第4話「逆行デリューナイト」②

 「何が『断る』よアンタは!」


 真理奈は恵美の頼みを断った出雲の両肩をつかみ、前後に激しくゆさぶった。


 「はぁ~? エミリンの頼み断るとかマジ何様ぁ?」

 「あーいやいや、これは違くてね……」

 「信用ならないか、私が」


 真理奈は出雲の人間不信について説明するつもりだったが、その前に恵美がきっぱりと言い当ててしまった。


 「……はい」


 出雲もこのあとしばらく自分の思いの丈をまくしたてるつもりだったのだろうが、その機会がなくなってしまってぼんやりしている。


 「はぁ~あぁ~? エミリンが信用できないってぇの? はぁぁぁああああ?」


 みゃーこが出雲たちに詰め寄る。怒りのあまり目が見開かれている。


 「あ、いや、出雲も悪気があって言ってるわけじゃ」

 「いや、構わない。職業上、人を見る目は鍛えているつもりだ。君にこういう傾向があることは、初対面からなんとなく察していた」


 恵美はみゃーこの肩に手を置いて彼女を制しながらそう言った。


 出雲は気まずそうに恵美から目をそらしながら口を開く。


 「そのデリュージンになった女の子の情報は、どこまでもらえるんだ?」

 「必要最低限だ。見た目と、行動範囲。個人情報につながることは教えられない。探偵として、依頼人から受け取った情報を簡単に教えるわけにはいかない。本来ならば、こうして協力してもらうことも避けたかった」

 「……じゃあ、この話が真っ赤な嘘でも俺にはわかんないってわけだ」

 「そうだな」


 真理奈が出雲の肩を引っ叩いた。


 「もう、キリないでしょそんなことばっか聞いてても! 私のことは信じられるって言ったよね?」

 「言った」

 「じゃあ恵美のことを信じる私を信じるってのは?」

 「……まあ、それなら」

 「じゃあそれで! みゃーこ、私に情報送っといて」


 真理奈は出雲をずるずると店外に引きずっていった。


 「藤崎くん、店番おねがいね!」


 出雲の声が遠ざかりながらカウンターの藤崎の耳に届いた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「でも探すって言ったってなぁ」


 みゃーこから送られてきた情報をもとに街を歩きながら出雲がぼやいた。出雲たちが分担されたエリアは繁華街で、入り組んだ路地にビルの配管が血管のように張り巡らされている。そして、そのわずかな空白地帯はグラフィティやステッカーで埋められている。


 「素人の俺たちが探してて簡単に見つかるものなんだろうか」

 「なんかさ、逃げたペット探すのもコツがあるらしいよ。人間もそうなんじゃない?」

 「楽観的だなあ」

 「案外さあ、このあと目の前通り過ぎたりして!」

 「そんなわけないでしょ」


 そのときだった。捜索中の少女が二人の前を通り過ぎた。


 「あ!」


 真理奈はスマートフォンの画面と少女を交互に見比べた。


 「いたぁ!」

 「声でけえよ!」


 二人のやり取りを聞いて少女──北村華は振り返った。三秒ほど、周囲は静寂に包まれる。二人の目的を察したのか、華はその場から駆け出した。


 「待って!」


 真理奈と出雲は華を追いかけた。真理奈が持ち前の健脚で追いつき、その肩を掴んだ。


 「待ってよ、えっと、名前知らないんだった。とにかく、ちょっと話を……」

 「離せよ! 放っといてくれ!」


 華がデリュージンカードを取り出し、その姿がヘッドホンデリュージンに変わる!


 「出雲!」

 「わかった!」


 それに応じて出雲もイデアライズカードを真理奈から受け取り、夢幻チェンジャーにセットした。


 「夢幻実装!」


 【イデアライズ! 流星カリバー!】

 【星の剣が銀河を翔ける!】


 流星カリバーは真理奈とヘッドホンデリュージンとの間に立ち、剣を構えた。


 「お前もあの探偵の仲間か!」

 「その力は君が思ってるより危険だ。やばいことになる前にそのカードを壊させてくれ」

 「嫌だね」


 ヘッドホンデリュージンが腕を組もうとする。あの透明化能力を使う前の動作だ! 流星カリバーはそれを見過ごさずに斬りかかる!


