カクヨムの中でもこのタイプの小説はかなりレアだと思います。
世界から依頼を受ける凄腕の(特殊能力のある)殺し屋。
殺し屋が登場する小説は、それなりに多くあると思いますが、小説の主旨は『世界の車窓から』とあるように、紀行文なのです。
それも、トルコ、ブラジル、チェコ、マレーシアなど、国名は知っているけど、行ったことのある人は多くはないだろうという国の、絶品グルメを食レポのように綴っていく。
しかも、アングラな職業の性質上、非常に硬派で、漢字の使い方1つで、ぐっと引き締まったハードボイルドな紀行文なのです。
作者様は、各国のグルメのみならず人々の文化や生活習慣をかなり緻密に調べておられ、ここまで仔細に、そして読者にイメージを細部まで膨らまさせることのできる『旅日記』はカクヨム作品多しと言っても、ほとんどないのでしょうか?
殺し屋と世界の紀行文。アングラなのに腹が鳴る。
この異色の取り合わせは、読者にさらなるスパイスを与えることでしょう☆
殺し屋が世界各地のグルメを食す。
殺しとグルメ。なんとも奇妙な組み合わせです。
そのグルメというのがとても美味しそうで、応援ハートを押したら目の前にその料理が出てきてくれないかな!と思わずにはいられないほどのクオリティーで書かれています。
ズバリ、飯テロです。特に肉料理が多いので、肉好きの方は空きっ腹で読んではいけません。
さてこの殺し屋さんですが、特殊な才能を持っています。ですが彼は、好き好んで人を殺しているのではありません。殺めた人物よりも、殺し屋の方が死を体感しています。殺し屋は死を繰り返しているのです。
だからこそ、彼は食べるのでしょう。
美味しいものを腹一杯に食べる。
それは生きている者の特権です。そして、生きている者が食べるのは命を奪った生き物たち。
殺し屋は罪の意識に囚われながら生きている。だからこそ食事をありがたく、美味しくいただくのでしょう。
また、この殺し屋さんは哲学的でもあります。観光スポットで写真を撮ってSNSにあげるような、そんなはしゃぎかたはしません。
その国の文化を感じ、歴史に思いを馳せ、風景を心に留め、人々の生き方に深い理解を示す。国に刻まれた暗い感情に心を寄せる様は、実に誠実です。
彼は、悲観的な物の見方はしません。未来への希望を見出し、祈る。祈りが込められた文章は、読者の胸を揺さぶります。
なんとも素敵な殺し屋さんです。
彼は罪滅ぼしのために、苦手な甘ったるいデザートだって食べるのです。甘いデザート、私にはご褒美ですが……。
これからも体をお大事に、心が健やかでありますように。そう一読者として願いながら、殺し屋さんの旅を見守りたいと思います。
どこか古風な語り口の殺し屋さんが、お仕事がてら世界各国の旅模様を綴っていく紀行文です。
トルコにブラジル、チェコ・オーストリア、そしてマレーシアやシンガポール。
これらの国々にゆかりのある方はもちろん、行ったことがないという方も、その場の空気感まで肌で味わえるような作品になっています。
一番目を引くのは、やはりグルメでしょう。
健啖家でもある殺し屋さんが、料理やお酒やスイーツまで、あらゆる名物を食べ尽くします。
また、その国の歴史や民族間の問題、特徴的な気候や建造物など、読むだけで勉強になること間違いなしでしょう。
しかし観光ばかりもしていられません。殺し屋さんは殺しのお仕事で来ているのです。
彼の特殊能力は本文を読んでいただくとして、お仕事には途轍もない精神力が必要です。
それに伴って綴られる独自の死生観がまた、達観と覚悟と責任が滲み出ているようで、非常に読み応えがあります。
お仕事後の禊のスイーツは、もはや本シリーズの名物と言っても良いでしょう。
この作者さまにしか書けないタイプの作品だと思います。
ぜひ多くの方に読んでいただきたいです。
自身の持つ特殊な能力ゆえに、自ら罪と捉える殺人を生業とする主人公。
そんな不本意な仕事で赴く世界各地で、彼は目にした情景を語り、触れた人情を語り、その背景となる歴史と文化を語ります。
硬質な筆致が活き活きと描き出すそれらは、自然と映像が目に浮かぶほどに鮮烈です。
「仕事」では依頼者の切実な想いに全力を尽くして応えるという姿勢を堅持する彼は、自分自身をもどこか突き放し、俯瞰しているような視点の持ち主です。
ゆえにその語りは、ときに旅日記の範囲を超え、人類というものの考察にまで至ります。
一方で、そんな生真面目さを伺わせる彼が、訪れた地にめいっぱい五感を浸し、眼前に供された料理を存分に味わい尽くすさまは、どこか微笑ましく、次第に愛嬌すら感じてしまいます。
であるからこそ、より彼の語りを身近に感じ、気付けば共に旅をしているような感覚を得られます。
貴方もこの主人公と共に、世界を巡り、味わい尽くしてみてはいかがでしょうか。