第13話 Fender Telecaster
五年後。俺は28歳のおっさんになっていた。
今日も部屋にひきこもって、音楽を聴いている。季節は夏。非常に暑い。
8月。毎年夏の終わりになると、あのことを思い出す。
あれ以来、一時期は「伝説のバンド」などともてはやされたが、すぐに忘れ去られた。
が、俺はますます肩身の狭い思いをしながらひきこもることになり、
ネットに上がったライブの動画やらなんやらは、拡散されて俺にはどうすることもできない。
だが、これは俺が選んだ結果だ。後悔はしてない。
鹿嶋さんは、あの後、バンドを組んでボーカルとして活動しているらしい。
律ちゃん、松下さんは、あのライブが逆に話題になって、アルマジロガーデンの元ドラムってことも知られてか、やっぱりプロのドラマーになったとか。
琵琶くんは、あの後、旅に出て消息不明。元気してるといいな。
俺は、相変わらずひきこもり。
夕方。外では、祭りの音が聴こえる。俺はなんだか居ても立っても居られくなって、外に出た。
歩いている内に、夜になった。祭りの喧騒。川沿いを歩く。
すると、向こうから、アコギの音が聴こえてきた。
おや、なんだろう、っと思って近付いていくと、そこには、アコギを持って歌う、
金髪の少年がいた。え?────この歌は。
「あ、あの。」
俺は声を掛ける。少年は鋭い目で俺を見た。一瞬ビビったが、聞いた。
「その曲、エイプリル・ガールフレンドのSummer of loveって曲?」
「えっ、知ってんですか?」
「俺、昔そのバンドのボーカルやってた、串田ってやつ。」
「あ。」
よく見ると。という顔で俺を見る少年。
「串田さん。」
「ありがとな。その曲、覚えててくれて。」
「俺今、ちょっと事態を飲み込めてないっす。」
「大丈夫だ。俺ただのおっさんだから。」
しばし、少年と話す。
「俺、実はガキの頃あの会場に居て。エイプリルのライブ見たんですよ。
で、感動して。ギター始めて、こないだバンド組んだんです。」
「ごめん…泣いていい?」
「ああ。」
近頃は、涙腺が緩くなっていけない。
「あの時は、お世話になりました。」
「うぅ…。」
俺は立ち上がる。
「こちらこそ、ありがとう。」
もう行くよ。俺は少年に別れを告げて、夜道を歩き出した。
夜空には、大きな月が見える。誰もいない道を、帰る。
「ただいま。」
家に帰る。二階の部屋に入る。カーテンを開ける。月光が降り注ぐ。
俺は、あれ以来、ずっとケースに入れっぱなしだったテレキャスターを引っ張り出した。
手に持って、ただ一度、弦を弾く。雷鳴は轟かなかった。けど、確かに、音がした。かっこいい音がした。
「Fender Telecaster」完
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