第4話「逆行デリューナイト」③
みゃーこのスマートフォンが震えた。画面を見ると、馬と鹿のレジンアクセサリーの写真が表示されている。真理奈からの着信だ。
「もしもし?」
『みゃーこ! デリュージン追っかけてたんだけど、結局途中で見失っちゃって……最後に反応が消えたとこの情報送るね!』
「え、見つけたの?」
『話は後! とにかく、後は任せたよ!』
通話が切れると同時にデリュージン・サーチャーに真理奈からの位置情報が送られてきた。マップ上に逃走経路、最後に反応があった地点とその時間が表示されている。
「真理奈に助けられるとはね……。エミリン!」
みゃーこは位置情報を恵美に見せた。恵美はそれを見ると、脳内でスパークが起きたのを感じた。
「位置がわかった」
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ヘッドホンデリュージンの姿を解いた華は、立体駐車場からある建物を見つめていた。
「やはりここだったか」
華が飛び跳ねるように振り向くと、恵美とみゃーこがいた。
「なんでここがわかった」
「簡単な推理だ。君が志望する学校は、あそこだろう」
恵美が指さす方向にはデザイナーの専門学校があった。
「君を追跡した協力者から送られた経路と、君の情報をもとに、君の足が向かいそうな場所を推理した。わざわざ立体駐車場に入ったのは、ここからなら窓の中の教室が見えるからだ。そうやって自分が何をしたいのかを再認識したかった。違うか?」
「クソ探偵……」
「探偵への罵倒は肯定ととらえる」
「ファッションデザイナーになりたいって言ったら、あのババア、『好きだけでできる仕事じゃない』とか否定しやがった。あんなやつのところになんか戻ってやらねえ」
「ちゃんと話し合わなかったのか」
「……同じだろ、話し合ったって」
華は吐き捨てるように言った。小さな声だったが、その声は不思議と空間にこだました。
「40万円だ」
「あ?」
「40万円。君の捜索のために君のお母さんが払った金だ。安い金額ではない」
「だから? 親に迷惑かけんなってか?」
「ちがう。君はちゃんとお母さんから愛されていると言いたいんだ。話し合いが無駄な間柄だとは、私には思えない」
「正論ばっか、言うんじゃねえ!」
華のデリュージンカードが闇を放出し、華はヘッドホンデリュージンに変貌した。すぐに姿を消すことはなく、怒りのまま恵美に襲いかかる。
「エミリン!」
みゃーこがイデアライズカードを恵美の手元に実体化させる。恵美はそれをすぐさま夢幻チェンジャーに挿入した。
「夢幻実装」
夢幻チェンジャーから放たれたエネルギーがヘッドホンデリュージンを弾き飛ばす。恵美の身体を
【紅火アーチャー!】
【炎の矢が闇を裁く!】
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互いの得物を打ち合わせ、流星カリバーとデリューナイト・ゼノンは幾度目かの膠着状態に戻った。
「お前がデリュージンカードを配ってるのか? なんでそんなことする?」
「理由ねえ……みんなが求めてるから、だな」
「求めてるわけないだろ!」
「そうか? こんなくだらねえ世界が、自分の空想通りになるんだぜ? どんな世界が広がるにせよ、今よりずっと面白いだろ。それを望んでねえやつなんかいるのか?」
「……わからん!」
「は?」
流星カリバーが叫んだ。率直すぎるその言葉にゼノンは呆気にとられた。
「よくわかんないけど、お前が子供にやばい力を渡して、『好きにしろ』とかそそのかしといて、平気でヘラヘラしてるやつだってのはわかった!」
【スタンバイ!】
【オーバードライブ! 流星カリバー!】
「お前の好きにさせたら駄目だ! それだけわかれば充分だ!」
周囲に流星カリバーの空想領域が展開される。一条の光と化した流星カリバーがデリューナイト・ゼノンに迫る!
【コズミックストラッシュ!】
「はあああああああっ!」
デリューナイト・ゼノンはアックスモードのナイトレグレッサーを操作した。
【チャージ!】
ナイトレグレッサーの刃にサイケデリックな赤い光が灯る! ゼノンはナイトレグレッサーを振り抜いてエネルギー刃を放った!
