最終話 仕事の時間は終わらない
安全を確保するために館攻めの前に、中央の広場を二か所空にしました。
横道から応援が来ても、二つ下から撃って更に二つ下で迎え撃つので、移動で転んで擦り傷を作る程度の怪我人しか出ませんでした。
以前なら三日目には負傷者を下げて入れ替え組を呼んでいたのですが、周囲で獲れる薬草のお陰で疲労もなく、翌日三軒目の館を落としました。
主は単体ではなく、二メートルくらいの蜂の群れを伴っていたのですが、先に飛んできた蜂は衝撃波隊に粉砕され、二本尻尾のあるサソリの主は袋叩きにされて消滅しました。
「館前の広場で戦っておったら、えらい目にあう所じゃった」
「三番の館の主を討ったのは、初めてでしたから」
こらこら。
四軒目の館はヒグマサイズのセミの抜け殻が大量に湧いて、消耗戦を仕掛けてきた後に、頑丈なザリガニの主が出て来たのですが、こちらに比べて足が遅いので、結界の外に連れ出されて砕かれました。
流石にこの先は何が出てくるか判らないので、終了になりました。
真竜がいる場所は判っていても、狩りに行かないのと同じです。
人間が手を出して良い範囲を、この世界の住人は心得ています。
カマス頭狩りで文官のパワーレベリングをしながら、中将を落とし役、少将を仕留め役が出来るまでに育てました。
そのくらいの量では亜竜素材は値崩れしません。
二軍のレーザー隊も光属性が二級になって、妖女鳥を落とせるようになり、将来カマス頭狩りなら二軍でも出来るめどが立ちました。
今までは三級が二級になるのでも、ひたすら使って早くて二十年と言われていたのですが、一月に亜竜四匹のパワーレベリングなんてなかった訳で。
トカゲ頭と硬果蛇を交互に獲って生き血を抜き、死の都の館を四軒ハシゴして霊鋼銀を増やして、いよいよ最強の亜竜走り鎌に挑みます。
三大将の他に、中将、少将を連れて行けるだけ連れて行きます。
水行五日、陸行三日の後、小山と言っても標高百メートルはある牛狩り山に到着しました。
ワイサイト教授の運転する四駆には、国宝の八十樽入りの収納が載せてあります。
二十樽超級もいるそうですが、どれだけ獲るつもりなのでしょう。
山に登らないと地平線が見えてしまう大草原に、アジアゾウくらいの牛が、三々五々のんびりと草を食べています。
山の上からだと、その奥の森と更に北の山脈が見えます。
平和に暮らしている牛を襲うための戦闘態勢が整えられました。
わたしがビームで頭を撃ち抜き、戦士系が下って行って別の牛を蹴散らして持って来る予定だったのですが。
「嬢ちゃん、あすこを見ておくれ。翼竜がおるじゃろ」
「はい、翼竜ですね」
「そうじゃよ。な、一発撃ってくれんか」
「はい」
「あ、ええんか」
「どうせ来ませんから」
「そうかの。判らんぞ」
やるからには万が一来るのを想定して、臨戦態勢を取ります。
準備が整ったら、暴発寸前の全力ブッパです。
翼竜の頭の辺りが光って、ちょっと首を振ってあっちの方に行ってしまいました。
わ、まぶしっみたいな。
「ほら、来ないじゃないですか」
振り向いたら、誰もがっかりしていません。
「当たりおった」
「反応しましたよ」
エレガンティナ閣下がわたしに寄って来ようとして、老師様に阻止されました。
「儂の嬢ちゃんに触るでない」
あなたのじゃありません。
その隙にインディソルビス閣下が寄って来ます。
「あとは、威力を上げるだけだ」
他の戦士系は声は出さないけど、変な気合を入れています。
ワイサイト教授が場違いな声を出しました。
「走り鎌がこっち見てる」
「あ、ほんとだ。何騒いでるんだみたいな?」
改めて臨戦態勢を取り直し、思い切りビームを撃ちます。
光が収まると、お返しとばかりに口を開きました。
陽炎のように周囲が揺れましたが、風も来ません。
セネアチータ殿に口の中を撃たれて、顎を引いて突っ走って来ました。
パルスで牽制しながら少し山を登らせて、十字砲火で滑落させて、三大将を先頭に将官の一斉攻撃で無難に仕留めました。
以前の基準では一匹獲れたら帰っても良かったのですが、翌日から計画通りに牛を獲って見せびらかして、走り鎌を森から誘き寄せました。
最初の一匹を解体して分けたので、三匹を国宝の収納に入れて帰投しました。
老師様が、わたしの攻撃に翼竜が反応したのを国王陛下に報告しました。
「十年と思うておりましたが、七年先には真竜をお目に掛けられましょう」
「おお、言葉もない」
感無量の陛下の御前を辞した後、サオファ殿下にどうしても聞いて欲しい事があると、お部屋に呼ばれました。
「竜殺しとなれば、寿命は百五十まで伸びる。ムウロムよ、今一人子を儲けられぬか」
「なんと」
「二心なくわらわに接してくれたのは、そなたとインディソルビスだけであったが、そなたはわらわを守らねばならぬ童としか見てくれなんだ」
「二の殿下じゃったのか」
「何がじゃ」
「以前、れえざあの嬢ちゃんに云われましてな。身近に居て異性と思うておらぬ女人に男として好まれていると」
サオファ殿下は老師様と暮らす事になりました。
宮廷楽師もパワーレベリングで育っているので、サオファ殿下が楽師頭をやめても問題はなかったのですが、王子の楽師頭は対外的に意味があるので、普段は副頭に任せて、大きな宴会や新任大使の歓迎会などで楽師頭としてお仕事をされます。
カマス頭狩り、死の都、トカゲ頭と硬果蛇の生き血、走り鎌狩りのローテーションで一年を暮らし、二年目にサオファ殿下は女の子を産まれました。
行くたびに翼竜がいたら撃っていたのですが、五年目に癇癪持ちだったのか短気だったのかが襲って来て、討伐されました。
予定通り来るだけで相当消耗してしまうらしく、こちら側の被害はありませんでした。
当然最後の一撃は老師様が決めて、真の竜殺しになられました。
国王陛下主催の盛大な宴会の後、旅団内で気の置けない宴会をしました。
サオファ殿下のBGM付きです。
「これで、老師様も引退ですね」
「なんでじゃ! 儂は死ぬまで嬢ちゃんの特別参謀じゃ!」
わたしは、セネアチータ殿が光属性一級になれたら引退したいと思ってるんですけど。
それ行け竜伐特務旅団 袴垂猫千代 @necochiyo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます