第10話 線香花火
合宿先は、ある海辺の町だった。そこで、8月31日のライブの前まで、
ここにある、百鬼さんの知り合いのライブハウスの店主の持ちスタジオで特訓をする。
さて、俺たちは宿、「しらさぎ」の暖簾をくぐる。
「いらっしゃい。お部屋、ご案内しますね。」
女将に案内され、男三人で部屋に入る。海の見える、眺めのいい、風通しのいい部屋だった。
しばしだらける。────気付いたら、夕方になっていた。一階で、夕飯を食う。
「おお、すげえ、伊勢海老だ!」
「う、うめぇ~ッ。」
「刺身うまっ。」
「おいしい。」
…このお金、誰持ちなんだろう。ふと湧いた疑問は、すぐにかき消した。
夕飯後、風呂に入って、就寝。
翌日。早朝から町に移動し、スタジオへ入る。
「俺がここのオーナーの波野陽平だ。よろしく。」
「「「「よろしくお願いします。」」」」
そして、特訓開始。ここから、俺は地獄を見た。鬼教官の陽平さんに、
さんざん指導を受けた。ひたすら、ひたすら音をピッタリ合わせる。それを日没まで続けた。
クタクタだった。ふらふら足で、民宿に戻る。伊勢海老。うまい。
────。そんな生活を続けて十日ほど経った日の夜。気付けば、8月になっていた。
俺たちは、海岸で花火をやっていた。線香花火の淡い光が、周囲を照らす。
「あはは。きれいだね。」
「ああ。」
律ちゃんが口を開いた。
「実を言うと俺昔、アルマジロガーデンのドラムやってたんよね。」
「え?アルマジロガーデンって、こないだメジャーデビューした、あの?」
「そ。実はさ、デビューの前、もっかいやらないか、って誘いかかってたんだけど、
今回の件で辞退しちゃった。」
「ごめんなさい。僕のせいで…」
「いや、そういうんじゃねぇんだ。俺、このバンドでライブやりたかったからさ。」
「律ちゃん…」
「ま、つまり、ライブ成功させよう、ってな。」
「うん。絶対ね。」
「じゃ、明日からも練習、頑張ろうか。」
「ふぁいと、おー。」
談笑の後、砂浜は無人に。波の音と共に、夜は深まっていった。
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