第15話 観光立国
東門将閣下の仕留めでは、それなりの大きさの他の船があっても大丈夫か試す事になりました。
兵隊用の宿舎はあるので、寝床なんか気にしない士官学校の優等生から選抜された五十人が、貿易港から回された軍船に乗り込みました。
しっかりタゲを取れるように、撃ってから思い切り睨みます。
普段と変わりなく、わたし目掛けて襲ってきたカマス頭は討伐されました。
学院長から、次は行政科の上位を参加させて欲しいと頼まれたのですが、実務系の科長二人もそちらの事情は把握出来ないので、苦学生が排除されないようにお願いするしかありませんでした。
随伴船の乗客を五十人増やして、自己責任で乗ってもらいました。
南門将閣下の際はいきなり百人増やして二百人になりました。
安全と判ればいくらでも希望者はいるのです。
元々揚陸艦的な大型軍船なので、船員と護衛の他に三百人は乗れますが、上流階級も乗るので、余裕を見てこれ以上増やさない事になりました。
表面上は特に問題もなく外廻り五人の中将の亜竜討伐は終わりました。
光属性三級の三人もレーザーを撃てるようになりました。
一旦王都に帰ります。
その間にホテルも完成したのです。
いよいよ近衛第一師団長が討伐に出発する日になりました。
ロンタノのお父さんが並走している一段と豪華な兵員輸送車が付いて来ます。
気にしなくて良いと言われたお二人が乗車されています。
落とし役としてインディソルビリス閣下、息子の活躍を見たいサオファ殿下も一緒です。
道の駅では、日除けベールでお顔を隠されたお二人とサオファ殿下が楽しそうに買い物をされました。
こういう所の食べ物って美味しそうに見えるんですよね。大体味が濃いけど。
お父上とかお母上とかおっしゃったら、駄目じゃないんですか? ほとんど王城からお出にならないサオファ殿下が誰だか判る者も、この辺りにはいないでしょうけど。
ベールは単に日除けなんでしょうか。
バーチェス公子は大きな籠を持たされています。収納に入れてしまうと、何を買ったかわからなくなりますからね。
各国の王侯貴族が頻繁に通うようになったら、ここも拡張しようなどとおっしゃっています。
その為の視察、ではないでしょうね。
出発前に王良陛下からお声掛けを頂きました。
「後五人するのですね」
「左様で御座います」
「陛下、もう一度来れませんか」
「第三師団長は来月であるな」
「はい」
「第五、第六師団長が再来月なれば、二度来れよう」
御心のままに。
既にカマス頭が定位置にいるのは確認済なので、翌日御前試合になりました。死合いですね。
万が一を考えて老師様が両陛下の前を守りましたが、不測の事態が起きる事はなく、最早ルーティンワークとなった手順でカマス頭は仕留められました。
討伐後の周辺警戒は近衛軍に任せて、わたしとバーチェス公子は両陛下に呼ばれました。
サオファ殿下が戦士を労う癒しの霊歌を歌って下さいます。
ダウン系とアップ系を同時に摂取するのって、スピードボールとか言って危険なんじゃなかったかしら。
「いや、我が孫ながら見事。その年で亜竜の仕留め役が生業として行えるとは」
国王陛下は感極まって、それ以上お言葉が出て来ないようです。
王良陛下は呼び寄せた大きな孫を、黙ってよしよしされています。
代わって老師様が陛下のお相手をされます。
「ここでのカマス頭狩りが竜伐特務旅団の生業の一つではありましょうが、れえざあの嬢ちゃん、タチバナ旅団長が成長の暁には、翼竜も呼んでくれましょう。バーチェス公子なれば、真竜の仕留め役にもなれましょうぞ」
飽きないのかしら、この話。
「我が血族から真の竜殺しが出るか。タチバナ旅団長、我が国に栄光と繁栄を齎してくれよ」
「渾身を持ちましてご期待に添えたいと心得ます」
「おお、余は満足じゃ」
リアルで聞くとは思わなかった。
満足されてお帰りになるかと思ったのですが、第一師団長の討伐をご覧になる予定だったので、翌日もお泊りになられました。
両陛下とサオファ殿下は漁港の市場を視察されます。
貿易港の市場の方が大きいのですが、地元で消費して貿易港にも流れないような食材もあります。
収納すると冷凍より新鮮な状態でどこにでも運べるのですけれど、気分的に獲れ立てに価値があるように思うのも普通の感覚です。
