ファンタジーの世界で、美味しい料理と愛情に癒される

作者様の中で大切に暖められた、美しいものや恐ろしいものが鮮やかに彩る世界の一角で紡がれるお話です。
そして本作で特筆すべきは、やはり美味しい食事と、そして食後のデザートならぬ、主人公イルヴァに一目惚れした無精髭の青年ノアの、彼女に注ぐ愛情(激甘)でしょう。

育ての両親が亡くなり、住んでいた村も野盗に襲われ焼き払われ、全てを失ったイルヴァは危ういところをノアに助けられました。
そして彼に毎日美味しい食事を振る舞われ、少しずつ元気を取り戻していきます。
それだけではなく、ノアがイルヴァに見せる愛情も、辛い目に遭い、傷つき凍った彼女の心を徐々に解かしていきます。

ところでノアは見た者がたちどころに魅了され操られてしまうという、厄介な力を秘めた瞳の持ち主でした。
そしてイルヴァはなぜかその瞳の力が作用しない稀有な存在でしたが、やはりその出自には秘密がありました。
穏やかな日々を過ごす訳ありな二人の許に、やがてその秘密に絡む事件が起きます――。

とはいえ事件が起きようと、各話で美味しいものが登場し、いかな状況でも読み手に特大の飯テロを食らわせてくるという、本当に美味な物語です。

ノアの作る料理もさることながら、彼の親友でパン職人のアクセルが焼くパンがこれまた匂い立つような香ばしさを醸してくれるので、こちらも必見です。
多くの回で、ノアが料理を作る過程、アクセルがパンを焼く過程も丁寧に描かれていて、これもまた魅力のひとつに違いありません。

「まずはあったまって、食って、よく寝て、それからだ――」

このノアの言葉が響く方、まずはなんとも心惹かれる料理や飲み物の名がずらりと並ぶ、目次をご覧ください。
ここからすでに、じんわりとした暖かさが伝わってくるのではないでしょうか。
ごくりと唾を飲み込んだら、さあ、第一話へ。

食べ物だけではなく、キャラクターもそれぞれ魅力的なので、ぜひご自身の目で確かめていただきたいです。
実は糖分が摂取できるのは主役の二人からのみならず……。

ファンタジーならではの深淵を感じさせ、ときにシリアスな背景も絡めつつ、基本は美味しく甘やかに綴られる物語、ぜひご賞味ください。

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