第14話 サピエンティア・アンシス・タチバナ准将
インディソルビリス閣下は、討伐後に大物が来るかもしれないので港に残り、わたしは、気が変わらないうちに王都に戻されました。
実家とは全く階級が違ってしまうので、新しく家名を作る必要があるそうです。
どうせなら前世に因んだものにしてはどうかと言われ、有名だけどあまりいないタチバナにしました。
家祖は真ん中に入るのがちょっと特別なアンシスになります。
同性の別の家を区別するためで、普通の本家の家長はメイヌ、分家はテスタです。
で、わたしはサピエンティア・アンシス・タチバナになりました。
二親等までの両親と妹もタチバナ姓に変わります。
正装として、カマス頭の飛膜で造られた鎧と、牙製の短剣二振りを貰いました。
何度もリハーサルをして、関係者以外は中将以上の列席の中、叙任式は滞りなく行われました。
真竜が呼べたら四人目の大将にするとのお言葉もその場で頂き、実質大将待遇になりました。
このままレーザーの威力が上がれば呼べるものだと、国中に決め付けられています。
なお、ロンタノのお父さんは国王陛下の乗騎フォルティッシモでした。
競馬馬程ではないけど結構子供がいるのですが、ロンタノははっきり言うとはずれの子だったので、国王陛下の乗騎の子をおおっぴらに名乗れなかったのです。
わたしの乗騎が御自分の乗騎の子なのも、陛下が大層お喜びでした。
その後、バーチェス公子のお母様サオファ殿下のお部屋で、インディソルビリス閣下、アミラチオ学院長、ミューザレイヌ殿のお父様の交易局次長から、改めてお礼とこれから先のお願いをされました。
身内や知古でわたしの部下になりたい人が、押し掛けて来ているようです。王家直属軍なら近衛兵からでも出世です。
こちらとしても部下を増やすとなると、この人達を頼るしかありません。
旅団では事務方も沢山雇わないといけないのです。少人数で名前だけ旅団という前例もあるのですが、私の場合亜竜の販売もあるので。
売るのは国一択でも、会計処理が凄いことになります。
こちらとしてはわたしの両親とセネアチータ殿のご両親を秘書官にして書類仕事の手伝いをしてもらう以外は、人選は偉い人達に丸投げです。
秘書官は四人とも大尉になりました。そのくらいの地位なのです。
隊員はみんな一階級昇進しました。グラシア殿、アマーレ殿も少尉なので全員将校です。
ワイサイト助教授も、レーザーの知識をもたらした功績で一階級上がって中佐で教授になりました。
腑分け大好きさんことデスモンタージョ助教授も、助教授のままですが一階級上がって大尉です。
戦力は今まで通り老師様の手勢の人が付いて来るのですが、わたしの部下にして欲しいと老師様に頼まれました。
どう考えてもわたしの方が老師様より長生きするので、老師様が亡くなってから引き継ぐより、旅団創設の時から部下になっていた方が良いと。
人選の根回しは既に終わっているのですが、正式に叙任されなければ動けないのがお役所です。
今日から一斉に動いて、お引越しも行います。
なんと王家直属旅団の兵舎は、二の丸的なお城の一部なのです。
妹のアマビリアは考えるのを諦めたようです。ロンタノとムーたんが遊んでくれます。
誘拐される恐れがあるので、適性次第ですが十五歳までは学校に行かず、家庭教師に来てもらいます。
旅団となると救護隊として自前の製薬隊もいてもいいので、薬学科でずっと付いて来ていた、優秀なのにコネがなくて製薬局に入れなかった人を雇ったのですが、なぜか薬学科長も引っ越して来ようとします。
「お部屋余っているじゃないですか。ここの方が広いのですよ。人間用の部屋だけでなく乗騎舎も。ロンタノはアレグロと一緒にいたいでしょ」
「余ってるからって、他人の家に勝手に住んじゃだめでしょう、ここはお城ですよ、科長は自宅があるでしょう」
「ここは貴女の裁量権の内です。実務系は発展性がないので、学院から頂けるお長屋が狭いのですよ。ここの将校用宿舎の方が広いのです」
