第4話「逆行デリューナイト」③

 みゃーこのスマートフォンが震えた。画面を見ると、馬と鹿のレジンアクセサリーの写真が表示されている。真理奈からの着信だ。


 「もしもし?」

 『みゃーこ! デリュージン追っかけてたんだけど、結局途中で見失っちゃって……最後に反応が消えたとこの情報送るね!』

 「え、見つけたの?」

 『話は後! とにかく、後は任せたよ!』


 通話が切れると同時にデリュージン・サーチャーに真理奈からの位置情報が送られてきた。マップ上に逃走経路、最後に反応があった地点とその時間が表示されている。


 「真理奈に助けられるとはね……。エミリン!」


 みゃーこは位置情報を恵美に見せた。恵美はそれを見ると、脳内でスパークが起きたのを感じた。


 「位置がわかった」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ヘッドホンデリュージンの姿を解いた華は、立体駐車場からある建物を見つめていた。


 「やはりここだったか」


 華が飛び跳ねるように振り向くと、恵美とみゃーこがいた。


 「なんでここがわかった」

 「簡単な推理だ。君が志望する学校は、あそこだろう」


 恵美が指さす方向にはデザイナーの専門学校があった。


 「君を追跡した協力者から送られた経路と、君の情報をもとに、君の足が向かいそうな場所を推理した。わざわざ立体駐車場に入ったのは、ここからなら窓の中の教室が見えるからだ。そうやって自分が何をしたいのかを再認識したかった。違うか?」

 「クソ探偵……」

 「探偵への罵倒は肯定ととらえる」

 「ファッションデザイナーになりたいって言ったら、あのババア、『好きだけでできる仕事じゃない』とか否定しやがった。あんなやつのところになんか戻ってやらねえ」

 「ちゃんと話し合わなかったのか」

 「……同じだろ、話し合ったって」


 華は吐き捨てるように言った。小さな声だったが、その声は不思議と空間にこだました。


 「40万円だ」

 「あ?」

 「40万円。君の捜索のために君のお母さんが払った金だ。安い金額ではない」

 「だから? 親に迷惑かけんなってか?」

 「ちがう。君はちゃんとお母さんから愛されていると言いたいんだ。話し合いが無駄な間柄だとは、私には思えない」

 「正論ばっか、言うんじゃねえ!」


 華のデリュージンカードが闇を放出し、華はヘッドホンデリュージンに変貌した。すぐに姿を消すことはなく、怒りのまま恵美に襲いかかる。


 「エミリン!」


 みゃーこがイデアライズカードを恵美の手元に実体化させる。恵美はそれをすぐさま夢幻チェンジャーに挿入した。


 「夢幻実装」


 夢幻チェンジャーから放たれたエネルギーがヘッドホンデリュージンを弾き飛ばす。恵美の身体を紅火くれないアーチャーのクリアーレッドのアーマーが覆う。


 【紅火アーチャー!】

 【炎の矢が闇を裁く!】




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 互いの得物を打ち合わせ、流星カリバーとデリューナイト・ゼノンは幾度目かの膠着状態に戻った。


 「お前がデリュージンカードを配ってるのか? なんでそんなことする?」

 「理由ねえ……みんなが求めてるから、だな」

 「求めてるわけないだろ!」

 「そうか? こんなくだらねえ世界が、自分の空想通りになるんだぜ? どんな世界が広がるにせよ、今よりずっと面白いだろ。それを望んでねえやつなんかいるのか?」

 「……わからん!」

 「は?」


 流星カリバーが叫んだ。率直すぎるその言葉にゼノンは呆気にとられた。


 「よくわかんないけど、お前が子供にやばい力を渡して、『好きにしろ』とかそそのかしといて、平気でヘラヘラしてるやつだってのはわかった!」


 【スタンバイ!】

 【オーバードライブ! 流星カリバー!】


 「お前の好きにさせたら駄目だ! それだけわかれば充分だ!」 


 周囲に流星カリバーの空想領域が展開される。一条の光と化した流星カリバーがデリューナイト・ゼノンに迫る!


 【コズミックストラッシュ!】


 「はあああああああっ!」


 デリューナイト・ゼノンはアックスモードのナイトレグレッサーを操作した。


 【チャージ!】


 ナイトレグレッサーの刃にサイケデリックな赤い光が灯る! ゼノンはナイトレグレッサーを振り抜いてエネルギー刃を放った!


