第2話「覚悟スタンバイ」③

 「眼鏡眼鏡! 眼鏡をかけろ!」

 「オラァー!」


 暴れまわる眼鏡デリュージンを真理奈は鉄パイプで殴りつけた。


 「なんだお前は!」

 「どりゃあーっ!」


 真理奈は眼鏡デリュージンを滅多打ちにする。


 「やめろ! 眼鏡が傷ついたらどうする!」


 眼鏡デリュージンの眼鏡から眼鏡状のエネルギーが放たれる! 真理奈は直撃を避けたものの地面に着弾した爆発で吹き飛んでしまう。


 眼鏡デリュージンは×がいくつも組み合わさったフレームの眼鏡を生み出し、真理奈ににじり寄る。


 「お前のような眼鏡への反逆者は、眼鏡で矯正してやる! 眼鏡だけにな!」


 「うおおーっ!」


 そのとき、眼鏡デリュージンが白煙につつまれた。真理奈が見上げると、そこには消火器を持った出雲が肩で息をしながら立っていた。


 「ぐおおおっ、レンズが汚れたっ」


 眼鏡デリュージンは自分の眼鏡についた消火剤を必死に拭っている。その隙に出雲は真理奈を抱えて距離をとった。


 「ありがと。……もう戦わないんじゃなかったっけ?」


 「そのつもりだったけど……気が変わった。俺、独りのエゴで世界が染まったら、踏みつけられる人がいるってわかってなかった。騙されたくないって考えすぎて、大事なこと見落としてた」


 出雲は真理奈に対してほとんど前屈の角度で頭を下げた。


 「ごめん! 調子いいこと言うけど、『流星カリバー』やらせてください!」


 真理奈の言葉はない。そのかわり、出雲の左腕に力強い感覚があった。真理奈が夢幻チェンジャーを取り付けたのだ。


 「私のことは、信じられそう?」


 真理奈と出雲の目があった。


 「……ぶっちゃけわかんない。でも、いつか絶対信じられるようになりたい」

 「そこは信じられるでいいんだよ」


 真理奈がカラカラと笑い出した。出雲は気恥ずかしさで頭をかいた。


 「でも、正直でよろしい。私が創った流星カリバーも、『そういうやつ』だよ!」


 真理奈が虚空に手をかざすと光のディスプレイが現れた。そこにはオリジナルの流星カリバーと、流星カリバーのロゴが表示されている。真理奈はディスプレイを出雲に投げるようにスライド操作するとディスプレイは光の粒子となり、出雲の右手の中で流星カリバーのイデアライズカードとなった。


 出雲はイデアライズカードを夢幻チェンジャーにセットする。身体を衝動にまかせて動かし、空想と現実をつなぐ言葉を発する。


 「──夢幻実装!」


 【イデアライズ!】


 夢幻チェンジャーのスイッチを押すと勇壮な宇宙的メロディと共に光が放たれ、空からオリジナル・流星カリバーのエネルギー体が出雲の前に降り立つ。エネルギー体は装甲に変換され、出雲の身体を覆う素体ボディに装着される。


 【流星カリバー!】

 【星のつるぎが銀河を翔る!!】


 「な、なんだお前は!」


 眼鏡を拭き終えた眼鏡デリュージンが驚愕する。


 「俺は……流星カリバー!」


 流星カリバーが星剣・スターブリンガーを構え、眼鏡デリュージンに駆けだす。眼鏡デリュージンは眼鏡からエネルギー弾を放って牽制するが、流星カリバーそれを斬り払いながら進む。


 「はあっ!」

 「ぐあっ!?」


 間合いに入った流星カリバーの剣が眼鏡デリュージンを斬り付ける。


 眼鏡デリュージンはスクエアフレーム型の剣──アイスラッシャーを生み出して応戦する。スターブリンガーとアイスラッシャーがぶつかり合い、火花が何度も散る。


 だが剣技は流星カリバーに分があった。スターブリンガーを巧みに動かし、アイスラッシャーを絡めとるように弾き飛ばしたのだ! がら空きになった眼鏡デリュージンに痛烈な斬撃がヒットする!


 「ぐわあああっ!」

 「このまま一気に決める!」

 「──今だ!」


 そのとき、一瞬の隙をついて眼鏡デリュージンは先ほどの×が組み合わさった眼鏡を投げつける。眼鏡は流星カリバーの目元にぴったりとフィットした。


 「なっ、なんだこれ!? 外れねえ……うっ!?」


 眼鏡が外れないことに戸惑う流星カリバーだったが、事態はそれだけにとどまらなかった。視界が歪み、強烈な立ちくらみが襲ってきたのだ。


 「はははははは! どうだ、この超矯正眼鏡は! あまりの度の強さに何も見えまい!」


 眼鏡デリュージンは哄笑する。流星カリバーにかけられた眼鏡は通常の7000倍の度が入った眼鏡だったのだ!