この人がわたしに付いて来て高級素材の処理をした方が国益になるので、公式に許可が出て棲み付かれてしまいました。
本当に旅団が入れる広さの処に、事務方入れても大隊程度の人数しかいないので、がばがばなんですけどね。
貧乏な優等生にも居住許可を出しました。
トーアベヒター科長とワイサイト教授もずっと来ていて、ガラデニア科長とセネアチータ殿の所に棲み付いてしました。
薬学科の科長の直接の指導は、旅団宿舎の空き部屋で行われることになりました。
学生の時から王室直属軍に出入り出来るので、超エリートコースです。
製薬隊のために乗騎の山羊を二十騎雇いました。
その内陸生の亜竜を獲りに行くので、万が一の場合の逃げ足の確保です。
今までに断られた光属性三級の人達にもう一度声を掛けて、三人が入隊してくれました。
攻撃霊法師を選ばなかった文人は、隙あらば入りたい武人とは逆です。
見ているだけでいいと言われても、亜竜を狩る現場に行くのは、それだけで恐ろしいのですね。
事務系の希望はいくらでもあるのですけどね。
わたしと外務省が対立したら弊害がありそうなので、ラメール様のお祖父様、外務大臣閣下から正式な謝罪がありました。
ラメール様が軍に入られたのを、学界に勢力を伸ばそうとしたご自分への回答と取られたのだそうです。
外務大臣なんて大人しい人が出来るとは思いません。
何とか落ち着いて、これから先のことを話し合います。
いくら王様の食客みたいな身分でも、遊んでいる訳にはいきません。
むしろわたしの能力を上げないといけないのです。
国だけではなく友好国からも亜竜素材の定期的な供給と、将来の真竜狩りを期待されて、各国の大使からのお祝いも沢山貰いました。
「先づは、今動ける中将にカマス頭の仕留め役をさせたいのじゃが」
「何人くらいいらっしゃるのですか」
「近衛師団長が六人、四門将と北の大砦の太守で十一人じゃな」
王都守備軍は東西南北の門に分かれていて、纏め役の門将が中将で師団長は少将なんですね。
「先にバーチェスが仕留めて見せ、二匹目でやらせたいのじゃが」
「何か問題がありますか」
「いや、二十二匹獲るわけじゃ。あまり間隔を開けねば海竜も来兼ねないで、一月に四匹が限度か。半年以上同じ事をせねばならんが」
「お仕事なんて、そんなものじゃないですか」
「そうか、では、北大砦太守からじゃな」
辺境伯的な立場の大砦太守閣下は会った時から気合入りまくりで、老師様以上の大声です。上には上がいるんですね。
「よもや! 亜竜の仕留め役を仰せつかるとは! 感謝に堪えません!」
「亜竜だけではないぞ、嬢ちゃんは何れ真竜を呼んでくれる。中将は当然討伐隊に加える。嬢ちゃんは後百年以上生きるでな、精進すれば、今の少将さえ仕留め役になれようぞ」
「なんと! なんとおお!」
うっさいこの二人。ちなみに、老師様とエレガンティナ閣下のご子息は北大砦の第三師団長で少将です。
無事に胸を石突で突いて倒せました。それは良かったのですが、薬学科長が、こんなに安全ならまだ作業ができない学生の優秀者も大筏に乗せて欲しい、と言い出しました。
全てわたしの許可が必要なんですね。
「乗れて討伐や解体作業の邪魔にならなければ構わないと思いますが」
「邪魔にならん者なら、乗せてええんか」
老師様が食い付いて来ます。パワーレベリングしたい人がいるんでしょう。
「それはもう、ご遠慮なく。国力増強になるのですから」
「そうか! そうかっ! すまんのう!」
何時もの事だと思っていたのですが、考えが甘かったのです。
闘志を内に秘めた、物静かな北門将閣下と一緒に、建築業者が漁港にやって来ました。
高級ホテルを建てるのだそうです。
外国の王族や大貴族の観光や継嗣のパワーレベリング用の宿泊施設です。
当然我が国の王侯貴族も利用します。王都に帰ったら、国王陛下ご夫妻が、ホテルが完成して孫のバーチェス公子がカマス頭を仕留めるのを見るのを楽しみにしているとおっしゃいました。
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