 【ナイトクラッシュ!】


 「ウオオオオオオッ!」


 二つの光刃が激しくぶつかり、激しい衝撃とともに空想領域が崩壊した!空間がもとに戻ると、流星カリバーは膝をつき、デリューナイト・ゼノンは仁王立ちの姿勢をとっていた。


 「手ごたえ、いまいちか……」

 「当たり前だ。デリューナイトをデリュージンと一緒にするな」


 そのとき、警告音がナイトレグレッサーから鳴った。デリューナイト・ゼノンのアーマーの輪郭が粒子化するようにぼやけている。ゼノンは舌打ちをしながら脱力した。


 「クソ、時間切れか。頭にくるぜ」


 デリューナイト・ゼノンは踵を返し、流星カリバーに背を向けた。


 「じゃあな、流星カリバー。勝負は預けた」


 ゼノンはそのままビルの屋上へと跳躍し、どこかへと去っていった。


 「なんだったんだ、あいつ……」


 変身を解いた出雲は、そうつぶやきながら長い溜息をついた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ヘッドホンデリュージンの肉弾攻撃を紅火アーチャーは爆焔弓・インフェルノートでいなしていく。大振りなパンチを受け止めると、紅火アーチャーはインフェルノートをくるりと回転させる。ガードの開いた胴体に炎の矢が突き刺さり、ヘッドホンデリュージンは吹き飛ぶ!


 「クソ、許さねえ……!」


 ヘッドホンデリュージンは光弾を放ち、それを紅火アーチャーが防ぐ隙に透明化した。また逃げたのか。紅火アーチャーがそう思った瞬間、その身体が火花と共に大きく揺れた! 衝撃が来た方向に反射的に振り向くが、今度はその反対側から攻撃が襲い掛かってきた。


 大きくインフェルノートを振るう紅火アーチャーだが、手ごたえはない。姿なき凶刃が紅火アーチャーを付け狙っている!


 「エミリン!」そのとき、みゃーこが叫んだ。「バカ真理奈からの情報! 『姿を消しても実体はある』って!」


 「なるほど」


 紅火アーチャーは夢幻チェンジャーのスイッチを押した。


 【アビリティ・オン、紅火アーチャー!】


 紅火アーチャーの眼が光った。『暗黒街のクライムファイター』という設定が紅火アーチャーにもたらした能力は、感覚の強化。今、紅火アーチャーの感覚は研ぎ澄まされ、五感すべてでヘッドホンデリュージンを追跡していた! そして──


 「そこだ」


 紅火アーチャーが虚空に向けて矢を射る。否、そこにはヘッドホンデリュージンがいたのだ! 予想外の攻撃を受け、ヘッドホンデリュージンはうろたえる。


 「な、なんで!?」

 「探偵だからな」


 ヘッドホンデリュージンに体勢を立て直す暇をあたえずに、紅火アーチャーは次の矢を続けて放つ。ヘッドホンデリュージンの動きがグロッキーになった。


 「これで終わりだ」

 【スタンバイ!】


 紅火アーチャーはインフェルノートにイデアライズカードを読み込ませた。


 【オーバードライブ! 紅火アーチャー!】


 紅火アーチャーの空想領域が展開され、周囲が闇夜の摩天楼になった。


 紅火アーチャーはインフェルノートのダイヤルを操作する。電子音声がモード変更をアナウンスした。


 【マルチショット!】


 紅火アーチャーは夜空に向けて炎の矢を放った!


 【ジャッジメント・ショット!】


 夜空で炎の矢が弾け、無数の矢に分裂する。矢の雨が辺り一面に降り注ぎ、ヘッドホンデリュージンを蜂の巣にした!


 「ぐああああああああああ!」


 ヘッドホンデリュージンは爆散! デリュージンカードが砕け散る!


 倒れる華を駆け寄った恵美が抱き留めた。その光景にみゃーこが絶叫するが恵美は無視した。


 「話し合っても、やっぱり無理だったら、責任取れんのかよ……」


 華は誰にともなくつぶやいたが、恵美はそれを聞き取っていた。恵美は華の手に自分の名刺を渡した。


 「話し合って、それでもうまくいかなければ、ここに連絡してこい」


 華は力なく笑った。


 「また金取るのかよ……」

 「いや、取らない」


 華は驚いた顔で恵美を見上げた。


 「仕事じゃないからな。ただのお節介だ」


 安堵したような顔を浮かべ、華は気を失った。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「それで? どうなったんだ?」


 出雲は恵美の前にコーヒーを置いた。


 「どうなった、とは」

 「この前手伝った事件だよ」


 恵美はコーヒーを一口すすってから口を開いた。


 「守秘義務だ」

 「手伝ったんだからちょっとくらい教えてよ、このままじゃすっきりしない」


 恵美はもう一口コーヒーを飲み、すこし黙った。


 「いい方向に、前進しているようだ」

 「……信じるよ」


 出雲は微笑んで窓の外を見た。雲の切れ間から光が差していた。




夢幻実装!! 流星カリバー第4話 終

第5話に続く




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 恵美だ。

 貝塚君のバイトが決まった? それはよかった。

 何? 謎の完璧美少年?

 謎の変なおじさん?

 何がなんだかさっぱりわからん。


 次回、第5話『天衣ビューティー』

 この話、君は信じるか?


 


 

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