第3話 ジャズマスターと夜光虫

二組目のバンドがステージに現れる。

と、俺の目は、ステージ右方の、青い服を着た女性に行った。

なぜなら、彼女の持っていたギターは、俺の好きなバンドのリードギタリストと同じ、

「Fender JAZZMASTER」(ジャズマスター)だったからだ。

刹那。爆音で、曲が始まる。

「16.6℃です、‘‘16TEEN COMICK KNOWING‘‘‼」

ドラムカウントから、曲のイントロが始まる。

ギターボーカルが、歌を叫び散らかす。

ベースが、地を這うようにブンブン唸る。

ドラムが、人生で一度も聞いたことのないような、爆音を弾き出す。

そしてリードギターが、音で俺の頭を殴りつける。

しかし、彼女は飛びぬけて上手かった。素人耳でもそれは解った。

音は歪んでいるのに、幻想的だった。幻影が見えちまった。

観客たちは、ステージの前でブンブン頭を振る。拳を上げる。

俺も、気付いたら自然と、ビートに乗って体を揺らしていた。

一曲目はあっという間に終わった。途中、ギターボーカルのMCが挟まる。

「今日は風邪ひいたギターの代わりに、臨時で知り合いの子に弾いてもらってます。」

そうなのか。そして、二曲、三曲目と繋がっていく中で、俺は確信していた。

「このリードギタリストとバンドが組みたい」と。

曲が終わる。

「次のライブの予定は、えー、朝日川ヒルズ、ってところでやります。是非、見に来てください。

物販が~」

二組目のバンドがはけていく。彼らはくしくも、初めて俺に生でロックをぶちかましたバンドになった。

「~。」

隣の宮田が何かを喋っている。が、スピーカー近くで聞いていたせいか、まったく聴こえない。

「すまん、耳やられた。」

「おお、鼓膜逝ったかもな。次。次が俺の目当てのバンドよ。」

気づくと、会場内の人数が多くなっていた。人気のバンドらしい。

が。正直、二組目のバンドの衝撃が強すぎて、宮田の目当ての三組目のバンドのことは、

あまり覚えていなかった。彼らのアンコールが終わり、俺は会場から出る。宮田は誰かと談笑していた。

エントランスから出る。煙草の匂いに慣れてきて、なんか俺、若干ハイになっているかもしれん。やばい。

すると、そこにさっきのリードギターの女の子が、立っていた。

「あっ…」

その時、体に電撃が走る。なんかこの機会を絶対に逃しちゃいけない、っと思った。

「ライブ、かっこよかったです。」

黒髪のロングヘアーのその子は笑って、

「あ、ありがとうございます。」

と答えた。

「よければこれ、聴いてくれませんか?」

「え?」

俺は、家で作ったデモテープを、彼女に渡した。

「実は俺、バンドがやりたくて。家でデモを作ってるんですよ。

どうせなら、誰かに聴いてほしくて。」

「へぇー。後で聴かせてもらいます。」

「あ、ありがとうございます!これ、俺の連絡先、」

「なーにやってんだよ、秀太。」

「うわッ、宮田!」

「すみませんね、こいつ、初めてのライブでのぼせちゃって。」

「え、ライブ初めてだったんですか。」

「え、ええ。」

「じゃ、いい音聴いたし次、飲み行くぞー。」

「わ、ちょっと待てって。」

「うるせー。」

俺は、宮田に連れられ、夜に消えていった。

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