第5話「天衣ビューティー」②

 出雲は校舎の周りをうろうろしていた。桜坂享司がまだ近くにいないかと思ったからだ。なんとなく悪人ではなさそうな感じではあったが、かといって不審者を見過ごすこともできない。


 「なんか、これじゃ俺が不審者みたいだな」


 そのとき、出雲のスマートフォンが震えた。真理奈からの電話だった。


 「デリュージンが出た! 今追いかけてるから合流して!」

 「わかった!」


 言うが早いか、出雲は走り出した。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 商店街のアーケードを天秤デリュージンは闊歩していた。天秤デリュージンは逃げ遅れた女性をつかみ、彼女の悲鳴を無視しながらその顔をじっくりと観察した。


 「よさそうね」


 つかまれた女性は光の塊となり、天秤デリュージンが持つ天秤の皿に載った球体に吸い込まれた。その天秤にはもう一方の皿にも別の球体が載っており、女性が吸い込まれたことによりふたつの皿の位置は少し釣り合った。


 天秤デリュージンは元の綾子の姿にもどると、スマートフォンの自撮り機能で自分の顔を見た。


 「やった! 小皺が少し消えてる!」


 綾子は人間の姿になってもその手に握られている天秤を見つめた。先ほどの女性が吸い込まれた球と、もう一方の──綾子の美を象徴する──球のバランスが取れるほど、綾子は美しさを取り戻していくというわけだ。


 綾子は再び天秤デリュージンの姿に戻った。


 「この調子で、もっと美しくなってみせる。バランスの取れた美を手に入れて見せる!」

 「綾子さん!」


 そこへ真理奈と出雲が現れた!


 「真理奈さん、邪魔しないで。私はアンバランスな自分を捨てるの、この力で!」

 「出雲! 綾子さんを止めて!」

 「なんだかわからんけど、了解! ──夢幻実装!」


 真理奈から託された空想の力が輝き、出雲は流星カリバーに変身した。

 天秤デリュージンは流星カリバーを一瞥した。


 「何、あなた?」

 「吸い込んだ人を解放しろ!」


 流星カリバーはスターブリンガーを振り下ろす。だが、天秤デリュージンの肩部分のアーマーが光ると、一対の皿型のバリアが形成され、斬撃を防いだ!

 天秤デリュージンはそのバリアを旋回させ、そのまま流星カリバーを弾いた。


 流星カリバーはスターブリンガーのエンブレムを二回押した。


 【コズミックエッジ!】


刀身にエネルギーが満ち、ふたたび天秤デリュージンに向かって斬りかかる!

 そのとき、天秤デリュージンの皿型のバリアが彼女の真横でそれぞれピタリと止まった。天秤デリュージンが片手を振り上げると、皿型バリアがガクリと傾く。すると天秤デリュージンから波動が放たれた。それを浴びた流星カリバーは、突然姿勢を崩して地に倒れ伏してしまう!


 「出雲!?」

 「なんだこれ、急にバランスが……」

 「まさにそのバランスよ。あなたのバランスを崩したの!」


 立ち上がろうともがく流星カリバーを天秤デリュージンはサッカーボールのように蹴飛ばす!

 転がった先で流星カリバーは負けじと夢幻チェンジャーを操作した。


 【アビリティ・オン、流星カリバー!】


 流星カリバーはぐらぐらとぎこちなく宙に浮かんだ。飛行能力を使っても、天秤デリュージンの影響から完全に逃れることはできなかった。出雲はコズミックスパークで遠隔攻撃をするつもりだったが、このままでは狙いが定めることができない!


 「あはは、そこでそうやって見てなさい!」


 嘲笑する天秤デリュージン。流星カリバーは次の一手に出た。そのまま飛行能力で旋回し、加速をかけたのである。


 「なんのつもり……?」


 不格好に波打っていた軌跡は、次第に直線の割合を増やしていった。そして十分な速度に達したとき、流星カリバーは天秤デリュージンめがけ突撃した! バランスの乱れをスピードで強引にねじ伏せる作戦に出たのだ!


 「これならどうだ!」

 「!」


 危険を察知した天秤デリュージンは、バリアをふたつ重ねて防御する。超スピードで突き出されたスターブリンガーの切っ先は一枚目のバリアを破壊! 二枚目のバリアに突き刺さった!


 「うおおおおおお!」


 流星カリバーはなおも速度をあげ、バリアには幾筋もの亀裂が走った。そして、ついにバリアが砕け散り、スターブリンガーが天秤デリュージンをとらえようとしたその時。




 【ナイトクラッシュ!】




 禍々しいネオンパープルの光が、流星カリバーを吹き飛ばした。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ほんの少しだけ時間はさかのぼる。

 天秤デリュージンに対抗するために加速していく流星カリバーを、呉服町密葉が見上げていた。密葉は少し不機嫌な顔つきで眼鏡の位置を直した。


 「あ、ちょっとやばいかも」


 密葉は両手にそれぞれ己のデリュージンカードとナイトレグレッサーを構えた。


 「助太刀、要りそうですね」


 密葉はナイトレグレッサーにデリュージンカードをセットした。


 「──逆行」

 【レグレッション!】


 密葉がナイトレグレッサーのトリガーを引くと、黒い鎧が周囲に形成され、展開されようとする彼女の空想領域を押し留めた。そのまま鎧が装着されると各部にネオンパープルのエネルギー光が走った。

 最後にナイトレグレッサーがロッドモードに変形すると、ダーク電子音とともに変身完了を報せるアナウンスが流れた。


 【デリューナイト・シグマ】


 デリューナイト・シグマは天秤デリュージンに肉迫する流星カリバーめがけて跳躍した……。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 流星カリバーは立ち上がると新たに現れた敵を見つめる。黒い鎧は女性的な艶めかしさを備えていて、各部を走るネオン光はそれをより扇情的に飾っている。出雲は先日戦った謎の黒い戦士を思い出していた。


 「この前のやつの仲間か……?」

 「あんまりデリュージンの邪魔をしないでもらえますか? こっちはいい迷惑なんです」


 デリューナイト・シグマはロッドモードのナイトレグレッサーで流星カリバーを打ちすえた。流星カリバーはかろうじてスターブリンガーでそれを防ぐ。

 しかし、流星カリバーには戦いのダメージが蓄積していた。デリューナイト・シグマの連撃に次第に対応が追いつかなくなる。そしてついに、デリューナイト・シグマの一撃が流星カリバーをとらえた。装甲から火花が舞い散る!


 デリューナイト・シグマは天秤デリュージンを振り返る。


 「あなたは自分の好きなように」

 「お気遣いどうも」


 天秤デリュージンは逃げ遅れた人々に向き直った。その中の女性を品定めして、一人の少女をつかまえる。


 「きれいな肌ね。次はあなたにする」

 「綾子さん、やめて!」


 居ても立っても居られず、真理奈が天秤デリュージンのもとへと駆け出した。しかし、それより早く天秤デリュージンの天秤が光りだす!


 次の瞬間、何者かが躍り出て天秤デリュージンに飛び蹴りを見舞った。天秤が地に落ち、少女は投げ出された。何者かは少女を抱きとめ、そっと壁にもたせると、耳元で「早く逃げて」とささやいた。少女はなにか美しいものを見たようなうっとりした顔で駆けていった。


 「何か胸騒ぎがしたのでここに来ましたが、僕は夢でも見ているんでしょうか」


 何者かは天秤デリュージンに振り返った。薬院あきらが、凛として美しく立っていた。




夢幻実装!! 流星カリバー 第5話② 終


第5話③へ続く


 


 

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