第57話

 咲太から離れた場所で睨み合うナイトメアピーマンと熟成かくせいムキムキピーマン。

 ムキムキピーマンの一連の攻撃から、ナイトメアは警戒した様子で一挙手一投足を確認している。対してピーマンは顎(?)に手を添え、感心した様子でいた。


『……成る程。いつの間にやらようだな』

『『『『『ギャギャギャギャ!!!!』』』』』


 全方位から大量の小型ピーマンが飛んでくる。しかしそれは紫色で、蝙蝠の羽が生えており、口がついて叫びながら向かってくるものであった。


:キモッ!

:邪悪度MAXのスプ○にしか見えんww

:これは確かに悪夢だぁ……

:ってかこれやばくないか?

:囲まれてるやんけ!

:負けるなピーマーンw


『……数が多すぎて厄介だな。フンッ! ヌンッ!!』


 一体、二体と、次々に小型のナイトメアピーマンを蹴り飛ばしてゆく。

 ピーマンはどんどんと蹴り飛ばすスピードを上げ、次第にが生まれる。その回転力を生かし、体を逆さにしてブレイクダンスをしだした。


 ――ビュォオオオオオッッ!!!!


『ギギ、ガァ……ッ!?!?』


 地面のアスファルトは剥がれ、ビルのガラスは割れ、木々は根ごと巻き込まれ……。自らが起こしてみせた嵐は悉くを巻き込み始める。

 嵐もといブレイクダンスが終わる頃には、小型のナイトメアは全て消え失せていた。


:ナ ニ コ レ

:↑ブレイクダンスだが?

:(全てを)ブレイク(する)ダンス

:めちゃくちゃじゃねぇかww

:もうこのピーマン一人でよくないですか……

:ってかよくこのカメラは耐えたな

:竜巻の中心にいたから大丈夫だったらしい

:顎の貯蔵は充分じゃないぞw


『オ゛、マエ……!!!』

『HAHAHA!! 最後の晩餐会だぞ! 存分にピーマンこの私を味わうがいい!!!』

『ッ……!?』


 ピーマンが拳を振りかざした途端、ナイトメアの体は跳ねて咄嗟に横に回避しようとする。

 しかしその一瞬を見逃さず、ピーマンは拳を地面に振り下ろした。


 ――ズガァァアアアアンッ!!!!


 すると地面は真っ二つに割れ、それが左右に隆起して壁のようになり、逃げ場がなくなる。

 逃げ場を失い狼狽する暇もなく、ピーマンの拳が再びクリーヒットして体吹き飛ばされ、ビルに衝突した。間髪入れずにピーマンは攻めの姿勢を続ける。


『ビタミンE手刀!』


 ナイトメアが急いで姿勢を立て直してビルを蹴り離れると、キンッという音が響いた。

 ピーマンの一撃でビルは斜めにスライスされ、ゆっくりとスライドしながら落ち始めている。


:えぇ……(ドン引き)

:これがEランクダンジョンにいたってマ???w

:化け物ェ……

:ビルがスライスされたww

:ピーマン最強! ピーマン最強!


『殺、ス!!!!』

『そういう言葉は使わないでもらいたい。子供が聞いていたらどうする?』

『ア゛ア゛ァァァ!!!』


 ナイトメアはボコボコという音を立てて拳を肥大化させ、ピーマンにそれを放つ。一軒家ほどありそうな拳だ。

 ……だが、ピーマンはその上を行く。


 スライドしてきたビルを片手で受け止め、掴み、叩き付ける。


『ヌォオオーーッ!!!』


 ――ドッッゴォオオオオオオオンッッ!!!!!


 ビルを武器のように振り下ろし、ナイトメアはその圧倒的重量の下敷きとなった。

 しかしながら、さすがは深層のボスといったところか。まだ息をしており、唸りながら瓦礫の隙間から這い出てくる。


『ァ……ア゛……!! ジャ、マ、スル』

『――もう、終わりにしよう』

『ァ――』


 両腕に力が込められてビキビキと音がなり、プシューッと湯気がさらに上がる。その拳のエネルギーは言わずもがな、ナイトメアに炸裂した。


『クエルシトリンラッシュ!!!!』


 ――ズガガガガガガガガガガガガガ!!!!!


 体を全て削り取る勢いで拳を放ちまくり、ナイトメアを天井まで吹き飛ばす。

 一瞬静寂に包まれた後、ピーマンの体色は赤から緑と戻った。


:うぉおおおおおお!!!

:やりやがったwww

:【超速報】深層七階ボス、ピーマンが撃破!

:ムキムキピーマン神ーー!

:ビル掴んで殴るって何?w

:理解できぬ

:連続ピーマンパンチ威力えっぐ

:【¥50000】推しになりました

:【¥50000】ムキムキピーマンこっち向いて〜!♡

:尚、配信主はまだ気絶してる模様w

:ムキムキピーマンchはここですか?

:何だ……これ……(英語)

:サクたんとマッスルピーマンは手を出したらダメということだね(英語)

:ジャパン恐ろしい(英語)


 これにて一件落着……とはならなかった。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ…….!!!


 ピーマンは天井を仰ぐ。

 するとそこには、巨大な渦を巻くナイトメアの姿があった。力を収束させているのか、時折稲妻が走って禍々しい様子だ。


『ゼ、ンブ……消シ炭ニ、シ、テ、ヤル!!!』

『フムフム……。これは――


:ふぁっ!!?

:マジ……?

:まだ生きてたんか

:ムキムキピーマンでも勝てないの?

:マジかよ……

:けどあの形態は本気でやばそう

:本当に終わり?

:最悪だよ……


 リスナーたちも諦めムードになり始めている。ナイトメアはみるみる渦を巨大化させる一方、ピーマンは言葉を零す。


『無傷で勝ち、ピーマンの強さを感じてもらい、健康体の模範となりたかった……。だがもう無理なようだ。あぁ、諦めよう。

 ――……!!!!』


 腰を据え、右拳を握り、左手で包む。

 もう完熟モードは使えない。だが、


『少年は必ず守る。例えこのがボロボロになろうとも、勝利を少年に届けるのさ!!!』



[あとがき]


ちくしょう……どうあがいてもピーマンを好きになる要素しかねぇ!w

なんでこんなにかっこいいんだ。

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