わたし達は普段通り浜に行って、流木拾いとアサリ掘りの護衛です。
広い浜で大鴎を撃っていると癒されます。
魔物とは言え、生き物を殺して癒されるって、どんな生活なの。
三日後に無事に第一師団長は仕留め役を果たされて、御一行は王都にお戻りになられたのですが、入れ替わりにやって来た第二師団長は、王太子殿下のお供でした。
お目付け役の宰相閣下も一緒です。
「もう、母上があれが良かったこれが良かったとおっしゃってな、それ程なれば我も行きたいですとお願いして、否やはおっしゃれない状況であった」
ま、お国の将来を考えれば、一番パワーレベリングが必要なのはこの方なのですから。
入れ替えの時間があったために、待ち時間は一日だけで討伐戦になりました。
王太子殿下も第二師団長の討伐をご覧になりにいらしたので、居続けをされました。
学業は、宰相閣下がお教えするので構わないそうです。
わたし達は将来国の収入の中核になる上に年も近いので、仲間になりたそうに寄って来られます。
「学院長には悪いが、授業より学びが多い。卿等は近衛師団長が終わったら、別の亜竜を狩りに行くと聞いているが」
「マグナムグスフラメンタムのアウレウムの森のトカゲ頭を予定しております」
「あれを狩るのだな! 下り者が討伐されたとの記録はあるそうだが、こちらから狩りに行ける相手ではないと言われていたが」
全部ご存じじゃないですか。散々話題になっているはずなので、ご存じじゃない方が変です。
「アウレウムの森は、駄目ですね。危険過ぎます」
お目付け役が王太子殿下のご希望を斬って捨てます。
この世界の王は専制君主ではないので、例え陛下でも無理はききません。
「近衛の大爺が居れば恐れるものはあるまい」
「森の中では何処から襲われるか判りませんでな。お世継ぎの殿下をお連れする訳には参りませんわ」
老師様のおっしゃることは至極全うなのですけど、そんなところに連れて行かれるんですね。
「森でなければよいのだな。牛狩り山であれば予も行けるな」
「玉座を継がれます頃には、真竜狩りをお見せ出来るやもしれませんが」
「その前に走り鎌狩りを見せてくれてもよかろう」
もはやそんな先の話まで、国の上層部では周知の事実です。
この国の支配領域の西端に小山の北側に大平原があって、その北の森に、前足の三本の指に一本で大鎌になるような爪が生えた、一匹で死神六人分の、これでも真竜ではないと言われる最大の亜竜が棲んでいます。
その森のさらに北の山脈には、翼竜が棲んでいるのです。
「あそこは遠過ぎますでな。真竜狩りなれば王族方にご覧頂けるものですが、亜竜では行く手間と時間を鑑みれば、基礎能力の増強であればカマス頭の方が効果的ですわい」
あんまり我がままを言うと廃嫡されてしまう恐れもあります。
年齢と能力的に順当なのでこの方が王太子なのですが、第三王子殿下のお子でも構わないのです。
第三王子殿下は女性ですが、先々代様の直系男子のお子がいらっしゃいます。
竜伐特務旅団は真竜と対峙するための度胸を付けるために、強力な亜竜を狩る必要があります。
「カマス頭狩りは、可能な限り参加してよいのだな。出来得れば予も属性弾を撃ちたい」
絶対無理な要求をしてちょっと譲歩して見せる、例の交渉術だったようです。
国王陛下と協議の結果、風属性一級なので風気弾を撃って当たっても当たらなくても、闘気弾の距離になったら下がって頂く事になりました。
安全第一なので、ご自分で下がらないと両脇の護衛が引き摺って下げます。
ちょっと不安要素が入ってしまいましたが、第二師団長の討伐戦は無事に終了しました。
ただ属性弾を当てただけではその他大勢なので、王太子殿下は亜竜殺しは名乗れません。
この辺りは次期国王でも忖度されないようです。
十匹以上の討伐戦に参加しているグラシア殿、アマーレ殿、ワイサイト教授でも名乗れません。
しかし王都では、王太子殿下が臆することなく亜竜に攻撃を当てられたのが、大そう評判になったのです。
そして、あと四回したらしばらく他所に修行に行くと公表したので、乗船チケットが高騰して結構な臨時収入になったと、財政の総元締めの宰相閣下からご報告を頂きました。
あくどい商売していますね。
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