この小説は、28世紀を舞台にしたSF的な要素と、ちょっとしたゴシック(原義的な意味ではなくファッションで使われるような暗い色調だがどこかロマンチックな雰囲気の意)の要素が絶妙に組み合わさった短編です。
物語は、活字中毒の主人公が無実の罪によって拘置所に送られてしまうところから始まります。舞台となる拘置所は、四次元の空間に設えられた存在で、その不思議さが物語全体を鮮やかに彩っています。
主人公が寝たきりの老人と一匹の黒猫と出会ったことで物語は少しずつ進展していきます。黒猫と図書館という組み合わせは、どこか古典的ながらも、読書好きに刺さるモチーフではないでしょうか?
また、題名にある「コンニャク爆弾」というパワーワードは、ストーリーのいいアクセントになっています。そしてこのコンニャク爆弾が、大変なことを巻き起こすのです……。
この作品は全体として対照的なモチーフが絶妙に混在していると思います。四次元の拘置所というSF的な設定と、黒猫とたどりつけない図書館というゴシック風味の要素、さらにはコンニャク爆弾というパワーワードの組み合わせが、短編ながらも魅力的に描かれています。短いながらも独自の世界観は、読者を魅了すること間違いなしです。
身におぼえのない罪で死刑になった「ぼく」
二十八世紀の死刑は四次元の建物のなかで自然死を待ち続けることで、暮らしは案外と快適だった。だが、ただひとつ、大きな問題がある。
「ぼく」は活字中毒である。
だが、扉をあけるたびに変わり続ける建物のなかに図書館はない、らしい。
奇天烈な設定ではありますが、端々に妙な説得力があって、いっきに物語のなかに惹きこまれていきました。それこそブラックホールに吸いこまれるがごとく。
扉を開けるたびに何処につながっているかわからない監獄の風景もそうですが、物語の概念といいますか、世界観そのものが「マウリッツ・エッシャー」の騙し絵を想わせ、読み進めるほどに心地のよい没入感があります。
随所にいろんな伏線が張りめぐらされているので、読みかえすほどに新たな発見がありそうですね。
果たして「ぼく」は図書館にたどりつけるのか。
なぜ「無実の罪」で死刑になってしまったのか、ほんとうに彼は「無実」なのか。ニワトリがさきか、タマゴがさきかのような結末をどうぞご堪能ください。
ちなみにコンニャクの原材料となる蒟蒻芋は猛毒で、最悪死にいたるのだとか。おそるべきコンニャク爆弾!
コンニャク爆弾製造の罪を問われ、理不尽な聴取の結果確定死刑囚となり、四次元の監獄で図書館を探して彷徨う話。めちゃくちゃおもしろかった。
語り口は寓話的で、どこかコミカルさも漂いテンポよく展開して読みやすい。「コンニャク爆弾」の語に明らかなように、どこか超現実的で、迷路か星新一の世界みたいな景色も素敵。
寓話的、と書いたが、絵本のようでありながらこの世界は決して作り話ではなく、現実社会の射影というか風刺というか、確かな実在感があるのもすごい。著者の解像度の高さを感じる。
小道具も楽しいが、かわいらしげな世界観の魅力で押し通すわけでもなく、どんでん返しと伏線回収が見事なのにも舌を巻くというか、気持ちよかった。これぞショート・ショートの切れ味。一気に最後まで読んじゃった。
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を捩ったタイトルは珍しい訳ではない。
タイトルを作るだけなら『○○は××の夢を見るか?』の形に当て嵌めれば良いだけなのだから難しくはない。
しかし、本作のタイトルは秀逸だ。
コンニャク爆弾。頭が固い私では逆立ちしても出てこない。嫉妬さえ覚える。それに組み合わせるのが黒猫である。参った。タイトルを見ただけで読みたい。
そして「確定死刑囚の刑の執行は、自然死をもって完了とするとのこと」という不穏なキャッチコピーである。もう読まない訳にはいかない。
読んでしまえば、あれよあれよと引き込まれる。降参である。オススメせずにはいられない。