番外編 ボッコちゃんと殺人罪

 星新一のボッコちゃん


 ロボットのボッコちゃんを本物の人間と誤認して毒を盛った青年


 その結果店長を含む客全員が死亡


 この場合について殺人罪、あるいは他の犯罪が成立するかどうか考察してみたいと思います。 


 まず青年はボッコちゃんを殺害する意図を持って毒を飲ませています。


 もちろんボッコちゃんは人間ではないのでボッコちゃんに対する殺人罪も成立しません。

 ただ、毒を飲ませたことでボッコちゃんの正常な使用ができなくなったことで器物損壊罪、あるいは威力業務妨害罪が成立する可能性はあります。

 飲食店にて,食器に汚物を擦り付けた例に倣うことになるでしょう

 毒物所持については持ってるだけでは法に触れないものもありますので青年が持っていた毒が特定されなければ何とも言えません。

 

 ここで参考になるのが「人違い殺人」の場合です。


 これはある人甲がAを殺そうと思い立ち、同室のBをAだと思い込んで殺してしまった場合

 これが殺人罪に当たるのか、過失致死罪に留めるかの問題です。

 

 ボッコちゃんに殺意を持って毒を飲ませた青年の行為により何人もの人間が現に死亡したので青年は何らかの罪に問われるのでしょうか?


 ここで「法廷符合説」というものが出てきます。


 これは例え加害者が殺したのが結果的に違う人間だったとしても「人を殺してはいけない」という「反対動機」を押し切って殺人行為に及び、実際に人が死んだ以上殺人罪を適用するのが相当であると考える説です。


 通常はロボットを人間と誤認することは考えにくいですが小説では完全に人間だと信じるほどの完成度のロボット。

 こんなものは現代には存在しませんからあくまで私の推測にすぎないことを申し添えた上で書き進めます。


 ボッコちゃんを人間だと思って反対動機を押し切って毒を飲ませたのですから殺意の認定に問題はないでしょう。

 その結果無関係の、人が実際に死んだのですから法廷符合説によれば殺人罪を適用する余地はあります。

 ただ、加害者は一人を殺す意思しかなかった、まさか不幸な因果の巡り合わせで何人もの人が死ぬとは考えもしなかった(予見可能性なし)ことから死刑を免れる可能性もあります。

 いかがでしょうか?


 さて変わって拙著第10話、悪魔のUSBをネットに感染させてしまったエヌ氏夫人。

 世界中のインフラをダウンさせ,おそらく病院機能停止や事故による死者は数千万人に上ることでしょう。

 彼女は何かの罪に問われるのか?

 国家転覆罪で死刑?


 いえ、彼女には故意が全くなかったことから罪には問われません。

 予見可能性もないことから過失も認定されず過失致死にも当たりません。

 おそらく事実が露見しても無罪判決が出されることになるでしょう。

逆恨み、はされるかもしれませんが。

 

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