第2話 令和のボッコちゃん前編

 西暦2070年初頭しょとう、いわゆる水商売みずしょうばいと言われる業界では深刻な人手不足に見舞われていた。世界的な少子高齢化によりどんなに給与を上げても若いホストやホステスのなり手が集まらなくなり廃業する店が続出したのである。

 こんな中、大手チェーンでは美少年美少女アンドロイドの導入が進むこととなる。

 AIの性能の急速な進展により「人間よりも人間らしい美少年美少女アンドロイド」のブレイクスルーが起こったのだ。

 特に日本ロボティクス社のものは高速インターネットを介して人間よりもスムーズな受け答えを行い、どんな趣味にも対応して話を合わせてくれる、客を満足させることにも長けてたけていた。

 そしてその外観も首筋にあるタイプFの高速USBポート以外はほぼ人間と見分けがつかないほどの肌触りや体温まで感じ、トクトク感じる鼓動や吐息までもが再現されている。

 高級品は一体1億円、廉価版でも3,000万円ほどする接客アンドロイドは飛ぶように売れた。24時間働き、客の暴言にもニコニコと返し、辞めることもなく、給料も払わなくていい、どんなオタクの大学教授や政治家の小難しい問いにもスマートに最適解を返答できるのだ、何よりその美しさ。

 ちょっと注意するとすぐにやめてしまう人間の男の子女の子に悩んでいた多くの大手の店は当然のように日本ロボティクス社の美少年美少女アンドロイドに切り替えていった。


 ある地方の場末でスナックを経営するエヌ氏という初老の男性がいた。

 彼の店も例に漏れず、長年勤めてくれた最後の女の子がとうとう引退することとなりその日は常連客が集まりささやかな送別会のような感じになっていた。


 「保子やすこちゃん、お店辞めちゃうんだね、寂しくなるなあ。」


 「ごめんなさいね、そろそろ潮時しおどきかなって。」


 「マスター、これからどうするんだい、隣町のガールズバーではアンドロイドを入れたそうだけどここは入れないのかい。」


 「そうしたいのはやまやまなんだがそんなお金もなくてね、ありゃ安いものでも3000万円はするだろう、そんな蓄えもないし、この年で借金もできないしな。最近は昔の夢ばかり思い出すようになったよ、歳をとった証拠だよな。」


 「マスターの夢というとあれか、勇者になって世界を破滅の脅威から救うとかいうあれか。何度も聞かされたな。」

 「そりゃ夢というより妄想だろ。」


 店の中がどっと笑いに包まれる。


 「マスター、俺がアンドロイド組み上げてやろうか?これでも昔はオタククラフツマンと呼ばれて高専ロボコンでも準優勝したこともあるんだぜ。日本ロボティクス社ほどのものは作れないが俺にいいアイデアがあるんだ。」


 マツウラはマスターに耳打ちをする。


 「面白そうだな、それじゃあ頼むとするか。」


 「それならワタシ、アンドロイドが完成するまではもう少し頑張りますわ。」

 保子も少しワクワクして協力することにした。


 

 

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