第13話 竜伐特務旅団
カマス頭討伐は大概王都守備軍の仕事だったので、先にエレガンティナ閣下が四日後の昼前に到着されました。
身長は百八十センチくらいですが、締まっていて変に筋肉質でもないので、老師様と並ぶと普通の女性に見えますが、あからさまに興奮していて、せわしない犬みたいです。
挨拶もそこそこに手順やフォーメーションの話をして、老師様にステイされました。
興奮しててお昼は食べないかと思ったら、老師様と同じくらい召し上がりました。
食べている最中は静かではないけどカマス頭の話はしなかったのですが、食べ終わった途端に「まだ来ないのですか」「早く来ればいいのに」と言い続けられます。
わたしも同じ思いです。二人分の願いが天に通じたのでしょうか、日暮れ前にカマス頭が現れたと報告がありました。
ちょっとうんざりした感じの老師様に言われます。
「嬢ちゃん、明日で良いか」
「それは、討伐の準備が出来ているならわたしは構いませんが」
「そうか、こちらは何時でも行ける。では、明日じゃ」
「はい、明日ですね」
エレガンティナ閣下が収納からファンタジー金属の槍を出されます。今出してもだめでしょ。
老師様が何やっとんじゃ、見たいなお顔をされます。
「エレガンティナ、夕餉を食うたら、眠れんでも横になっとるんじゃぞ、一晩中槍を振り回したりするでないぞ」
「なぜですか」
「なぜではないわ! 当たり前じゃろう。寝とらんかったら連れて行かんぞ」
「カマス頭はどうするんです」
「儂とバーチェスで討ち取るわ」
「そんなの酷い! これだけ美味しいものを沢山食べられたら、十日くらい寝なくてもなんでもないじゃないですか!」
「それはそうじゃが、大事な戦いの前は十二分の力を発する為に大人しくしとくもんじゃ」
十日寝なくても平気なのは否定しないんですね。
晩御飯の後、エレガンティナ閣下は東の空に向かって「早く明けなさいよ!」とか叫んでいましたが、保護責任者の老師様に部屋に連れて行かれました。
お二人の間にはご子息が一人おられるそうです。初めてですね、老師様の男の子の話。
翌朝、なんだか不貞腐れた元締めと元気いっぱいのエレガンティナ閣下が老師様を挟んで朝食です。
閣下のやる気が物理的な圧力になっています。
大筏に乗り込んでから、老師様に「いい加減気配を消さんか」と言われて「はい」と答えた途端にエレガンティナ閣下がいなくなりました。
いるんだけど、見えているのが本物なのか判らない感じ。
老師様は最初からだったから不思議に思わなかったけど、急にやるとこうなるんですね。
逆にいきなり思い切り放ったら、亜竜でも空中静止するわけです。
全員戦闘モードに入った大筏が「狩場」に到着します。
定位置をゆっくり飛んでいるカマス頭の頭にレーザーが命中して、霊障壁での拡散がかなり派手なフラッシュになりました。
痛かったのかまぶしかったのか、口を開けっ放しにしてこっちに向かってきます。
「あそこで吠えよるか。六属性の嬢ちゃん、口の中を撃っとくれ」
「はい」
咆哮に合わせて口を撃たれたので、その後は閉じたまま突っ込んで来ました。
老師様と同じ手順で、エレガンティナ閣下も石突で打って仕留めました。
甲板に上がった閣下がずんずん近付いて来て、両肩を掴まれました。頑張れ斑狼の肩当。
「嬢ちゃんの肩を握り潰すでないぞ、武人ではないんじゃ」
「あっ」
老師様が止めてくれなければ、冗談じゃなしに握り潰されていたかも。
感動の仕方がおかしいエレガンティナ閣下は、落ち着くまで接近禁止になりました。
今までは討伐後に港に大型の海棲魔物が来ていたので、何日か討伐隊が居るのが当然だったので、必要がないのにエレガンティナ閣下は三日居座りました。
海は何が来るか判らないので、戦力はあればあるだけ安心なのですけど。
入れ替わりにやって来たインディソルビリス閣下も、挨拶が終わった途端に「まだ来ていませんか」と言いました。
物欲レーダーがお仕事をしたのでしょうか、丸一日待たされました。
咆哮を誘えるかもしれないので、外れてもいいから顔を撃ってみる事になりました。
ビームは弾丸と違って、出ている間に少しずらせますしね。
やってみたら、脊髄反射で咆哮するようです。
セネアチータ殿に口中を撃たれて、口を閉じて突っ込んで来て倒されるまで同じでした。
インディソルビリス閣下もずんずん迫って来ましたが、手は掛けられませんでした。
「これで、三大将が確認した。将官に相応しい働きである。少なくとも、准将であるべきである」
わたしが何か言おうとする前に、入れ替わった老師様に被せられました。
「儂等今まで三人で四匹しか獲っておらなんだが、嬢ちゃんは一月足らずで四匹呼んだんじゃ。実力に相応しい地位につかんのは、国に不満があるのではないかとの憶測を生むんじゃ」
「そうなるんですね。実は国王派じゃないと見られるとか」
「うむ、国内の派閥だけではなく、他国からの勧誘も起きる」
ううむ、めんどくさい。と思ったのをワイサイト助教授に感じ取られたようです。
「他所だったらいきなり中将だよ。国の准将と他国の中将と、どっちがいい?」
返事は、老師様でいいのかな。
「お国の准将でお願いします」
「そうか! そうっかあ!」
うるっさ! 咆哮かってくらい。老師様の横で固唾を飲んでいたインディソルビリス閣下も、またずいっと寄って来られます。
「バーチェスはあの年でカマス頭の仕留めをさせて貰ったが、更なる誉れを与えてやって欲しい」
「何をさせるつもりですか」
「何度も云うてるじゃろ。嬢ちゃんは竜殺しになるんじゃ。と云うか、儂等を竜殺しにしてくれるんじゃ」
「この少女が後に、飛竜落としのサピエンティアと呼ばれるようになるのを、この時知る者はいなかった」
「ワイサイト助教授、変なナレーション入れないで下さい。翼竜ならともかく飛竜なんか落とせる訳無いでしょ」
プテラノドンタイプやワイバーンタイプは亜竜で、背中に翼の生えた凶悪大トカゲが翼竜です。
飛竜は翼が六枚か八枚のワームタイプで、生涯を高空で過ごすと言われていて、たまに落ちている死体が見付かるだけで、上空を飛んでいるのさえ見るのも珍しいのです。
「後の翼竜落としのサピエンティアであった」
「翼竜なら落とすんじゃな」
「真竜狩りは武人の憧れである」
誰か、こいつ等殴って。
港に帰ったら訳の判らない宴会に突入するのは判っているので、遊撃でいるかどうかの話になりました。
将官となると、近衛の上の王家直属扱いもあるのです。身分の格の違いだけで、遊撃と仕事は変わりません。
実力で将官に成り上がった者が他所に行かないと誓うだけで、王家の安心感と求心力が違ってくるそうです。
叙任式の際に国王陛下の他に、第四子で十七歳の王太子殿下に忠誠を誓うだけなので、ちょっとセリフが多くなるだけです。
国の中枢にいる老師様とインディソルビリス閣下にはとんでもない違いらしくて、無茶苦茶感謝されました。
王孫のバーチェス公子も感動しすぎて言ってることが妙です。
港に帰ったら、早速各方面に根回しされて、夕食前に宰相閣下と内務大臣閣下に直接遠話で言質を取られました。
式典系の話なので、外務省と交易省は翌日以降で良いそうです。
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