【ナイトクラッシュ!】
「ウオオオオオオッ!」
二つの光刃が激しくぶつかり、激しい衝撃とともに空想領域が崩壊した!空間がもとに戻ると、流星カリバーは膝をつき、デリューナイト・ゼノンは仁王立ちの姿勢をとっていた。
「手ごたえ、いまいちか……」
「当たり前だ。デリューナイトをデリュージンと一緒にするな」
そのとき、警告音がナイトレグレッサーから鳴った。デリューナイト・ゼノンのアーマーの輪郭が粒子化するようにぼやけている。ゼノンは舌打ちをしながら脱力した。
「クソ、時間切れか。頭にくるぜ」
デリューナイト・ゼノンは踵を返し、流星カリバーに背を向けた。
「じゃあな、流星カリバー。勝負は預けた」
ゼノンはそのままビルの屋上へと跳躍し、どこかへと去っていった。
「なんだったんだ、あいつ……」
変身を解いた出雲は、そうつぶやきながら長い溜息をついた。
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ヘッドホンデリュージンの肉弾攻撃を紅火アーチャーは爆焔弓・インフェルノートでいなしていく。大振りなパンチを受け止めると、紅火アーチャーはインフェルノートをくるりと回転させる。ガードの開いた胴体に炎の矢が突き刺さり、ヘッドホンデリュージンは吹き飛ぶ!
「クソ、許さねえ……!」
ヘッドホンデリュージンは光弾を放ち、それを紅火アーチャーが防ぐ隙に透明化した。また逃げたのか。紅火アーチャーがそう思った瞬間、その身体が火花と共に大きく揺れた! 衝撃が来た方向に反射的に振り向くが、今度はその反対側から攻撃が襲い掛かってきた。
大きくインフェルノートを振るう紅火アーチャーだが、手ごたえはない。姿なき凶刃が紅火アーチャーを付け狙っている!
「エミリン!」そのとき、みゃーこが叫んだ。「バカ真理奈からの情報! 『姿を消しても実体はある』って!」
「なるほど」
紅火アーチャーは夢幻チェンジャーのスイッチを押した。
【アビリティ・オン、紅火アーチャー!】
紅火アーチャーの眼が光った。『暗黒街のクライムファイター』という設定が紅火アーチャーにもたらした能力は、感覚の強化。今、紅火アーチャーの感覚は研ぎ澄まされ、五感すべてでヘッドホンデリュージンを追跡していた! そして──
「そこだ」
紅火アーチャーが虚空に向けて矢を射る。否、そこにはヘッドホンデリュージンがいたのだ! 予想外の攻撃を受け、ヘッドホンデリュージンはうろたえる。
「な、なんで!?」
「探偵だからな」
ヘッドホンデリュージンに体勢を立て直す暇をあたえずに、紅火アーチャーは次の矢を続けて放つ。ヘッドホンデリュージンの動きがグロッキーになった。
「これで終わりだ」
【スタンバイ!】
紅火アーチャーはインフェルノートにイデアライズカードを読み込ませた。
【オーバードライブ! 紅火アーチャー!】
紅火アーチャーの空想領域が展開され、周囲が闇夜の摩天楼になった。
紅火アーチャーはインフェルノートのダイヤルを操作する。電子音声がモード変更をアナウンスした。
【マルチショット!】
紅火アーチャーは夜空に向けて炎の矢を放った!
【ジャッジメント・ショット!】
夜空で炎の矢が弾け、無数の矢に分裂する。矢の雨が辺り一面に降り注ぎ、ヘッドホンデリュージンを蜂の巣にした!
「ぐああああああああああ!」
ヘッドホンデリュージンは爆散! デリュージンカードが砕け散る!
倒れる華を駆け寄った恵美が抱き留めた。その光景にみゃーこが絶叫するが恵美は無視した。
「話し合っても、やっぱり無理だったら、責任取れんのかよ……」
華は誰にともなくつぶやいたが、恵美はそれを聞き取っていた。恵美は華の手に自分の名刺を渡した。
「話し合って、それでもうまくいかなければ、ここに連絡してこい」
華は力なく笑った。
「また金取るのかよ……」
「いや、取らない」
華は驚いた顔で恵美を見上げた。
「仕事じゃないからな。ただのお節介だ」
安堵したような顔を浮かべ、華は気を失った。
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「それで? どうなったんだ?」
出雲は恵美の前にコーヒーを置いた。
「どうなった、とは」
「この前手伝った事件だよ」
恵美はコーヒーを一口すすってから口を開いた。
「守秘義務だ」
「手伝ったんだからちょっとくらい教えてよ、このままじゃすっきりしない」
恵美はもう一口コーヒーを飲み、すこし黙った。
「いい方向に、前進しているようだ」
「……信じるよ」
出雲は微笑んで窓の外を見た。雲の切れ間から光が差していた。
夢幻実装!! 流星カリバー第4話 終
第5話に続く
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恵美だ。
貝塚君のバイトが決まった? それはよかった。
何? 謎の完璧美少年?
謎の変なおじさん?
何がなんだかさっぱりわからん。
次回、第5話『天衣ビューティー』
この話、君は信じるか?
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