第9話 17億円当てた男 後編

 「おい、オマエ!」


 エル氏は少しやんちゃそうな若い男3人に呼び止められた。


 「おい、アンタ17億円も当たったんだってな、ちょっとオレたちに寄付してくれよ、な、100万円くらいでいいからさ。」


 男たちはニヤニヤしながらエル氏を取り囲んだ。


 「ダメなんです、オレはあなたたちにお金をあげるわけにはいかないのです、そういう決まりなのです。」


 「はあ?何訳わかんないこと言ってんだよ

、決まり?はいはい、俺たちが法律ですよー、お前は俺たちに100万円渡すのが決まりです。はい決定!グズグズしているから利子がついて200万円、いや300万円に増えちまったぜ。」


 エル氏はめんどくさそうに答える。


 「ですからお金をお渡しはできないのです。どうしてもです。」

 

 「オイコラてめぇ、オレたちを舐めてんのか?富豪さんょ!」


 二人がエル氏の両手を掴み、リーダー格の男がエル氏の髪の毛を掴む。


 突然3人に嫌な気分が流れ込む、胸くそ悪くて胸がムカムカするのだ。


 「オイ。行くぞ。そんな奴ほっておけ。」


 そうして3人は雑踏へと消えていった。


 「やれやれだ。」

 エル氏は何事もなかったかのように歩き出した。


 それからも人口の増えている地方都市のマンション一棟買いしませんか、とか、新しい仮想通貨ミームコインを買いませんかと言った勧誘や18歳から95歳の何十人もの女性から色目を使われることになる。

 エル氏は女性嫌いというわけでもなく結婚願望がないわけでもないがどんな美女のどんな猛烈アタックにも動じることもなく普段通り扱うのであった。


 

 それからエル氏はあらゆる金融商品や運用方法をに学習した。

 エル氏の美学を満たすためである。

 そのためには一円でもしなければならない。


 17億円をどのように分散してどこにどう動かすか?1円たりともエル氏の義務に合わない運用はできない。


 エル氏の頭脳が、人間のものとは思えない速度で回る。




 「やれやれ、全くもって面倒なことになったものだ、17億円のくじを俺が当てたことでその分当たるはずだった人を減らして貧乏にすることができた。しかしくじを放棄すれば国を儲けさせてしまう、一つの銀行に放置すれば保有残高を増やして銀行を儲けさせてしまうし破綻すれば債務返済に寄与してしまう、これも儲けさせることに繋がる、多額の消費をすれば大勢を儲けさせてしまう。」


 「貧乏神とは全く因果な商売だ、貧乏神に生まれたことを恨むつもりはないが、周囲の人間を1円でも多く貧乏にしなければならないとは。手を抜くことは私の美学に反する。しかしどうしたものか。」

 「そういえばあの3人の若者たちはどうしたかな。私にがっつり触れてしまった、しばらくはあらゆるツキに見放されて貧困のどん底に落ちているだろうな、」


 エル氏は今日も頭をフル回転させて周囲を貧乏にするために思考を巡らせるのだ。



 

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