第6話 エイプリル・フール
それから数日後。鹿嶋さんに連絡すると、OKの返事が。
俺は、松下さんにメールをして、またも「East of Timeline」で
音を合わせることになった。
当日。三人が楽器屋に集合した。
「はじめまして。松下です。よろしく。」
「「よろしくお願いします。」」
楽器屋に入ろうとしたその時。
「おかしいなぁ、ここにも居ないなぁ…」
と、ひとり呟く、ギターケースを背負った、高校生くらいの少年が、店の前に来ていた。
「はぁ。」
松下さんが少年に声を掛ける。
「君、どうした?」
「あ、いや。ネットでメンバー募集して、話が合った人がいて。
その人と今日、音を出す約束してたんだけど、いくら待っても待ち合わせ場所に来なくって…」
「そりゃあれだ。逃げられたな。」
「ええ⁉」
「ネットだと割とよくあることだ。諦めろ。」
「そんな…」
「お前、楽器、なにやってるんだ?ひょっとして…」
「ベースです。せっかく、今日まで練習してきたんだけどな。」
「腐るな。しぶとく続けろ。そんじゃな。」
「はい…」
松下さんが肩を叩いて、少年を帰す。いや、ちょっと待て。
「ちょっと待って、せっかくだから、この四人で合わせてみませんか⁉」
「え?」
俺は、そう提案した。
「どうですか?」
「私は、別にいいけど…」
「いや、うーん、ものは試しか…」
「僕、やりたいです。」
「本人がそう言うなら。…やるか。」
松下さんが手を打つ。
「よかった。じゃ、入りましょうか。」
かくして四人で、店に入る。
「いらっしゃい。」
「古島さん、今日、今から四人でスタジオ入ってもいいですか?」
「いいけど。いつの間にメンバー揃えたんだ?」
「まぁ、色々あって。」
「そうなのか。じゃ、行ってきな。」
「ありがとうございます。」
スタジオに入る。俺はマーシャルのアンプとテレキャスを繋げ、
鹿嶋さんはジャズマスを取り出した。
松下さんは、なにやらドラムを一音一音叩いて、出音を確かめている。
ベースの子は…
「君、名前なんていうの?」
「琵琶、琵琶 健次(びわ けんじ)です。」
「琵琶くんか。使ってるベース、それは…?」
「フェンダーのジャズべです…入学祝いで親に買ってもらって。」
すげぇ。偶然とはいえ、弦楽器、全員Fenderだ。
「じゃあ、全員準備できた?」
松下さんが号令する。
「OKです。」
「いけます。」
「大丈夫です。」
「よし、じゃあ~、始めよう。バックビートで行くぜ。」
「1、2、3、」
セッションが始まる。
結果から言うに、セッションはとても気持ちよかった。
松下さんが本当に上手くて、安心してリズムに乗れた。
ドラムをちょっと、という腕前ではなかった。
琵琶くんも、かなりエグいベースを弾いた。途中、スラップとか入れてたぞ。
この四人ならやれる、という手応えを感じた。
タイムラインのカウンターに戻ってくる。
「…」
四人で椅子に座る。しばしの沈黙が流れる。
「やるか?バンド。」
口火を切ったのは松下さんだった。
「やろう。バンド。」
三人の声がユニゾンする。こうして4月17日、バンドは結成された。
────。その後、移動したファミレスにて。
「バンド名、どうするよ?」
俺は熟考の末、絞り出した。
「じゃあ、こんなのどうです? ‘‘エイプリル・ガールフレンド‘‘。」
「なんじゃそりゃ。おま、(ぼそりと)エロゲか。」
「いいんじゃない?」
鹿嶋さんが笑う。
「僕も、なんかかっこいいと思います。」
琵琶くんも同意する。
「かっこいいか。うん。じゃ、それで行こう。」
松下さんもそう言い、かくしてバンド名が決まった。
────。俺たちの行く末を知るものは、ここにはまだ誰もいない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます