第3話「業火ディテクティブ」③

 漢字デリュージンの放つ波動により、街の人々は次々と互いに支え合わなければ立てなくなってしまっていた。


 「みんな! 支え合ってるかーい!?」


 漢字デリュージンはショッピングモールを練り歩きながら、自分の信ずる漢字の由来が世に広まっていく喜びをかみしめていた。


 「あ! デリュージン見つけた!」


 そこへ出雲を肩で担いで引きずっている真理奈があらわれた。


 「ていうか、みゃーこいないくない?」

 「こんだけ走らされたんだから……追い抜いたんじゃない……?」

 「たしかにそうかも」


 真理奈が宙に手をかざすとディスプレイが投影された。それをスライドさせるとディスプレイは光の粒子となり、出雲の手の中で流星カリバーのイデアライズカードとして実体化した。


 出雲は左腕に装着した夢幻チェンジャーにイデアライズカードをセットする。


 「夢幻実装!」

 【イデアライズ! 流星カリバー!】

 【星のつるぎが銀河を翔ける!】


 宇宙的メロディと共に、出雲は流星カリバーへと変身を遂げた。しかし、いつものように勢いよく敵に斬りかかるわけにはいかない。真理奈と支え合っていなければ立ってられないのは変身しても同じだ。


 「なんだその格好は〜? 校則違反だぞ!」


 漢字デリュージンは光り輝く支持棒を取り出し、流星カリバーへと躍りかかった!


 「『ブライト支持棒』!」

 「うおっ!?」


 漢字デリュージンが振り下ろすブライト支持棒を、流星カリバーはすんでのところでスターブリンガーで受け止める。漢字デリュージンはさらにブライト支持棒の乱打を見舞う。流星カリバーはうまく防いでいるが、防戦一方だ。流星カリバーは動きが制限されるばかりか、生身の真理奈をかばいながら戦わなくてはならないのだ!


 そのとき、真理奈が流星カリバーの肩から手を離し、腕と腕を絡めてきた。


 「回すよ!」

 「は!?」


 真理奈は腕を絡めたまま、流星カリバーの身体を馬鹿力で振り回した。漢字デリュージンは予想外の動きに面食らう。そして、その勢いでスターブリンガーの切っ先が漢字デリュージンをとらえた!


 「ぐああっ!?」

 「成功!」

 「お前、やる前になんか言えよ!」


 漢字デリュージンは体制を立て直した。


 「おのれ、授業妨害だぞ!」


 漢字デリュージンは猛スピードで流星カリバーに突進する。迎撃は間に合わない。あれは如何なる攻撃か。もし、真理奈を巻き込むようなものであれば……。


 「──真理奈!」

 「えっ!?」


 流星カリバーはとっさに真理奈を抱き寄せ、漢字デリュージンに背を向けた。


 「漢字の意味、その身を以て知れ!」


 漢字デリュージンは流星カリバーの背に腕が分身して見えるほどの超高速打撃を繰り出した。


 否、打撃ではない。その手にはよく見れば真っ白なチョークが握られている。漢字デリュージンはすさまじい速さで流星カリバーの背中に「爆」という字をいくつも書き込んでいる! そして漢字デリュージンがチョークで突きを放つと、「爆」の字が一斉に起爆! 火花と白煙が舞う!


