第65話

 咲太の殺害を目論む殺し屋は、どこから進入しようか考えていた。しかし次の瞬間、ギィィと音を立てて扉が開いた。


「……?」


◆ホラゲの家かな?

◆お、おいもう帰ろうぜ……

◆おおおちつけお前ら。ただの自動ドアだろ?

◆犯罪者が揃いも揃ってビビってんの草

◆早く血が見たいぜ!

◆*サイアクな めに あわされそうな よかんが する

◆レッツゴゥ


 扉から何かが出てくるかもしれない。

 そう思った殺し屋はすぐさま移動しようと考えたのだが、時すでに遅しであった。


「なっ!?」


 瞬間、黒い影がドアの奥から溢れ出し、殺し屋を包み込む。ジタバタと手足を動かすが、抵抗は虚しく終わって家の中へと引きずりこまれた。

 そして、影から放り出されてようやく解放されたが、そこはもう檻の中も同然であった。


◆は?

◆何だよ今の!?!?

◆ここダンジョン外だろ? なんで魔法的なやつ出てんだよ!?

◆ガチやばいやんww

◆懐に入れたということで、ヨシ!!


 解放されて安心するのも束の間。けたたましい鳴き声が響き渡ると同時に、青い閃光が暗闇の中から走ってくる。


『ピーーッ!!!!』


 ――バチッ……バリバリバリッ!!!


「っぶない! ……あ、あれが幻獣……!」

『クルルルルヴゥ……!!!」


 間一髪で青い稲妻の直撃を避けるが、頰から血が出て、服の一部が裂けた。臨戦状態だったものの、反撃を一切許されないほどの雷撃に戸惑い、汗を垂らす。

 霹靂鳥ハタタドリのピー助は羽を大きく広げて威嚇をし、次の攻撃の機会を窺っている。


「(特殊な素材で作られてる服も一瞬で……! けど、この間合いにあの鳥の巨体からして、こっちが先制して攻撃できるはず!)」


◆ヒェッ

◆なんだよあの鳥!

◆俺、サクたんの家に侵入しなくてよかったぁ……

◆雷撃目で追えなかったんですがww

◆幻 獣 な ボ デ ィ ー ガ ー ド

◆よく避けれたな

◆こんなお出迎えされたら泣く;;

◆次はこっちが仕掛けるのか!?

◆幻獣もぶっ殺していこーぜ!


 腰に携えている小太刀に手を添え、姿勢を低くして足に力を込める。

 そして、爆発させるかのように地面を蹴り、一気にピー助との距離を詰め、腰に携えてあったものを抜刀した。


 ――ガキィィァンッ!!


「チッ……!!」

『キュイッ!』


 刃はピー助に届く前に、間り割り込んできた黄金色の毛並みを持つウサギ……ピョン左衛門の杵によって弾かれる。

 追撃をしようと刀を振りかぶり、ピョン左衛門の身体に直撃させたのだが、グニィッと刀は湾曲した。


◆これも幻獣じゃねぇか!

◆どっちも強いんだが、幻獣が格上すぎ……

◆刀がゴムみたいになったぞ!?

◆こいつら使役してるサクたんはガチで何w

◆バケモノテイマー

◆だから手を出すなと……


『キュ、キュイッ!!!』

「うっ!!」


 ピョン左衛門は殺し屋に対して足蹴りをし、バキッと音を立てて後方に吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた先で何かに激突して頭に衝撃が走るが、妙な暖かさも伝わってくるためバッと後ろを振り向いた。


『……モゥ?』

「こ、子牛……? いや――」

『モ、ウモ……ブモォオオオオ!!!!』


 ――メキッ、メキッ……バキバキバキ!!!


 ただの子牛だと思って一瞬安堵する。だが、すぐさまその思考を捨てなければらない状況に陥った。

 子牛は不可解な音を立てながらみるみる肉体を膨張させ、筋骨隆々に変化してゆく。そう、正体は〝ベヒーモス〟だったのだ。


「(まずい、離れないと! ……っ!? く、首が……!!』」

『フシャーーッ!』


 立ち上がって逃げ出そうとした矢先、いつのまにか首が締め付けられる感覚がしていた。先ほどまでいなかったはずの生き物、それが首に巻きつき、一瞬の隙を作り出す。

 〝水猫〟のシズク。体を水蒸気化させることで、気づかれることなく近づき、長く伸びる胴体で首を締め上げることを可能にした。


「う、ぅ……けど、これくらいすぐに!」

『ぴー』

『ぴ?』

『ぴよぴよ!』

「は……?」


 床でトボガン滑りをする謎の小さいもふもふ。その周囲では霜が発生しており、靴や服が氷によって固定されている。

 シズクによる水蒸気の液体化。それを服に吸収させ、ベイブペンギンズが凍らせた。


◆ファーーwwww

◆えっぐ……(ドン引き)

◆抜け出せないっ!

◆クソゲーじゃねぇか!

◆【速報】殺し屋、返り討ちにあうww

◆雷撃→刀無力化&蹴り→首絞め→氷で床固定

◆怖ー、この家近寄らんとこ……

◆普通は近づくことも無理だぞ

◆殺し屋気張れ!

◆お前保険入ってるか?(諦め)


『ブモォオオオオオーーッッ!!!!』

「あ――」


 ベヒーモスの肉体は完全に変化し、血管が浮かび上がって蒸気が溢れ出る姿へとなった。

 一瞬の悲鳴すらあげさせることなくベヒーモスは殺し屋を掴み、廊下に向かってぶん投げる。


 目で追うのがやっとなほどのスピードで投げられ、殺し屋は奥にあったドアを突き破って部屋に入った。

 逃げ込めた……というわけではない。ドアの向こうに、ただの部屋が広がっていることはないのだから。



[あとがき]


敵視点の幻獣たち怖……。

ストッパー(サクたん)!起きろォ!

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