第1話「虚構ビリーバー」③
流星カリバーを前にした土偶デリュージンは困惑した。
「何者だ、貴様は!」
「さあな、俺もよくわからん」
「ならそのまま死ね!」
土偶デリュージンの肩にはそれぞれ赤と紫の勾玉が埋め込まれており、右肩の赤い勾玉が発光する。土偶デリュージンの腕にエネルギーが満ち、そのまま流星カリバーに突進した。勾玉には土偶デリュージンを強化する機能があり、赤い勾玉は怪力を授ける。その膂力で目の前の謎の剣士をねじ伏せようというわけだ。
「っ!」
迫る脅威を前に、出雲の脳裏に考えが浮かぶ。この剣の使い方が彼の脳に流れ込んできたのだ。
流星カリバーは剣の鍔部分にある十字星型のエンブレムを一回押し、柄のトリガーを引く。刀身が発光し、正常な動作を知らせるシステム音声が流れた。
【コズミックシールド!】
星型のエネルギーが剣から発せられ、盾となって土偶デリュージンを受け止めた!
「なにっ!」
出雲は背後の真理奈に尋ねる。
「おい、こいつ攻撃していいのか!?」
「どんどんしちゃって! デリュージンの肉体を破壊すれば元の人間に戻るの!」
「わかった!」
流星カリバーは剣を跳ね上げて土偶デリュージンの攻撃を受け流した。土偶デリュージンの胴体ががら空きになる。そこに流星カリバーは斬撃を見舞う!血しぶきの代わりに火花が散る!
衝撃で地面を転がる土偶デリュージンは体勢を立て直すと、左肩の紫の勾玉が光った。ふわりと土偶デリュージンの身体が宙に浮く。
「逃げる気か!」
「逃がしちゃダメ! このままあいつの力が増幅すれば世界が『あいつの世界』に上書きされたまま定着しちゃう!」
「機械が全部土器のまま、ってことかよ!」
土偶デリュージンは飛行して流星カリバーから逃げながら少し安堵した。無様な敗走だが、これは戦略的撤退でもある。この私の世界を否定する異分子は、さらに力を蓄えてからじっくりと排除すればいいだけだ……、と。
流星カリバーは徐々に小さくなっていく土偶デリュージンを見つめている。こんなとき、どうすればいいのか──その答えはすでに知っていた。流星カリバーは夢幻チェンジャーのボタンを再度押す。
【アビリティ・オン、流星カリバー!】
流星カリバーの身体にエネルギーの光が走り、猛スピードで上空の土偶デリュージンへと飛び立った。光の航跡を残して飛行するその姿はまさしく流星だった。
逃走する土偶デリュージンに流星カリバーのすれ違いざまの斬撃が入った。驚愕とダメージで絶息する土偶デリュージン!
流星カリバーは空中でUターンし、片手で土偶デリュージンの足をつかんだ。そのまま光の輪を描きながら高速で旋回し──投げた!
「──ぅおりゃああああああっ!」
投げ飛ばされた土偶デリュージンが石畳にクレーターを作って着弾した。這々の体で起き上がった土偶デリュージンの前に流星カリバーがゆっくりと降り立つ。
流星カリバーはスターブリンガーの鍔の側面にあるリーディングボタンを叩くように押した。
【スタンバイ!】
スターブリンガーの刀身が輝きを放ちはじめた。流星カリバーはイデアフュージョンブレスにセットされたイデアライズカードを、スターブリンガーのエンブレム裏のリーダーで読み込んだ。
【オーバードライブ! 流星カリバー!】
スターブリンガーの切っ先に向けてエネルギーが満ち、宇宙的メロディとともに綺羅星のように刀身が輝いた。
それと同時に周囲の景色が変わった。
市街地にいたはずの流星カリバーと土偶デリュージンは満点の星空に覆われた空間に閉じ込められた。
「こ、これは!? 私の世界が……!?」
この空間は流星カリバーのパワーを一時的に高め、『土偶デリュージンの世界』に上書きする形で『流星カリバーの世界』を限定的に展開した逃走不可の領域だった。
流星カリバーの身体が光とともに先ほどを上回るスピードで飛翔した。星々の間を駆け抜け、土偶デリュージンの周囲を旋回しながら加速する流星カリバー。そして最高速度に達したとき──
【コズミックストラッシュ!!】
「──はああああっ!!」
一条の光が走り、流星の刃が土偶デリュージンを斬り裂いた。
星空の空間が消えると共に、土偶デリュージンが火花を散らしながら悶えた。
「私の世界が……私の縄文時代が!!」
絶叫しながら土偶デリュージンが爆発し、その力の源であるデリュージンカードが砕け散る。爆炎と共に拡がった波動が『土偶デリュージンの世界』を拭い去っていく。
「あっ、スマホが元に戻った……!」
「車もだ!」
周囲から安堵のざわめきが聞こえる。
炎が消えると、地面に這いつくばる枝野が現れた。
流星カリバーの変身を解除した出雲は枝野に駆け寄った。
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫、気を失ってるだけだよ」
「ほんと?」
出雲は枝野の口元に手を近づけて呼吸を確認し、安堵した。そのまま枝野を担いで近くのベンチに寝かせる。
「これでよし」
「ありがとうね、戦ってくれて」
出雲は周囲を見渡して、疲れた笑みを浮かべた。
「わけわかんないけど、街を守れてよかったよ」
真理奈が手を差し出してきた。握手を求めている。出雲はとても素直な気持ちでその手を握り返した。
真理奈はからっとした笑顔を見せた。
「これからもよろしくね、『流星カリバー』!」
「…………え? これからも?」
「そうだよ! 敵はこれからどんどん活発になっていくの! 一緒に世界を守って!」
出雲はそっと握手を解き、夢幻チェンジャーを外し、それを真理奈の手に預けた。そしてくるりと背を向け、全速力でその場から走り去った。
「これからもやるなんて聞いてないぞ!」
「えーっ!? でもここは快く引き受けるところじゃん!」
最初からトップスピードを出したつもりだったが、すでに後ろから真理奈が追いつき始めていた。
「速っ!? 俺はもうやらねー!」
出雲は真理奈のスピードに驚きながらも、どうにか逃げようとした。
それは叶わぬ願いだということを、出雲はまだ知らない。
夢幻実装!! 流星カリバー第1話 終
第2話に続く
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出雲です。
よくわかんないけど、なんで小さいカフェの店長やりながら変身して戦わなくちゃならないんだ!
今度は眼鏡大好きな怪物? 勘弁してくれ!
次回、第2話『覚悟スタンバイ』。
この話、君は信じるか?
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