番外編

「よぉお前ら、待たせたなぁ!!」


 ダンジョン内に響き渡る爽やかな声。

 その正体は咲太……ではなく、この俺である。


「リョーガだぜ!」


:きちゃ〜!

:SNSで見たぞ

:サクたんの変わりにこっち見るかぁ……

:致し方がない

:Xランクの配信は貴重なんだよなぁw

:でもリョーガだし……

:チッ、しゃあねぇな

:ちょくちょく不評なコメあって草


「サクたんがSNSで言ってた通り、数日間謹慎処分になったからな! 代わりと言ってはなんだが、この俺が配信をしてやるぜ!」


 俺が別の仕事で県外にいた際、咲太はSランクダンジョンの大氾濫スタンピードを単独で止めてみせた。

 しかしアイツの探索者ランクはE。そもそもSランクダンジョンに入ること自体違法だし、ましてやスタンピード中。県を救った英雄として勲章も近い日に送られるそうだが、処分はきっちり下されたのだ。


チャンネルサクたん:お家で見てるから頑張れ〜!


「ガハハ! お前の代わりに気張るぜ〜!」


 暇してる咲太になんかしてほしいことあるかと聞いたら『ダンジョン配信をしてほしい!』と言われたので、アイツにあげたカメラを一旦返してもらってそれで配信をしている。

 使い方は相変わらずわからないため、咲太に言われるがまま進めてなんとか配信にこじつけることに成功した。ちなみにチャンネルもわざわざ咲太に作ってもらった。


「今日はAランクダンジョンだな。まぁこの俺がダンジョンのなんたるかを教えてやんよ」


:上から目線キチー

:サクたんを返せ

:まぁ貴重だし……一応聞いたるか

:ちゃんとしてくれよォ?

:聞いてやるのはこっちだぞゴラ

:舐めた態度してっと帰るぞ???

:あくしろボケ


「なんでこんな好戦的なのコイツら……」


 リスナーどもの態度がびっくりするくらいでかいぜ……。俺のメンタルがもう少し弱かったら泣いてたところだ。

 気を取り直し、早速ダンジョンを攻略することにした。


「えー、前も言ったかもしんねぇが、上層はゴミだ! 雑魚ばっか。だからショートカットするぜ!! 真似しろよな!!」


 ――ドゴォォォォォォォン!!!!


 ダンジョンの床を殴り、どんどんとしたの階へと降り始める。


:ファーーーーwww

:※真似できません

:これがXランクw

:っぱ人間じゃねぇ!!!

チャンネルサクたん:今度真似してみるね〜

:やめろサクたんww

:幻獣使えばできちゃうんよなー……

:なんでもありだな


 ボコスカと殴り続けていると、広い空間へとたどり着いた。どうやらもうボス部屋にたどり着いたみたいだ。


「えーっと、ここのボスは確か……」

『プルルルルルゥ!!!!』


:ギガントスライムだ!

:物理攻撃無効のスライムだっけか?

:あれ、リョーガメタじゃ……?

:ピンチっぽくて草

:嫌だよ、男の触手プレイとかいらないぜ

:炎が弱点やで

:見せてもらおうか


「物理攻撃無効って説明で書かれてることあるよな? あれ、間に受けたらダメだぜ! 鵜呑みにすんなってことよ」


 ――ズドドドドドドドドドドドドドドド!!!!


 瞬間、ギガントスライムは弾け飛び、ジュワァ……っととを立ててジェルは蒸発して霧散した。

 ボスの攻略完了である。


:もちろん鵜呑みにしねぇよ。お前の言葉をな

:やばすぎww

:化け物さんこんにちは

:物理攻撃無効を無理やり物理で突破したw

:リョーガ、お前説明すんな

:教師とか絶対向いてないよw

:そういえばだけどここ、物理攻撃無効が多いクソダンジョンじゃんね

:拳で万事解決漢


 何やらリスナーどもは不満があるみたいだが、気にせずにどんどんと下の階層へと降りて行く。

 すると今度はひんやりとした空気に包まれ、不気味な声がこだまし始めている。


「ゴーストだな!」

『オオォォ……!』

「殴るぜ!」


 ――ガヴンッ!!!!


 半透明で下半身がない人型の魔物を殴ると、一瞬で消滅した。


:は?

:待て待て待て

:ゴーストは完全に物理無効のはずでは?w

:正攻法は聖水とか眩しい光で実体化とかだぞ

:すげー重低音鳴ったけど何したww

:Xランクなんだなぁ(遠い目)

:持ち上げるべきなんだろうが、リョーガだからなんか嫌だ……!

:↑わかるマン

:図に乗らせたくないよね


「お前らなんで俺のことそんなに嫌いなんだよ……。まぁいいけど。えーっとだな、簡単に説明したら空間ごと消滅させるパンチをしただけだ!」


:huh???

:はいはい、チート

:パワーがあればなんでもできるのねw

:筋肉イズジャスティス


 だがこれは結構大変だし、習得するのにもだいぶ時間がかかったものだ。あのムキムキピーマンとやらも素質があるだろうが、まだ経験が足りなさそうだしな。

 魔物どもはどれも雑魚ばかりだし、本当にこの配信が楽しいのかわからなくなってきた。


「質問でも受け付けるか。なんかよこせ!」


:どうやってそんなパワーつけたん?


「知らん! 強いて言うなら筋トレ!」


:サクたんとの馴れ初めは?


「幼稚園一緒で、そこで話しかけてくれたことだな! ちなみに昔のアイツはめちゃくちゃヤンチャだったぜ」


:なんでXランクになったの?


「趣味探しの成り行きだな。自分でもよくわかんねぇ」


:好きな食べ物は?


「サクたんの手料理! まぁ無理な時は自分で炭酸水かけご飯食ってるぜ」


:え……?

:炭酸水かけたご飯……???w

:うぷ

:質問がどれも参考にならぬ

:有益なのはサクたんの情報だけw

:イかれてんな

:筋トレと成り行きでXランクになるやつ草

:聞けば聞くほどわけがわからないな。コイツのサクたんw


 質問を返しながら下へ下へと進んでいたのだが、ピタリと腕が止まる。


「…………。なんか飽きた! 帰るわ!!! お前らじゃーなー」


:え?

:ちょ、は?w

:はやっ

:飽き性すぎるww

:30分坊主

:配信向いてねぇなw

チャンネルサクたん:もう終わりかー


 ――ブチッ。


 こうして、高力涼牙の初配信は幕を閉じた。



[あとがき]


番外編ということでね、涼牙の配信を書いてみました〜。サクたんの詳細は第2章で詳しく書くのでしばし待たれよ。


涼牙を主人公にするストーリーも考えたのですが、二番煎じみたいな作品になりそうだったため没となり、友人キャラになりましたね。


番外編以外では涼牙に配信させないと思うので、まぁ気が向いたらまた書くかもしれません。

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