 「くっ、眼鏡ごときで……!」


 負けじと剣を振るう流星カリバーだが、視界が狂った状態では太刀筋は空を切るばかりだった。


 「どこを狙っている! そうら!」


 眼鏡デリュージンのエネルギー弾が流星カリバーを直撃する。


 「うわああああっ!」


 吹き飛ばされる流星カリバー。立ち上がろうとするが、眼鏡のあまりの度の強さに平衡感覚までも狂ってしまい立てなくなる。


 「ちくしょう……!」

 「眼鏡に逆らった罰だ! 眼鏡の地獄に送ってやる!」


 眼鏡デリュージンがとどめをさすべく襲い掛かる。


 (クソ……覚悟決めても、ダメなものはダメなのか……?)


 あきらめかけたそのときだった。


 「──負けないで流星カリバー!!」


 戦いを見守る真理奈の声が出雲の耳に届いた。そして出雲の脳裏に、大切な眼鏡を奪われて涙を流す少年の姿がよみがえった。


 「うおおおおおおおおおおおお!!」


 流星カリバーは拳を強く握りしめると眼鏡デリュージン──ではなく、。自分でもよろめくほどのパンチは、はたして超矯正眼鏡を打ち砕いた!


 眼鏡デリュージンの斬撃を、流星カリバーはすんでのところでスターブリンガーで防ぐ。


 「何!? 俺の超矯正眼鏡が!?」

 「いってー……。でも、おかげでよく見えるぜ!」


 流星カリバーはスターブリンガーのエンブレムを2回押し、柄のトリガーを引く。


 【コズミックエッジ!】


 スターブリンガーの刀身が輝く。そのまま剣を押し込むと、アイスラッシャーもろとも眼鏡デリュージンは切り裂かれた! 両断されたアイスラッシャーが力なく地面を転がる。


 「ぐわああああっ!?」

 

 続けざまに斬撃、さらなる斬撃! そして後ろ回し蹴りを受けて眼鏡デリュージンは地面を転がっていく。


 【スタンバイ!】


 流星カリバーはスターブリンガーのリーディングスイッチを押し、夢幻チェンジャーの中のイデアライズカードにかざす。


 【オーバードライブ! 流星カリバー!】


 限定的に展開された流星カリバーの空想領域が眼鏡デリュージンの退路を断つ。


 「何っ!? 宇宙!?」

 「眼鏡の押し売りは終わりだ!」


 星々の海を光をたなびかせながら流星カリバーが飛翔する。


 【コズミックストラッシュ!】


 「はぁぁあああーっ!!」


 スターブリンガーの刀身の光がひときわ強く輝くと、流星カリバーは一条の光となって眼鏡デリュージンの身体を両断した!


 宇宙空間が消え、流星カリバーが着地すると、身体中から火花を散らしながら眼鏡デリュージンがよろめいた。


 「め、眼鏡……ガネメーっ!!」


 眼鏡デリュージンは爆散! デリュージンカードが砕け散った。炎の中から何かが飛び出し、方々に散っていく。眼鏡デリュージンが人々から奪った眼鏡だ。後には気を失った倉本だけが残された。


 出雲がイデアライズカードを夢幻チェンジャーから抜き取ると、流星カリバーの装甲が光の粒子となって消える。出雲は持ち主のところに飛んでいく眼鏡の行方を見つめていた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「やったー! ほんとに戻ってきた!」


 眼鏡デリュージンから眼鏡を取り戻した少年の笑顔を横目に、出雲は真理奈の座るテーブルにコーヒーとケーキを置いた。


 「え? お金持ってないよ?」

 「奢りだよ。ウダウダやって迷惑かけたから」

 「じゃあ……あらためて、これからよろしくね」


 真理奈は出雲に手を差し出した。


 「ああ。今日から俺が、流星カリバーだ」


 出雲はその手を固く握った。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 太陽がビルの影に隠れていき、空が朱に染まる。


 ビルの屋上でみゃーこはスマートフォンで撮影した流星カリバーの写真を見ていた。


 「ふーん、流星カリバーってこんな感じなんだ。まあ、バカ真理奈の割に悪くないんじゃない?」


 みゃーこの背後にレザージャケットを着た女性が近づいてきた。


 「……そいつが?」

 「そ、デビュー戦は先を越されちゃったけど、すぐに私の推しの方が大活躍しちゃうんだから。ねっ?」


 みゃーこはうっとりとした目でレザージャケットの女性の方を振り返った。


 女性は目を閉じてため息をつくと「どうでもいい」とだけつぶやいた。メッシュの入ったウルフカットの髪が夕陽に照らされ、紅蓮の炎のようだった。




夢幻実装!! 流星カリバー第2話 終

第3話に続く





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 真理奈です。

 やっと流星カリバーも見つかったと思ったら、みゃーこが自慢しに来た!

 その人がみゃーこの適合者?推し?私立探偵?どういうこと?


 次回、第3話『業火ディテクティブ』。

 この話、君は信じる?


 



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