第23話 死の都攻略 中編

 死の都は過去の王都だと推定されていて、構造は現在のほとんどの王都と同じように太い中央道路が王城まで貫き、所々に広場があり、その両側の道に幾つもの広場を持っていると思われています。

 奥に行くとスケルトンが大きく強くなるので、中央の第三広場までしか行けていないのでした。

 入り口の広場の次は両側に脇道がある第一円形広場を掃討します。踏み込むと両側から応援が来るのです。

 門前から撃って逃げて来れるか試すことになりました。


 ロンタノは外を向いて、わたしがからだを捻って後ろ向きに撃って逃げます。

 昨日の倍くらいの数の大型犬サイズが湧いたのですが、結界の外で衝撃波を浴びせられ、体力戦闘力を持て余していた接近戦組に粉々にされました。

 あっさり終わってしまったので、老師様がインディソルビリス閣下とエレガンティナ閣下を呼んで作戦会議です。


「どうするかのう。ちと早すぎるで。左の広場を落としてから昼飯か、一度休むか」

「兵に疲れはありません。左を落としておけば、午後に右と正面を落とせます。野営の安全が増します」

「そうじゃが、上手く行き過ぎておらんか」

「それでしたら、亜竜を呼び寄せての討伐も叶わぬ事でした」

「そうじゃな。変わったんじゃよな。よし、まずは左を落とすか」


 吹っ切れた老師様と左の横道に行き、広場が見えたらパーティングショットをかまして、一目散に逃げます。

 亜竜討伐と干し肉を食べ続けたロンタノが速い速い。更に一回り大きくなった軽トラサイズのスケルトンが追いつきません。

 討伐隊は入り口広場にいたのですが、老師様がバーチェス公子を先行させて、結界の外に全員出ました。

 スケルトンは横道を通って列になって来るので、兵力の逐次投入の形になって、あっさり討ち取られました。


「次は逃げ切ったら下る用意をして、門前に主力を置くか。六属性の嬢ちゃん、右やってみるか」

「はい!」


 凄く嬉しそう。あまり感情を見せないセネアチータ殿ですが、ずっと二番なのは気にしていたようです。

 でも、セネアチータ殿は衝撃波組も出来るけど、レーザー撃たないとわたしはすることがありません。


「嬢ちゃんとロンタノはちと休め。生き物倒しているのと違うで。霊力は戻っても疲れるはずじゃ」

「生命力が入って来ないんですね」

「そう言うこっちゃ」


 経験値みたいのは入るようなのですけど。


 お昼ご飯の後、ガチガチに緊張したセネアチータ殿を乗せたフレシュナイトをよしよしします。

 旅団長から励まされるのが大事なのです。


「セネアチータ殿、大丈夫よ。ただ、どんって撃ってフレシュナイトに任せて逃げて来ちゃえばいいだけだから。あなただってカマス頭もトカゲ頭も平気で撃っていたでしょ」

「それは、旅団長に敵意が向いていたからです。何れはわたしも亜竜は呼べるようにならないといけないんですよね。出来るようになるんでしょうか」

「それは、今考えんで良いよ。一つづつ出来るようになればいいんじゃ。先づ目の前の仕事を片付けようかい」

「はい」


 バーチェス公子とラメール様は警護役、ミューザレイヌ殿は衝撃波組、縁故採用ズも闘気弾組に入って、独り予備戦力に囲まれてお休みです。

 その暇持て余し組にインディソルビリス閣下が混ざっています。


「雑魚の相手はしないでよかろうと老師様に言われてな。本来館主戦用の戦力ではあるのだが、今までは門前から戦わぬわけにはいかなかったのだ。王都守備軍すら接近戦をしておらんから、こちらには何も来ぬわ。次は少し通して貰い、戦っておかんといきなり館主戦ではむしろまずい」


 横道の奥に館と呼ばれている倒壊していない建物があって、そこにボスが居て霊鋼銀があるのです。


「館主って、どんなのが出るんですか。その時その時で違うからって、はっきり教えてくれなかったんです。知ったらわたしが嫌がって行かないって言い出すんじゃないかって雰囲気っだったのですけど」

「すでにこの場に居るので構うまい。陸蟹、鉈ケラ、大ダニ辺りまでは良いか。後は蜘蛛、百足、蠍、様々なゴミムシなどが出るが、見た目は生きているのと変わらん。文人の女が嫌がりそうな物ばかりだ。そなたに戦わせはせんから、帰るな」

