『彼』ゆえの観点で語られる人・歴史・文化――そして食。至極の旅日記

自身の持つ特殊な能力ゆえに、自ら罪と捉える殺人を生業とする主人公。

そんな不本意な仕事で赴く世界各地で、彼は目にした情景を語り、触れた人情を語り、その背景となる歴史と文化を語ります。
硬質な筆致が活き活きと描き出すそれらは、自然と映像が目に浮かぶほどに鮮烈です。

「仕事」では依頼者の切実な想いに全力を尽くして応えるという姿勢を堅持する彼は、自分自身をもどこか突き放し、俯瞰しているような視点の持ち主です。
ゆえにその語りは、ときに旅日記の範囲を超え、人類というものの考察にまで至ります。

一方で、そんな生真面目さを伺わせる彼が、訪れた地にめいっぱい五感を浸し、眼前に供された料理を存分に味わい尽くすさまは、どこか微笑ましく、次第に愛嬌すら感じてしまいます。

であるからこそ、より彼の語りを身近に感じ、気付けば共に旅をしているような感覚を得られます。

貴方もこの主人公と共に、世界を巡り、味わい尽くしてみてはいかがでしょうか。

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