメディアに流されて、本当に悪者になってしまうわ」

「チッ。癪ですわね」


 天宮城さん曰く、そのシャドウファングというクランの拠点はダンジョン内に存在しているらしく、機密情報などもそこにまとめ上げられているとか。


 電子鰻うなぴにハッキングしてもらおうかと思ったけれど、二匹の幻獣を捕まえているのならば怖いかな。配信で存在を明かしているし、対策がされてて危うくうなぴが捕まえられてしまうかもしれない。

 かといってこのプチ炎上(?)を黙って眺めているのは癪だしなぁ……。


「ウーム。ではワタクシの〝鬼蛇穴会きさらぎかい〟がシャドウファング協力……という程で時間稼ぎ+情報を流してもらいわすわ♪」

「良い案ね。……っていうか、鬼蛇穴会って確か極道じゃなかったかしら……」

「凛理のお父さんすごい人らしいねー。よく『罪犯したら全部揉み消したるわ』って言ってたし」


 時間稼ぎはおそらくできるだろうけれど、そのシャドウファングが黒幕という情報は流してくれない気がする。

 こちらから行動しなければ、この騒動はあちら側に有利となってしまうだろう。


「ハッキングで情報を抜き取るのはリスクが高い。だったらもう拠点に突撃しよ〜!」

「はぁ!? 何いってるのよ!」

「それは無謀ではなくって?」

「だから計画を練る。それと、その計画に必要な幻獣を揃える」


 ざっくりとした計画だけど、だいたい決まった。

 まずは鬼蛇穴会で時間稼ぎをしたり情報を流してもらう。その間にクランの拠点に侵入するために必要な幻獣たちを集める。情報と幻獣が揃い次第、拠点に突撃して暴露をする……といった具合だろう。


「大切な幼馴染として、ワタクシは全面協力いたしますわ。ダーリンの親友でもありますしね」

「私もできることはやるわよ。仲良くなった配信仲間がいなくなるのは寂しいから」

「二人ともありがとうっ!」


 僕を陥れようとしているクランならば、逆に陥れられる覚悟はあるはず。


 さて――牙を折りに行こうか。



[あとがき]


ということでね、第2章ではサクたんの大炎上を防ぐべく、クランの秘密を暴露するために奮闘する章です!

凛理がいなかったらなかなか詰む場面が多々あると思うので、キーパーソンなんすよねぇ。やべー女だけど優秀だ……。

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