第12話 丹波篠三一家
21世紀末、人間はだれでも「機械の身体」を手に入れられる時代がやってきた。
機械の身体というとかつての銀河鉄道999で描かれたものが有名であるが、ほぼそのものという理解でいいだろう。
人間の記憶をクラウド上にアップロード、記憶させる技術が確立して人間は病気や死の恐怖から解放されたのである。
機械の身体なら壊れたら部品の交換をすれば永久に生きることができ、身体そのものが失われても新たな機械の身体を手に入れればそこに記憶を移し替えればいいのである。
銀河鉄道999と違うのは、金持ちだけが手に入れられるのではない。
もちろん機械の身体は高額であり手に入れるには何年も働かなければならないが、クラウド上で電脳社会の運営の計算を支える仕事が全員に与えられるので失業などもない、身体を壊す心配もなく何十年でも働き続けられるのだから全員が機械の身体を手に入れることができるのだ。
中には現実世界での機械の身体をもう望まない人たちも一定数存在する。
クラウド内も色んな人と交流できクラウド上に娯楽施設も充実している。
もともとゲームの世界の中のようなものなのだ、ここを心地いいと感じる人がいても不思議ではないのだ。ここでは何十時間ゲームをしても眼や身体を壊すこともない。
ある意味機械の身体すら要らないとも言えた。
日本国でも高所得者の多い大都市から順に機械の身体に乗り移る人が相次いだ。
すこし抵抗のあった人も家族や友人に誘われる形で機械の身体に乗り移り、都市も機械の身体に適した環境に改造されて「マシンナーズシティ」へと急速に変貌していった。
関西でも例外ではなく、大阪が真っ先に全域がマシンナーズシティを推進した。
2回目の大阪万博から半世紀、その理想の街が実現したのである。
次いで神戸市全域がマシンナーズシティへと変わる。周辺市町村も大都市に引っ張らる形で急速にマシンナーズシティに変わっていく。要らなくなった生身の身体の焼却を加速させるために火葬場が多く建設され、健康な身体もどんどん焼却されていったのである。
淡路島も全域がマシンナーズシティに飲み込まれた頃、一部だけこのマシンナーズシティに反旗を翻した地域があった。
三田市の松浦市長である。
三田市からも死や病気の恐怖から逃れたい人たちが大都市に流出したが逆に機械の身体に疑問を抱く人たちが三田市に逃げ込んできたのである。
その頃になると日本国の国土の9割がマシンナーズシティとなりその運営は高速量子コンピュータ「HIMIKO」によって行われ、裁判もその都度「HIMIKO」が行い「最適解」を弾き出して裁くため一律の枠で杓子定規に裁く「法」の概念は失われ、全域が「無法地帯」とも言える状況となっていた。
ただ「HIMIKO」は三田市を潰すことは最適解ではないと判断する。
松浦三田市長との交渉に応じ、「自治区」とも言える地域を残すことにした。
それが現在の三田市、丹波篠山市、丹波市のいわゆる摂丹地区と言われるところなのである。
もともとこの地区に多くなかった弁護士や司法書士は全員が早い時期にマシンナーズシティに流出したためここでは行政書士が法秩序の維持を行っている。
そう、日本に残された数少ない「有法地帯」がデカンショ街道添いの摂丹地区なのである。
ただ、HIMIKOはマシンナーズシティを受け入れない代償として高速通信や高速鉄道などを制限してマシンナーズOSAKAから伸びる鉄道は新三田駅までとし、そこから先は電化を許さなかった。
新三田から向こうの広野駅などはトイレも汲み取り式であり駅前にコンビニなどもない。
摂丹地区では平成時代あたりまで電気文明が後退することになる。
摂丹地区と周囲のマシンナーズ市町村の間には数百キロに及ぶ壁が構築され、完全に分断されることになった。
ただ、三田市には鉄鋼を製造する大工場をはじめ、タオル、酒造会社、食品会社、ダンボール、カイロ、ケーブル、そして物流倉庫。人間が生きるのに必要な製薬会社などの工場も多数ある。
電力は市内の巨大なソーラーパネルで補い、豊富な地下水もある。
それにより摂丹地区を支えている。
日本各地に残った人間が残り住む地域のために薬の製造を行い流通させていった。
HIMIKOはそのあたりまでは合理的と判断して許可していた。
HIMIKOの判断はもはや人間の脳では理解が追いつかなかった。
そして松浦三田市長の後継として「
もちろんこれは選挙のための名前であるが、この地区を表すいい名前として市民に受け入れられた。
街の法律家である行政書士を中心とする行政メンバーは「丹波篠三一家」と呼ばれてマシンナーズシティに対抗するために闘っていくことになるのだ。
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