第24話 死の都攻略 後編
妙な夢を見たような一夜が明け、普段のように目を覚ましました。
昨日話した事は覚えていますが、誰も気にしていないようです。
館主との決戦の朝がやってきました。
館の扉を撃つのはセネアチータ殿の番ですが、威力が足りないかもしれないので、わたしも行きます。
館のある広場への道はへの字になっているので、撃つには曲がりのところまで近付かないといけません。
予備の攻撃手段のわたしは、近衛軍の護衛希望者に囲まれて第二広場で待ちます。爆発音の後、直ぐに斥候の人が走って来ました。
「来ます!」
邪魔にならないようにロンタノにしがみ付いてとっとと逃げます。館主はかなり速いと言われました。
第一広場にいる主力と合流しても、止まらずに広場の出口まで下りました。振り向くと、フレシュナイトが疾走して来ました。
「各隊迎撃用意!」
追って来ているのは大イノシシと同じくらいの茶色い丸っこいものです。殿の老師様とインディソルビリス閣下が衝撃波組より下に入ったところで一斉攻撃が放たれ、セネアチータ殿の護衛四人を残して付いていった討伐組が振り向きます。
「任せたぞ!」
副官に声を掛けて、エレガンティナ閣下も加わって動きの止まった館主に接近戦部隊が襲い掛かりました。
寸詰まりで鋏の開かないザリガニでしょうか。先端が分厚いオールのようになった長い腕を振り回しますが、正面で老師様が捌いています。
その隙にインディソルビリス閣下とエレガンティナ閣下が横に回って足をどんどん切ってしまいました。
腕だけになっても老師様と遣り合っているところに二人が前に来て、腕を根元から切り落とし、老師様のジャンピング真っ向唐竹割りが決まって、崩れて白い粉になって消えました。
館主はカタツムリの殻を割って食べる甲虫の巨大化したもので、蟹と並んで手強い、あまり出てこないものだそうです。
「マイマイタタキでこんなものか。雑魚も湧かんし、楽過ぎるで」
「今までより二つ下ですから。後は雑魚が出るかどうかですな」
「その確認はやらせて下さい。戦っていない者がかなり居ります」
エレガンティナ閣下が館がある奥の広場を確かめに行って、雑魚が湧かないとの報告が来て、ぞろぞろ向かいます。
館は壊れると言うより吹き飛んでいました。中央に茶色い小山が残っています。
「六属性の嬢ちゃん、仕上げじゃ。あの山の先を撃っとくれ」
出来るだけ遠距離から頂上を撃つと手に入る霊鋼銀が多く、当て損なうとなぜか減るのだそうです。
広場の外からだと攻撃と見なされない可能性があるので、ぎりぎりの所からセネアチータ殿は見事に山頂を撃ち抜いて、小山が爆散しました。
この爆散も風属性弾の射程より広いので、防御が必要になっていたのですが、ちょっと風が来ただけです。
跡には銀色の塊が残っていました。いそいそと早足でぞろぞろ移動します。
「四枡あります!」
拾ったトーアベヒター科長が声を上げました。
「多いんですか」
「今までの倍じゃ。雑魚が湧かんかった分で増えたじゃろう」
「予定の二人分になりますが」
「拙の武器は離宮の結果を見てからで宜しいかと思います。ここでは電撃が効きませんから」
「では、バーチェス公子の槍を造ります」
科長が銀の塊をパンでも千切るように手で半分にしました。思わず声を出してしまいました。
「え!」
「霊鋼銀素手で千切れる錬成師はそうはおらんが、最年少賢者だで」
金属を千切った事自体に驚いたんですけどね。やれるのは知っていたけど、もっと力尽くなのを想像していました。
半分をワイサイト教授に渡して、見ている間に粘土細工のように捏ねて槍が出来てしまいました。
死の都攻略は個人では不可能なので、霊鋼銀の武器は将官になった時に下賜されるものだったので、バーチェス公子は感極まってしまいました。
採れた霊鋼銀が倍だったので、異様な期待感に包まれたお昼ご飯になりました。左側は攻略が難しい分、採れる霊鋼銀が多いのだそうです。
左奥の広場は半分湖になっていて、一歩入ると飛行能力のある魚の骨の群れが襲い掛かってくる、ファンタジーよりはパニックホラー系の場所です。
湖の奥の小島に館があり、そこまで道が通じているのですが、道の真ん中辺りが風属性弾の最大射程でした。