 「こいつ!」


 斬られた復讐にヘッドホンデリュージンがX字の光弾を放つ。流星カリバーはそれを切り払いながらヘッドホンデリュージンに肉薄。透明化能力を使う暇は与えさせない。


 だが、その戦いを見つめるものがいた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 流星カリバーとヘッドホンデリュージンの戦いを見下ろしながら、ルードゥスのメンバー・七隈錠ななくま じょうは左手に自らのデリュージンカードを構えた。


 「邪魔しやがって、頭にくるぜ」


 錠はデリュージンカードを右手に持ったデバイス──ナイトレグレッサーにセットした。


 デリュージンカードを認識し、ダークな電子音声がナイトレグレッサーから流れる。錠はナイトレグレッサーのトリガーを引いた!


 「──逆行」

 【レグレッション!】


 錠の身体から空想領域が展開される。しかし、周囲に形成された黒い鎧がその拡大を抑え込んだ。鎧は空想領域を錠の中に無理矢理押し込めるように動き、ついに空想領域を内包したまま錠の身体に装着された。漆黒の鎧の各所には彼の空想領域の赤いエネルギーがネオンのように光っていた。ナイトレグレッサーが変身完了の音声を発する。


 【デリューナイト・ゼノン!】


 ナイトレグレッサーが変身モードから自動変形し、斧となった。デリューナイト・ゼノンはビルの屋上から眼下の戦いに介入すべく跳んだ。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 飛来した黒い甲冑が、流星カリバーとヘッドホンデリュージンの間に着地した。


 甲冑姿の黒い騎士の兜は竜を思わせる形状で、バイザーの上には竜の牙のようなギザギザ模様が赤く光っていた。


 「なんだこいつ、別のデリュージンか!?」

 「わかんない、でもなんか、違う……」


 真理奈はデリューナイト・ゼノンの異質さを肌で感じていた。


 デリューナイト・ゼノンはヘッドホンデリュージンに振り向いた。


 「さっさと行け。お前の好きにしろ」

 「……!」


 ヘッドホンデリュージンが腕を交差させて集中すると、その姿がかき消えて見えなくなってしまった。近くの自販機のゴミ箱が見えない何かにぶつかられて倒れた。


 「あ、待て!」

 「お前が待て!」


 ヘッドホンデリュージンに追いすがろうとする流星カリバーにデリューナイト・ゼノンは斧モードのナイトレグレッサーで斬りかかった! 流星カリバーはすんでのところでスターブリンガーでそれを受け止める。


 「行かせるか。いい加減にしろよ」

 「こいつ……!」


 流星カリバーはナイトレグレッサーを弾こうとするが、デリューナイト・ゼノンの膂力がそれを許さない。


 「真理奈! 追いかけろ! デリュージンサーチャーだ!」

 「えっ、あっ、そっか!」


 真理奈はスマートフォンの画面を見た。デリュージンサーチャーはごく小さく展開されたヘッドホンデリュージンの空想領域をかろうじて捉えていた。


 「あと赤坂さんに『姿を消しても実体はある』って伝えて!」

 「わかった!」


 真理奈はデリュージンサーチャーを見ながら走り出した。


 「おい、お前も待て……足速っ!」


 デリュージンを追う真理奈を止めようとするデリューナイト・ゼノン。そのとき、流星カリバーがスターブリンガーのエンブレムを三度押した。


 「よそ見すんな!」

 【コズミックスパーク!】


 鍔迫り合いの状態でスターブリンガーから放たれた星型のエネルギー刃がデリューナイト・ゼノンを押し返した。デリューナイト・ゼノンは斧でそれをすぐさま砕いた。


 「はぁー……頭にくるぜ」


 流星カリバーは剣を構えなおした。流星カリバーとデリューナイト・ゼノンとの間に緊張の火花が散った。





夢幻実装!! 流星カリバー 第4話② 終

第4話③へ続く

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