第4話「逆行デリューナイト」①

■■■前回までのあらすじ■■■



 出雲と真理奈の前に、二人目の『原作者』・みゃーことその適合者・赤坂恵美あかさか えみが現れた。


 みゃーこは出雲に自分たち『夢創プロダクション』がデリュージンを生み出す実験を行う『ルードゥス』とよばれる集団と戦っていることを明かす。


 恵美はみゃーこの創ったヒーロー『紅火くれないアーチャー』に変身し、流星カリバーが苦戦したデリュージンを華麗に撃破した!



■■■あらすじここまで■■■





 「かっこよかったよな、紅火くれないアーチャー」


 真理奈の前にコーヒーを置きながら出雲がポツリと言った。


 「うん、確かに」

 「なんつーか、ダークな感じっていうか……リアルさがあるっていうか……海外ドラマっぽいというか……」

 「うん」

 「恵美って人もさ……探偵って……やばいよな。かっこよすぎる」

 「うん……解決したことあるのかな……『事件』とか……」

 「でもさあ!!」


 出雲は急に大声を出した。


 「それとこれとあの人が信頼できるかってのは別じゃねえかなあ!?」


 幸い、店内に客は真理奈しかいなかった。


 「何? また人間不信?」

 「俺は、藤崎くんのことはめっちゃくちゃ信頼してるの!マジで!」


 カウンターの中の藤崎がぺこりと会釈した。


 「真理奈も、かなり信頼値上がってきた。7割くらい」

 「値とか言うな」

 「で、みゃーこって人はまだいける。真理奈の知り合いだから信じられる。ぎりぎり」

 「ぎりぎりなんだ」

 「でも恵美って人はさあ! 他人じゃん! 知らない人じゃん!」

 「みゃーこのことは信じられるんでしょ? それでいけない?」

 「できない!!」出雲は大股を広げて絶叫した。「知り合いの知り合いは、他人っ!!」

 「ピンチのところを助けてくれたじゃん」

 「それはそうだけど……こう……さあ……『計画』かもしれないだろ!」

 「何の?」

 「何かの!!」


 呆れる真理奈に藤崎がクッキーを差し出した。


 「サービスです。店長がご迷惑を」

 「あっ、どうも」

 「知り合いが急に増えて情緒が不安定みたいです。申し訳ありません」

 「いえ、お構いなく」


 こっちも色々巻き込んじゃってるし。真理奈は頭の中でそう付け加えた。


 「断っておくけど、俺は好きで人間不信やってるんじゃないの! 信じられるもんなら何でも信じたい! でもなんか警報的なやつが作動するの!」

 「わかったわかった」


 そのとき、真理奈のスマホが鳴った。画面にはみゃーこの名が表示されている。ビデオ通話だ。


 「もしもし」


 真理奈が通話を取ったとたん、みゃーこの高笑いが飛び出してきた。


 「バカ真理奈、あんたどこで油売ってんの? あんたがボケーッとしてる間に、エミリンは大活躍中よ? ほらご覧なさい!」


 みゃーこが画面を動かすとその先では紅火くれないアーチャーと新たなデリュージンが戦闘を繰り広げていた。場所はどこかの倉庫裏のようだった。


 「えっ、あれっ!? デリュージン!? でも空想領域の展開は確認されてないし……」

 「バカ真理奈と違ってエミリンは機械に頼り切ったりしないのよ、名探偵の嗅覚で事件を追うの!」


 画面の向こうでは戦闘が続いている。紅火アーチャーの矢をデリュージンは回避しながら、X字形エネルギー弾を放つ。紅火アーチャーはそれを手にした弓──インフェルノートではじき、そのまま流れるように次の矢を射る。矢はデリュージンに命中!


 「クソ……!」


 デリュージンは腕を胸の前でクロスさせた。すると回路を思わせる幾何学模様の光が走り、デリュージンの姿が消えてしまった!


 「消えた!?」


 みゃーこが驚いた声を出す。


 「……………………」


 恵美は変身を解き、画面に近づいてきた。その手でみゃーこの手を取り、自分の顔に近づける。恵美が手に触れたのでみゃーこが黄色い声を出した。


 「手伝ってくれ」


 恵美は真理奈と、画面の外にいるであろう出雲に向けてそう言った。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ことは二日前にさかのぼる。


 「娘のはなです」


 北村邦子きたむら くにこは娘の写真を表示したスマートフォンを恵美に差し出した。赤坂恵美の飾り気のない探偵事務所は耳が痛いほどの静寂に包まれていた。


 「家出、ということでよろしいんですね?」

 「はい、昨日でもうじき一か月になります」

 「警察には?」

 「捜索願を出してますが、まるで見つからず……。そこで、あなたは優秀な探偵だと風の噂で耳にしまして、こちらに」


 恵美は邦子から華についての質問をしていく。


 きっかけは一か月前。元々喧嘩をしがちだったが華の進路について激しい口論になり、華が家を飛び出していったという。


 そして邦子の情報をもとに捜索すること二日。あっけないほど簡単に華は見つかった。しかし、問題はそこからだった。


 「帰ろう。お母さんが探してる」

 「チッ。しつこいんだよ、あのババア」

 「……本音にせよ、怒りから衝動的に出たものにせよ、そういうことは言わないほうがいい。そういう言葉は君の思考を蝕み、冷静な判断を遠ざけていく」

 「いっちょ前に説教かよ、探偵さん。でも、これ見てもまだそんな口が叩けるか?」


 華がポケットから何かを取り出した。黒い、板状のなにか。それは──


 「デリュージンカード!」


 華の姿が竜人形の闇と同化する。華はヘッドホンを着けた銀色の竜人──ヘッドホン・デリュージンに変貌した!


 「みゃーこ!」


 恵美がその名を叫ぶと、どこからともなくみゃーこが現れた。


 「了解エミリン! かっこよくやっちゃって!」


 みゃーこから受け取ったイデアライズカードを夢幻チェンジャーにセットして、ボタンを押す。恵美の身体が光に包まれた。


 「夢幻実装」


 【紅火くれないアーチャー!】

 【炎の矢が闇を裁く!】


 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「戦闘がどうなったかはさっき見てもらった通りだ。警察の捜索からも、あの能力で逃げていたのだろう」


 現在、恵美とみゃーこはカフェ・サンデーにいた。


 「姿を消すデリュージンか。そこはいいけど、なんで空想領域の展開を探知できなかったんだろ」


 真理奈はスマートフォンの中の『デリュージン・サーチャー』という名のアプリを立ち上げて首を傾げる。


 「多分だけど、本当にただ自分の姿が見えなくなればいいだけだからでしょうね」みゃーこが真理奈の疑問に答えた。「自分の周囲にだけ空想領域を展開して、自分の姿が不可視になりさえすればそれでいい。あまりに範囲が狭すぎて探知できなかった、ってとこでしょ」


 「そこで、君たちには足で家出人を探してほしい。対象が行きそうな場所はこちらから教える。透明化していても近づけば探知可能だろう。……頼まれてくれるか?」


 恵美は単刀直入に、しかし敬意を確かに込めながら言った。真理奈はそれを快諾しようと口を開いたとき、それは起きた。


 「断る」


 真理奈が振り向くと、出雲が眉間に深い溝を作っていた。




夢幻実装!! 流星カリバー 第4話① 終

第4話②へ続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る