 「ぐああああああっ!」

 「出雲!」


 流星カリバーは真理奈の盾になったまま膝をついた。


 「俺の授業を軽んずるやつは、退学処分だ!」


 ダメージを負った流星カリバーにとどめを刺そうと、漢字デリュージンがブライト指示棒をふりあげた。


 「──あーはっはっはっはっはっは!」


 不意に甲高い嘲笑が辺りに響き渡った。戦いの場にいた全員の動きが止まり、音の方向を探る。


 「あ!? みゃーこ!」


 真理奈が見上げた先に、ショッピングモールの渡り廊下の上にみゃーこと恵美がいた。みゃーこは恵美を後ろから支えていた。


 「あいつ、わざわざ高いとこに登ってたからいなかったのか……!」

 「無様な戦いね、バカ真理奈! 私とエミリンの『紅火くれないアーチャー』が助けてあげるから、ありがたく思いなさい!」


 そう言うと、みゃーこは恵美の後ろで身体を横にしたり傾けたりしはじめた。


 「……何してんのあれ」


 流星カリバーの口から疑問が思わずこぼれた。その問いに真理奈が答える。


 「多分、なるべく自分の姿が見えないように恵美を支えてるんじゃない? 支え合ってたらあんまりかっこよくないから。そういうの気にするの、あいつ」


 みゃーこが宙に浮くディスプレイを動かすと、光が恵美の手の中に収束し、紅火くれないアーチャーの姿が描かれたイデアライズカードとなった。恵美はイデアライズカードを右腕の夢幻チェンジャーに装填すると、左手を右ひじに添え、右手のひとさし指を右こめかみに当てた。さながら探偵が推理をしているかのようなポーズだ。


 その鋭い眼光で見つめながら、恵美は左手で敵を指さし、判決を読み上げるかのように恵言する。


 「──夢幻実装」

 【イデアライズ!】


 夢幻チェンジャーのスイッチが押され、天へとエネルギーが迸る。空に作り出されたカード型ゲートから、オリジナル・紅火アーチャーの真紅のエネルギー体が現れた。恵美の身体が素体スーツに包まれ、エネルギー体が還元されたクリアーレッドの装甲が各部に装着される。ノワール的メロディとともに、紅火アーチャーへの変身完了を報せるアナウンスが流れた。


 【紅火くれないアーチャー!】

 【炎の矢が闇を裁く!】


 炎を模した仮面は、悪への怒りをあらわしているようだった。左手に紅蓮の炎が集まり、爆焔弓・インフェルノートを物質化マテリアライズさせた。弓と矢が一体となったような形状のそれを、紅火アーチャーは引き絞り、漢字デリュージンめがけ放った。炎の矢が漢字デリュージンの肩口を射抜く!


 「ぐわあああああっ!?」

 「──お前の世界は、私が解く」


 紅火アーチャーのセリフを聞いた出雲は色めき立った。


 「今のかっこいい! なあ、俺もあんなの言っていい?」

 「やめて」真理奈はきっぱりと断った。「趣味じゃない」


 紅火アーチャーは後ろで自分を支えるみゃーこの頭に手を置いた。


 「もう大丈夫だ。ここからは一人でいく」

 「エミリン……!」


 みゃーこは潤んだ目で紅火アーチャーを見上げた。紅火アーチャーはその場でジャンプし、地上へと降り立つ。


 「ふぎゃっ!」


 支えを失ったみゃーこが力なく倒れた。

 地上に降りた紅火アーチャーも同様に膝をつく。


 「はぁはぁ……無駄だ無駄だ! 誰も漢字の意味からは逃れられん!」


 紅火アーチャーの矢から逃れるべく物陰に隠れながら漢字デリュージンが笑った。


 「ふむ……ならば、アレか」


 紅火アーチャーは弓側面のダイヤルを回し、『TRICK』と書かれた盤面で止めた。


 【トリックショット!】


 インフェルノートからアナウンス音声が流れる。紅火アーチャーは再びインフェルノートを引き絞った。右手が脱力し、炎の矢が放たれる! 矢は漢字デリュージンが隠れる柱の真横を通り過ぎていった。


 「馬鹿め! どこを狙っている!」


 そのときだった。驚くべきことに炎の矢は急カーブで曲がり、柱の影にいた漢字デリュージンの胸に突き立ったのだ!


 「ぎゃああああっ! 馬鹿な、矢が曲がった!」

 「どこを狙っている、と言ったな」


 紅火アーチャーはすっくと、漢字デリュージンの胸を指さした。


 「そこだ」


 漢字デリュージンは自らの胸の黒板を見た。なんと、そこに書かれていた「人」という字が矢の直撃により掠れて消えている!


