第2話「覚悟スタンバイ」①
■■■前回までのあらすじ■■■
小さなカフェの店長・西新出雲は、ある日泣いてる客に自分の所持金を超えた額を奢る女・貝塚真理奈と出会う。
店を飛び出して街に現れた怪人『デリュージン』を追う真理奈を食い逃げと勘違いした出雲は、追いかけた先で星の剣士『流星カリバー』に変身することになる。
真理奈は出雲にデリュージンと戦う仲間になってくれと頼むが普通に拒絶され、出雲はその場から逃げ出すのだった。
■■■あらすじここまで■■■
駅前のベンチに座りながら、真理奈は人を待っていた。行き交う人々の顔を見ながらその相手を探す。
ふと、駅の出口から出てくる人影を見て真理奈は立ち上がった。待ち合わせの相手が来たのだ。その相手とは小柄な少女だった。真っ黒なツインテールとパステルカラーの服が人混みの中でも目立っている。
少女は憮然とした表情で真理奈に近づく。真理奈は申し訳無さそうなしかめ面になって少女に駆け寄る。
「みゃーこ! ほんとにごめーん!」
「はい、これ」
『みゃーこ』と呼ばれた少女は真理奈に封筒を差し出した。茶封筒ではなく、銀行で紙幣を入れる封筒だった。
「ありがとぉー!」
真理奈は封筒を受け取り、封筒の口を開いて金額を確認した。
「ほんと、あんたバカなんじゃないの? クレカも無いのに所持金の管理もできないとか、お人好しのお節介好きも大概にしなさいよ!?」
「はい……返す言葉もありません……」
「ま、あんたに貸しひとつ作れるなら悪くないけどね。今度あたしの言うこと、なんでもひとつ聞きなさいよ」
「えー……?」
「『えー?』じゃないっての」
みゃーこは長い溜息をついた。
「で、あんたは見つかったの? 『流星カリバー』の適合者」
「見つかったよ」
「ま、見つかるわけないわよね。あんたみたいな超絶お人好しの理想に乗ってくれる人なんて──って、見つかったぁ!?」
「うん。でもその人の店で食い逃げ的なことしちゃってさ、このお金で払わないといけないんだよね」
「連絡来たときはワケわかんなかったけど、余計ワケわかんなくなったわ」
みゃーこは額に手を当てながら少しよろめいた。
「……まっ、誰だろうが私の『推し』の前じゃあモブキャラも同然だけどね」
「お、みゃーこも適合者見つかったの? 心強いよ、一緒に頑張ろうね」
真理奈はみゃーこに握手を求めた。みゃーこはその手を一瞥すると、平手で打ち払った。
「あいたっ!?」
「馴れ馴れしいわよ! 私は私の『推し』を一番にするの! あんたの流星カリバーなんかいてもいなくても変わんないわ!」
「えぇー……」
みゃーこは踵を返して立ち去った──かと思うと、立ち止まって振り向いた。
「来月までに返しなさいよ、お金!」
それだけ言うとみゃーこは雑踏に消えていった。
「相変わらずだなぁ……」
そうつぶやくと、真理奈もその場をあとにした。
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「………………」
「店長」
「………………」
「店長!」
「あっ、えっ!? 何!?」
「ボーッとしないでください」
「ああ、ごめん」
生返事をする出雲の心はここになかった。彼の頭の中では、昨日の土偶デリュージンとの戦いの記憶がぐるぐると回り続けていた。
本当に、自分にあんなことが出来たのだろうか。あの怪物も現実だったのだろうか。真理奈からはどうにか逃げ切ることができたが、もしかして彼女も幻なのではないか。
そうかもしれない。自分が変身して怪物と戦うなど、あるわけがない。人間不信とお人好しの板挟みになった己の精神が見せた幻……。
そのとき、店の玄関のベルが鳴って客が入ってきた。
「お待たせ! ツケの分払いにきました!」
真理奈だった。
「現実だあああああああああ!!」
出雲は絶叫しながら店を飛び出していった。
「えっ、ちょっ、なんで逃げるの!?」
真理奈も急いで後を追う。残された藤崎や他の客はただ呆然とするばかりであった。
「──はぁ、はぁ……!」
人目もはばからず街中を走って逃げながら、出雲は後ろを振り返る。
「おーい! 待ってよー!」
アスリート並の健脚で真理奈が追いつこうとしている! 出雲は恐怖し、さらにスピードを上げる。しかし、真理奈の方が速かった。
「つかまえた!」
「うわあああああああああああ!!」
真理奈に手を掴まれ、出雲は悲鳴をあげた。
「ほらお金! ちゃんと払いに来たんだってば!」
「い、いらない! 帰ってくれ! 離せ!」
「そういうわけにはいかないよ!」
「俺はもうあんなことしないぞ! これからも怪物と戦うなんてまっぴらごめんだ!」
「えっ!? それは困るよー! 適合者なんて滅多にいないんだから!」
「適合者!? 俺のことか! 俺に何をする、いや、俺に何をしたんだああああ!!」
今度は出雲が真理奈を肩をつかんで激しく揺すった。
「あーもう! ちゃんと説明するから落ち着いて!」
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男は朝刊にはさみ込まれていたコンタクトレンズの広告にカッターナイフを突き立てると、執拗に切り刻んだ。薄っぺらい広告の紙を刃が貫通し、作業台の上に深々とした傷を何本も残した。
彼は
「なぜ、全人類が眼鏡をかけないんだ」
彼は異常なまでに眼鏡を愛するがゆえに、眼鏡をかけない者を憎悪していた。なぜコンタクトレンズなどという機能性だけの無粋なものを選ぶのか。眼鏡は安全なのになぜレーシック手術で身体に傷をつけるのか。視力に問題がない者でもオシャレのために伊達眼鏡をかければいい。眼鏡をかけないという選択肢などありえない。彼はそう信じていた。
「あらら~、すごく溜まっちゃってますねえ~」
のんびりとした声に顔をあげると、そこには丸眼鏡をかけた見知らぬ女がいた。
(誰だ、このグラマラスな眼鏡美女は……?)
客だろうか、と倉本は考えた。
「いらっしゃいませ。本日はどのような? 」
「ええと、私『いいもの』を探してまして」
「それでしたらこちらのフレームはいかがですか。今の眼鏡もお似合いですが、こちらのアンダーリムもお似合いになるかと──」
「あら、『いいもの』というのはあなたのことですよぉ」
眼鏡の女は倉本の手をとって何かを握らせた。
「あなたのエゴで、世界を塗りつぶしてみませんか?」
倉本の手の中で、デリュージンカードの絵柄がぐにゃりとうごめいた。
流星カリバー第2話① 終わり
第2話②に続く
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