「ここからどうやって一人で帰るんです。外骨格のスケルトンが意外すぎて怒る気もしません。でも大ダニも良くないです」

「そうか。しかし、陸蟹は堅い上に動きが良く、鋏も長いので手強い。鉈ケラは素早い上に飛ぶ。大ダニは堅いが足で突いて来るだけなので当たりなのだがな」


 そんな話をしていると、バーチェス公子が走って来ました。ラメール様を乗せたムーたんより速いんです。


「下れ! 下れ! 来るぞ!」


 全員で結界の外に出ます。セネアチータ殿を乗せたフレシュナイトがわたしのいる盾組に合流したところでスケルトンがやって来ました。

 やはり縦の長い集団になってセネアチータ殿を目指して走って来るので、左右に待ち構えた各種遠距離攻撃に殲滅されてしまいました。

 わたし達がセネアチータ殿とフレシュナイトを労っている間に、インディソルビリス閣下は老師様に戦闘許可を取りました。

 結界の外まで誘き出せるなら接近戦闘でも問題なかろうとなって、ここまで戦闘のなかった老師様とエレガンティナ閣下も加わって、遠距離攻撃なしで戦ってみようと言う事になってしまいました。


 次はわたしの番で、入り口広場から第二広場を撃ちました。ちゃんと湧いて追いかけて来ましたが、第一広場を出る前にこちらは結界の外です。

 王国三大戦力に率いられた欲求不満の精鋭部隊と、大きいだけの骨の戦いは、言うまでもない結果になりました。

 やはり、派手に飛び散った霊核を拾う方が手間がかかりました。

 余っている戦力を連れて各部隊の衛生科と薬学科と錬成科が周辺を漁り、何か持って帰って来て騒いでいました。

 周辺はそれ程霊気は濃くないのですが、今までは広めに探索をする余裕がなくて手付かずだったので、中級品や中の上くらいの需要の多い物が大量に見付かったようです。


 格下の骨相手では亜竜製の戦槌が痛む事も無く、怪我人も出ないので錬成科と薬学科は暇です。

 少数精鋭の変人集団第二錬成科はほっとくとして、薬学科の女の子が寄って来たがります。全員年上なのですが、なぜか「女の子」と思ってしまうのですね。

 で、その子達がハニトラに引っ掛かってます。近衛のエリートは普通は法術師でも一緒に狩りや討伐が出来ない実務系を相手にしないんですよ。

 これが終わったら彼女達に会いに来るのを口実にして、旅団宿舎に出入りする魂胆なのは判り切っているのですが。


 薬学科長に言っても、能力の高い男の種が只で手に入るだけで、女は子供を上手く育てれば老師様みたいな目には合わないと思っているのです。曾孫や玄孫辺りが慕って一緒に過ごしてくれると。

 そう上手く行くんでしょうか。

 老師様とインティソルビス閣下は自分の知り合いや部下なので、むしろわたしと近づけたがっています。

 王都守備軍はこの二人に遠慮して近付きません。

 薬学科のコネのない子が典薬局に入れないのと同じのなですが、どうにもなりませんね。


 夕食後の食休みの時に、ワイサイト教授に聞かれました。


「なんでこんなところに王都があったんだろう」

「昔はあったかかったんでしょう。今は海退期なんでしょ」

「なに? それ」

「多分寒くなって極地の氷が増えて海の水が減って、陸地が多くなったんですよ」

「世界中寒くなる?」

「どうしてかは色々説があったんです。太陽の活動がちょっとだけ弱くなるとか、大気の成分が変わるとか、大陸が動くとか。この辺りに限ってい言えば、マグナムグスフラメンタムの湾は大きめの隕石の落下跡なんじゃないですか。あんまり大きいと生物がほとんど滅んじゃうので」

「隕石が落ちて、埃が大量に舞い上がって太陽の光が届きにくくなるから寒くなる?」

「そう。前世の世界だと寒くなるだけなんだけど、ここは魔獣が下って来ますよね。あっという間に、都全体が埋め尽くされてしまったんじゃないでしょうか」

「だから獣の動死骨ばかりなの? でも、そいつらはなんで死んだ?」

「隕石落下のショックで地脈に亀裂が入って地上に噴出して、人間が暮らしていた傍にいた魔獣には霊気が濃すぎたんでしょう。死んだ後なんでスケルトンになってしまったのかは判らないけど、今も地脈から霊気が漏れているので、リポップするんですよ」


 一息ついて周りを見たら、ドン引きされていました。

 もしかして、天動説絶対の暗黒ヨーロッパで地動説と進化論唱えてしまったかも。

 ワイサイト教授に言い訳します。


「今のはただ、前世の知識でした推測ですから」

「推測でいいから、なぜ動死骨になったか教えて欲しい」

「それは、攻撃型の霊法具が魔獣になってしまうのと同じでしょう。肉が落ちる方が無機物が命を持つより簡単じゃないでしょうか」

「なんでそんなものにする」

「倒しやすいし、再生させやすい」

「なんで」

「人間に倒させるためでしょ。霊核が手に入りやすくて、スタンピードをコントロールできる」

「なら、なぜ門番鳥はいる」

「努力はしなくてはいけないから。霊法具が魔獣になるのも、努力をせずに力を手にさせないため」

「それが、造り主の御心?」

「え? 何を言ってるの? これは、どういうこと?」

「たまに、あるんだ。造り主が答えをくれる」


 不思議な場所で不思議な一夜を過ごしました。

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る