 「し、しまった! 人という字が消えたら……」

 「あれ、一人で立てる!」

 「私も!」

 「エミリン最高ーっ!」


 『人という字波』の影響が、漢字デリュージンの人という字が消えたことで解除されたのだ。

 

 紅火アーチャーはインフェルノートのダイヤルを再度操作し、今度は『STRAIGHT』と書かれた盤面に合わせた。


 【ストレートショット!】


 「おのれ、ならばもう一度、人という字──」

 「させない」


 インフェルノートからまっすぐに放たれた炎の矢が、漢字デリュージンの手にしたチョークを撃ち抜いた! さらに続けざまに矢が連射され、そのすべてが命中する。漢字デリュージンは吹き飛ばされて地面を転がった。


 「終わりだ」


 紅火アーチャーはインフェルノートのリーディングボタンを押した。


 【スタンバイ!】


 インフェルノートを夢幻チェンジャーに近づけ、イデアライズカードを読み取る。


 【オーバードライブ! 紅火くれないアーチャー!】


 周囲の空間が闇に包まれていく。気づけば、漢字デリュージンは闇夜の摩天楼の谷間に立ち尽くしていた。周囲には蒸気が立ち込め、街の喧騒の光が危険信号のごとく周囲を照らした。


 目の前に立つ紅火アーチャーが弓を引き絞る。インフェルノートの炎状のパーツが発光し、炎のエネルギーが矢部分に凝縮されていく。


 「う、うわああああああ!」


 漢字デリュージンはブライト指示棒を手に破れかぶれの突撃をした。紅火アーチャーはそれを意に介すことなく、冷徹に必殺の矢を放った。


 【ジャッジメント・ショット!】


 炎の矢がレーザービームのごとく一直線に漢字デリュージンを貫いた! 矢が上空を通過した地面には、その炎が航跡となって残されている。身体の中心を射抜かれた漢字デリュージンは火花を噴きながらもがいた。


 「敗北という字は……いつかリベンジを……ぎゃあああーっ!!」


 漢字デリュージンは爆散! 紅火アーチャーの空想領域が閉じていく。人の姿に戻って気を失う石田の傍らに、デリュージンカードの破片が落下した。


 「あーはっはっはっはっは! どうバカ真理奈!? あんたの流星カリバーより私の紅火アーチャーが優れていることが証明されたわ! あーはっはっはっはっは!!」

 「言わせておけばぁ〜……」


 みゃーこの高笑いに歯ぎしりしながら、真理奈は変身を解除した出雲の腕をつかんだ。


 「特訓するよ!!」

 「特訓!? いや、店に戻らないと……」

 「特訓ったら特訓!!」

 「嫌だー!」


 出雲はどうにかその場に踏ん張ろうとするが真理奈にズルズルと引きずられていく。


 「あれ? ていうか出雲、さっき私の名前呼んだよね?」

 「えっ!? あ、それは……」

 「隙あり!」

 「あぁーっ!!」


 変身解除した恵美は物憂げに空を眺めて息をついた。しかし、何者かの視線を感じて振り返った。だが周囲には彼女たち以外に誰もいなかった。


 「…………」


 しかし、それは勘違いではなかった。恵美に気づかれる寸前で身を隠した二人がいたのだ。ルードゥスのメンバー、七隈錠ななくま じょう呉服町密葉ごふくまち みつばだった。


 「やられちゃいましたね、デリュージン」

 「クソっ」


 錠は苛立ちを隠そうとしなかった。


 「いい加減、邪魔されるのもウンザリだ。次は俺が出る」


 彼は手にした己のデリュージンカードを強く握りしめた。




夢幻実装!! 流星カリバー第3話 終

第4話に続く





■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 みゃーこよ。

 出雲のやつ、私のエミリンが信じられないってどういうこと!?

 そんなに言うなら、エミリンのかっこよくて尊すぎる探偵姿を見るがいいわ!

 ……え? 何あれ? デリュージンじゃない!?


次回、第4話『逆行デリューナイト』。

この話、あんたは信じる?


 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る