第4話 おーい出てこーい2048

 時空建設株式会社。


 この謎多き建設会社では無意味とも思える調査や工事が行われている。

 ある日突然どこからか発注書が工事部に舞い降りその指示通り工事が行われる。


 発注元も存在せず、誰からも疑問符がつく工事をするのだが、なぜか作業員には多額の給与がちゃんと支払われているのである。


 エヌ氏もその現場監督の一人である。


 いろいろと怪しさも感じるが、エヌ氏はそんなに深く考えないことにしている。

 

 いま関わっているのは号して1107階建てのウルトラ高層ビルである。


 およそ現実的とは思えない工事だが、上からの指示は絶対である、エヌ氏は指示通りやるだけである。


 その日の工事が一段落したので会社に帰ってきて一服している時であった。


 会社の敷地の隣の空き地に巨大な穴があるのに気がついた。


 こんなものは昨日までなかった。


 特に柵もされておらず誰でも入れる空き地である。

 エヌ氏は恐る恐る近づいてみた。


 恐る恐る慎重に覗き込んでみたのだが恐ろしく深そうな穴で底など全く見えない。


 何を思ったか、エヌ氏は大声でさけんでみた。


 「おーい!出てこーい!」


 声は虚しくこだますら聞こえず穴に吸い込まれた。


 続いて直径10センチくらいの大きな石を投げ込んでみた。


 わりと大きな石なのに底に落ちた音も全くしなかった。


 これは危ないな、そう直感したエヌ氏は会社の上司に報告をした。


 その後エヌ氏は穴のことはすっかり忘れていたのだが1ヶ月ほどするとどこかの大学の学者や国土交通省の役人、警察や自衛隊,いろんな人が入れ替わり立ち替わりやってきてさまざまな調査をやっていた。


 半年ほどすると大きな10トンダンプが土砂を捨てに来るようになった、


 おそらく土地の持ち主が土砂を受け入れて一儲けしようとしたのかもしれない。

 役所の許可も降りたんだろうな。


ところが何千台かもわからないダンプが土砂を放り込んだのだが一向に埋まる様子はない。


 続いて建築ガラや産廃の類も放り込まれるようになった。


 失恋した近所の女の子は彼からの古い手紙を投げ込んだ。


 実家を出ることになった学生は自宅にあった各種のものを親にバレないように穴に捨てた。


 学者の調査では少なくとも2万メートル以上はあるだろうとのこと。


 周りは荒野で建物といえば時空建設株式会社だけ、上層部は認めたのだろう。


 5年ほどすると経済産業省の役人がやってきた。

 どうやら低レベル核廃棄物を固めたコンクリート塊を投棄することにしたらしい。


 そしてしばらくすると今度は日本中の原発から出た核廃棄物の最終処分場とすることが国会で決まったようだ。


 この時には最低でも20万メートル以上の深さがあると推定されていた。

 表面に問題が出るのは10万年後であろうということで決まったようだ、


 もはや最終処分場はどこも引き受け手がなく切羽詰まっていたのもあるだろう。


 あっさり決まってしまった,会社の上層部も認めたのだろうな。


 こうして日本国が困った廃棄物は全てこの穴が引き受けてくれたのである。


 国家予算も乏しくなった日本では大変な救世主となったのである。


 三十年ほどが過ぎ、1107階建てのウルトラ高層ビルも東京都心に完成の目処が立ってきた。

 技術革新、ブレイクスルーはやはり起きたのである。


 例の穴のおかげで困った廃棄物もほぼなくなり、日本国のあちこちも心なしか綺麗になっできたような気がする。


****


 そんなある日。


 完成したウルトラ高層ビルの屋上クレーンを解体していたエヌ氏。彼はあのエヌ氏の息子である。


 2079年初頭に入り、少し寒さが堪える日であった。


 エヌ氏は空から聞こえてくる声のようなものに気がついた。

 「おーい、出てこーい」

 そう聞こえた気がした。


 空を見上げたエヌ氏。


 空耳かな?と作業を再開した時にクレーンが凄まじい音を立てて破損した。


 クレーンには10センチほどの穴が貫通し使い物にならなくなったのである。


 「まいったな、隕石かな、報告書を,書かないといけないな。めんどくさいなあ。」

 

 エヌ氏はどんな内容の,報告者を書くべきか頭を抱えた。

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