扉を撃つと館が爆発して主が現れるのですが、館の爆発から逃げるのも高速の山羊でぎりぎりだったそうです。
「先に雑魚を出さんと主が強くなるようじゃな。嬢ちゃん、撃ったら直ぐ逃げとくれ」
「はい」
広場の外の道から館の扉を狙います。撃ったら言われた通りにさっさと逃げます。
第一広場の戦闘部隊と合流して更に下の入り口広場まで逃げ切りました。
戦闘部隊は入り口広場中央で迎え撃ちます。
「髑髏ゲジよ!」
ガラデニア科長い言われて振り向くと、恐ろしい物が迫って来ていました。
口吻の短い哺乳類の骸骨の脊椎が三倍くらいに伸びて、肋骨が足になっています。骨で出来たゲジゲジです。がしゃどくろを訳判らなくしたみたいなの。
頭は門歯が牙になった動物です。頭蓋骨だと何だか判りません。
蟷螂のような前足があって、老師様とインディソルビリス閣下が一本ずつ相手をして、エレガンティナ閣下を中心にこちらから見て左側の足を砕いて行きます。
巨体の割には脆い感じで足が砕かれて行き、傾いて右腕を振り回せなくなって、二人掛かりで左腕を攻められて砕かれ、防御の無くなった頭蓋骨をインディソルビリス閣下が砕きました。
「呆気ないの。これが出ると討死が出るのを覚悟せねばならなかったのだが」
「楽になったからと言って、過去の戦いの猛者の名誉が失われるものでもないでしょう」
「そうじゃな」
老師様は辛い思い出も沢山あるのでしょう。少しは我儘も聞いてあげましょう。
ぞろぞろと館に移動します。
先行隊が安全を確かめてから、命中精度の高いセネアチータ殿が小山を撃って先程より明らかに大きい銀の塊が出現しました。
先鋒の人が取って来て、トーアベヒター科長に渡します。
「五枡あります!」
歓声と言うより咆哮が上がりました。
とりあえず、朝の残りでラメール様用の長目細身の槍が造られました。
出来上がると、老師様がトーアベヒター科長に近寄ります。
「若賢者殿、霊鋼銀余らんか」
「霊鋼銀が余ると言う事はありません。有れば有るだけ用途も有ります」
「ま、そうじゃな。余りはせんが、予定より大分多く取れたよな」
「予定よりは必要な物に使う余裕はあります」
「槍見て欲しいんじゃが。この処亜竜かなり獲ったで」
「拝見します。改造をご希望ですか」
「いや、何度か弄ってこれ気に入っとるで。真新しくしておくれ」
トーアベヒター科長は受け取った槍を撫ぜ回した後、霊鋼銀をつき立てのお餅みたいに一握り千切って、槍に塗り出しました。
槍は鉄灰色、霊鋼銀は普通の銀色なのに、塗料塗っているみたいにどんどん白くなって行きます。所謂白銀色です。
全部真っ白にしてから老師様に返されました。
受け取った老師様がぶんぶん振り回します。
「いかがでしょうか」
「良いわ。色を灰色に戻しておくれ」
撫ぜ回していると、刃だけが白い元の鉄灰色の槍に戻りました。
老師様が離れて行くと、エレガンティナ閣下とインディソルビリス閣下がトーアベヒター科長に近寄ります。
「必要であれば、改造する余裕はあるのですね」
「必要であれば、余裕はあります」
「前から、一指穂先を伸ばしたかったのです。石突の重さもそれに合わせて欲しいのです」
「では、拝見します」
エレガンティナ閣下から受け取った槍の穂先に、千切った霊鋼銀の塊を刺して、ごにょごにょしていると、伸びた白い穂先になりました。
バランスをちょっと確かめてから、石突に霊鋼銀を足します。
「いかがでしょう」
渡された槍を振り回して、エレガンティナ閣下が笑い出しました。
「これ、これよ。欲しかったのは」
「では、色を戻します」
元の色に戻った槍を受け取ってエレガンティナ閣下が離れると、インディソルビリス閣下の番です。
「当職は、穂先を二爪全体に広げて頂きたい。石突の重さも合わせて下され」
屋台の飴細工やバルーンアートを見ている感じで謎金属の槍が改造されました。
お二人が槍を振っているのを見ていると、槍を仕舞った老師様が近づいてこられました。
「なあ、嬢ちゃん、予定よりだいぶ上手くいっとるで、もう二軒いかんか?」
アンタは酔っぱらいの上司か。
優しくしてあげようと思った気持ちが萎えて行く。
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