女はなぜ《花》を摘むのか

呑まれました。
これはすごい。五感すべてをあますことなく刺激する怒涛のような表現。それでいて静かでなまめかしく、せつない。
恐怖を掻きたてられるような。欲をあおられるような。
参りましたといわざるをえません。

これではレビューにならないので、まずはあらすじを。

……

幼い頃に父親が死に、母親に捨てられ、それからは山から降りることなく暮らし続ける男が訳ありの女に逢う。やがて女と身も心も重ねあい、ふたりは夫婦になった。
幸せな日々。やがて妻は子を身籠った。
だがひとつだけ、妻には秘め事があった。
彼女は時おり「花を摘む」といって姿をくらます。
はじめは疑わなかった。だがなかなか帰って来ない妻を捜しにいった男は、情事のあとのような満ちたりた表情をして繁みから現れた妻をみて、花とは男のことではないか、妻は不貞をしているのではないかと疑うようになる。



覗いてはいけない、ああ、でも覗かずにいられない。
見るなの座敷を想わせる物語に惹きこまれ、息もわすれて読み終えました。いま、えもいわれぬ読了感に浸っております。
奇妙に愛しい、読了感です。
なぜ愛しいのか。
読んで、確かめてください。

ただし、覗いてしまったら最後、しばらくは魂をこの物語に連れていかれることは覚悟しなければなりません。
それでも覗かなければわからぬものが、そこにあります。